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猿ぐつわ&縛られた巨乳少女が!!

「はあ……はあはあ……」


 猿ぐつわをし、赤い縄で縛られた少女が廊下で寝ていた。

 体を横に向け、視線をやや下に向けて。

 後ろ手と両足首を縛られ、胸の谷間とその上下に縄を食い込ませて。

 ただでさえ豊満なその部分――Eはあろうかという双乳を、強調させられるかのように。

 何があったんだこの()に?

 も、もしや? 何か事件にでも巻き込まれた? 

 悪意ある何者かによって、ここに拉致された!?

 でも、うちの学校の制服着てるし。よそから来たわけじゃない、ってことは、まさか……。 

 校内放置プレーNOWぅ!? なんてこと、あるわけないよな?

 妄想じみた推理に走る僕の意識を覚ますように。


 じじじじじじっ!!


 地味につんざくような機械音がして。

 この音って? 僕は反射的に上を向く。

 天井に監視カメラがあった。それが作動する音だった。

 その時気づいた。このカメラも、今この廊下上の異様な光景を捉えているんだって。

 木造建築をモダンに改装した、ビニールコーティングが施された板張り廊下の上。

 トイレに行こうと歩いていたら、途中でその奇景に遭遇したのだ。

「うぐ……うぐぐぅ……!!」

 猿ぐつわをした彼女が、必死で何かを言おうとしている。

 けど、それがうまく言葉にならないようで。

 うぐうぐと、ひたすら呻き続けている。額にびっしょりと玉の汗を浮かべ、大きな目をさらに開きながら。

 か、可愛い……!! 

 そんな状態でも、というか、そんな状態ゆえかさらに?

 色白肌に、十代らしからぬ鮮やかな金髪ロング。過度の染めは校規違反だから、おそらく地毛? ぱっちりした瞳に通った鼻梁、薄緋色の唇。端正な顔立ちが際立っていて。

「ど、どしたの。きみ?」

 僕は、少女のそばにしゃがみ込む。そのまま、彼女の首の後ろに両手を伸ばし、ホックをかちゃり。猿ぐつわをはずしてあげる。

「んはああああ!!」

 堪えかねていたように、彼女が二酸化炭素を吐き出して。

「助けてくれてありがと♥」

 そう言ってくれたのはいいが、その後なぜか……。

 恩人であるはずのこっちに向かって、廊下中に響き渡りそうな甲高いアニメ声でこんなことを言ってきたのだ。


「うっしゃぁぁっ。獲物引っかかったぁぁ!! うおおお!! すっげー、男だぁぁぁ!! よだれ出ちゃうぅぅぅ!! めっちゃ男食べたいぃぃ……!!」


「”ええええええ!?」

 なんだこいつ!? そんな突拍子もない台詞って!? 

 僕を食べたいだって? なんだそれ!?

 白肌なこめかみに青筋を立て、本気の形相でそんなこと叫び出した彼女と

「親切で助けてあげたのに……なんでこんな!?」

 予想だにせぬ台詞に引き気味な僕の目が合って。

「きみは、もう罠に引っかかった子羊だよ。すっごく美味しそう♥ 全部食べちゃいたいぞ!!」

 ぱっちりお目々を、星が三つくらい浮かんでるみたいに煌めかせながら。

「…………何言ってんだ、きみ?」

 さっぱり意味が分からない、ぞ。

 罠って何? それに食べるって? 

 だいたい、この上から目線って何様のつもり???

 謎すぎる彼女の台詞に次ぐべき言葉を失いそうになっていた僕だったが、冷静に聞いた。

「罠って、きみ、ここでそんな恰好になって、助けてくれる者をハメようとしていたのか?」

「きみが普段気付いてないだけで、女の子ってみんな、男の子に向けて罠を張り巡らしてるんだよ♥」

「はあああ?」

 それ、罠の種類が違うだろ。 

「廊下で縛られるような恰好で女の子みんなが、男を待ち伏せしてるのか? しかも、食べるために? ってなんだよ、食べるって?」

「女の子に『食べる』を説明させるなんて、恥ずかしいよ、きみっ。それはもちろん、一つになるってことだよ♥」

 一つになるって、何それ? それってひょっとして!?

 ……初体験とかそういうの? じゃ、ないよな? ,まさか。

 そんなこと、いきなり要求されても……僕は至って普通な高校生であって……二人は付き合ってるわけでもなし……こっちの憧れはクラス委員長だけであって……不真面目にそんなことしてしまう関係なんて 絶対いけないと思うし……じゃなくて、何もかもありえないだろ!! 

 何勘違いしてるんだ僕は!? 

 口の中から牙みたいな犬歯をちらつかせ、上目使いで思わせぶりなことを言ってきたアニ声に翻弄されつつも、聞き返す。

「一つにって、だから、それってなんなんだよ?」

 ところが彼女、こっちの質問には答えず、ぱちぱちっとウィンクしてきて。

 か、可愛いっ。のは認めるけどさ。

 なんのアイコンタクトだよ、それ? 何訴えたいんだこいつ? 

 と、こっちが怪訝になったところに油断大敵ぃ!? 

 廊下からがばと上半身を起こした彼女が、そばにしゃがみ込む僕にやってきたのだ。

「がっぶぅぅ!!」「いってえぇぇえぇぇえぇぇ!!」

 えっと。こっちの耳に噛みついてきたぞ。

 ……こいつ、ほんとに僕を食おうとしてきた!? 本物の人喰らい(ラミア)ちゃんかよ!? このまま行ったら……僕、全身啄(ついば)まれたりするのか……!?

 って、何をぼやぼやしてるんだ!? 

 なぜか知らないけど、唐突にこんなヤバい展開になってるんだ。余裕こいてる場合じゃないぞ!?

 この少女って何者なんだ? 

 天使みたいなクラス委員長とは大違いだ。まるで悪魔のごときこの肉食娘は!?

どうなってるんだ、この学園!? 廊下での序・破・急的な展開に、心底、身の危険を感じた僕は、耳にかぶりつく少女の頬を、がしっと両手で抑えていて。

「”むー、”むー、”