拙者、セーラービキニな予言者にUMAです
さらに廊下を進む。
サイドに続く教室が途絶え、ホールに出る。
ホールと言っても、廊下が開けて円形になったような小スペースだ。
パキラやサンスベリアなどの観葉の鉢が数個置かれ、右手壁側に掲示板がある。
校内イベントの告知やら何やら……生徒たち皆が最も集まりやすい廊下中央、トイレ近くのミニ広場。
左手に水飲み場があり、トイレはその裏。手前に男子トイレで、奥が女子トイレ。
そっちに行こうとしつつ、ふと向こうの廊下に目をやると。
あ。こっちに来る少女が一人いる。
あいつもうちの生徒? と思ったけど。
……なんだ、あいつ? あんな異様な姿って!?
その少女は、頭の上から全身を覆う透明なベールを被っていた。ちょうど頭部側面につつじか何か、ピンク花のオブジェが付いたやつを。
そのベールの下に着ていたのも、普通の制服じゃなかった。
もとい、一見制服に見えるけど、何かが違う。質感が微妙に?
いやいや、それだけでなく、見た目そのものが。普通のセーラー服に比べて、布面積が圧倒的に狭いのだ。
目を凝らすと。
……ビキニぃ?
白地のブラに黒い襟があって、胸中央に黒ネクタイ。下は黒いミニスカート。肩から両腕を出し、お腹に長い足を見せている。セーラービキニってやつ?
靴下も靴も履いていないようだが……、そこは問題ないだろう。
というのも、これこそ先に言うべきだったが、その少女には、服装よりももっとおかしなところがあったからだ。
彼女、自分の足で歩いていなかったのだ。
浮遊してたとか飛んでたとかじゃない。見たこともない奇妙な四本足の動物の背の上であぐらをかき、その背で揺られながら、こっちに向かっていたのだ。
あぐらの上に、濃緑のミニ座布団が敷かれている。
さらにその上に、透明なガラス玉があった。
あの変な動物って何?
……UMA(未確認生物)?
あまりにも異形だった。
そいつの頭部は鳥で、長い嘴に赤いとさかがある。
首から上全体が、赤や緑、白、オレンジなどのカラフルな毛に覆われている。なのに、胴は鹿のような茶毛で、ぽつぽつと白い斑があって。
前足上部(人間で言えば肩辺り)から羽根が生えている。
それらが今は閉ざされ、恐竜のごとき爬虫類的な鱗ばった皮革張った足で地を踏み、歩いていた。
お尻に、先が矢印状の黒い尻尾をぷらぷらさせながら。
なんだ、このゲテモノ……!?
僕が知る限り、この世に存在しない(であろう)と思われるUMA。
どこかから来たんだ、この不思議少女&未知の生物は?
マジで、この学園はおかしい。
また、変なのに出くわした。
緊縛の少女に続き、動機不明のコスプレ娘&UMAに。
少女とUMAをスルーし、そのままトイレに行っても良かったのだけど、彼女の方から声をかけてきた。
「おい。そこのあふろ~!!」
あふろ? そうだ。僕は強度天然パーマなのだ。
昔の黒人シンガーみたいに、頭がもじゃもじゃして、前の学校にいた頃から、「雷様」とか「ゆるパンチ」とかパッとしない綽名を付けられていた。
足を止め、UMAに乗った少女がこっちに近付いてくるのを待つ。
「あふろってなんだよ? 僕は竹下佑二。一年C組に来たばかりの転校生」
「へ~。みやっちって言うんだ~。(さっと、ベールごと右手を上げて)よろしくな。拙者は神鳥麗那。同じく一年C組だよ!!」
抜き打ちで愛称で呼ばれちょっとビビったけど、「雷様」とか「ゆるパンチ」よりはフレンドリー?
彼女の声音が、ちょっと新鮮だった。
なんか聞いたことがない感じの声質――基本、女の子らしいクリスタルボイスなんだが、ドスが利いているというか男っぽいというか。妙なビブラートがかかっていて。
少女声なのに少年っぽい、なんか鼓膜をくすぐられる感じの。
それに、使う主語が「拙者」なんて、そんなの現実で言うやつ初めて見たよ!?
「きみクラス一緒じゃん!! ってご免、まだクラス全員の顔と名前覚えてなかった」
「じゃあ、これから仲良くしような♪」
……こいつって見た目は超個性的だけど、性格は気さくなやつ?
話してみたら、案外、漫画とかゲームの好みが合って、意気投合できたり???
そんな願望を込めつつ、「きみって何者?」と問うてみれば。
「何者ぉ?」
UMAの上で、コス少女が小首を傾げていた。
薄いベールの下にその表情が垣間見えて。
……美形だ!!
卵型フェイスに黒髪ポニーテール。
睫毛が長い釣り目に、控えめながらもくっきりした鼻梁。
きりりと締まった唇に、白いベールの下からでも、より白く映える雪肌。
スレンダーで胸はさほど大きくないけど、セーラービキニゆえにその形の良さが引き立つCカップで。
「高校生がそんな恰好とかおかしいし、その動物ってなんだよ? この世のものとも思えないぞ」
「拙者のこと? 拙者は予言者だぞ」
「はあ?」なんだよ、その悩ましい自己紹介は。
「予言者って何?」こっちが追及してみれば。
「拙者はこれまで多くの予言をしてそのすべてを当ててきた、的中率百パーセントの予言者なのだ。それも、妄想予言という、この広い三千世界で拙者しか使えぬスキルを有した天才的とも言える。そして、このペットは時空間を移動できる超常動物、キメラのエドガーKTだぞ♪」
はあああああああ????
いったい今、この少女は何を滔々と語ったんだ?
妄想予言に時空間移動アニマルぅぅ? なんだよ、その混沌&SF(すごく不思議)な話って。
そんな睫毛ふるふるさせたって、言ってることのうさん臭さは変わらないぞ。
肉食鬼畜のお次は重度厨二神!? 漫画とかゲームの好みが? 絶対合わないよ、こんなやつとなんて!!
「妄想予言って何!? それに時空をワープする動物って?」
「此界人のきみに、それを説明すると長くなるからここでははしょるけど、妄想予言者っていうのは、そのまんま、妄想から予言を引き出す恐るべき神秘家なのだ。あとKTは、『時間と空間は相対的というよりもアメーバ的』という至極柔軟な発想にのっとった、時空超越スキルの持ち主なのである」
「はいぃ?」
此界人? 柔軟な発想ぅ?
つかみどころのない名詞に、こっちの理解の邪魔にしかならない修飾語。さっきより得体の知れない話になっているんだが?
「くるぅ、くくるぅ♪」
と、そこで、鳩みたいにUMAが喉を鳴らし出して。
「きみの言うことが高踏すぎて、さっぱりついていけないな。一から説明してくれないか? まず、きみが予言者、それも妄想予言者なるものであることについて」
「分からないぃ? この格好を見れば分かるだろ? 拙者が予言者以外の何者でもないってことが」
「ほあ!?」
その恰好が予言者?
白ベールにセーラービキニ、謎の動物をペットにした少女が?
僕の常識に従うなら、その姿に最も近いものは花嫁なのだが、こんなゾッとするようなUMAに乗った花嫁って……、いないよな。
予言者ってのがどんな姿をしているのかだって、会ったことないから知らないし。
「それが予言者ねえ? そういうもんなのか。うーん。なら今、何か予言してみてよ。そうだ……僕の将来とか。絶対当たるなら、そういうの一度聞いてみたいし」
「いいわよ、その程度なら。そんなの簡単。きみのごく近い将来を占ってあげるぅ♪」
UMA上の彼女が、少年みたいな少女の声を出して。
そのあぐらの上で、ミニ座布団の上のガラス玉をこすり始めて。
「そのガラス玉って何?」
「ガラス玉じゃないわ。これって、ユーフォルビア界にある、ペテログロマって透明な石から作った念球なの。此界にある水晶球に似た物質ね。拙者の妄想をビジョンにしてくれる秘宝なんだぞ」
ユーフォルビア界ぃ? ペドマグロ? 妄想をビジョンにぃ!?
何言い出すんだ、この厨二。
てか、こいつって本当に異世界人なのか?
その台詞をまんま受け入れるなら。
見た目、普通人っぽいけど、あんなUMA連れてるし?
それはそれで納得が行く話でなくもないけど、異界とか言われてもな。お粗末すぎるぞそれ。厨二疑惑有力。
「ツッコミどころ満載な台詞はいいから、占ってくれよ。その結果次第で、きみの予言者としての真価が分かるから」
声を低くして僕が言えば。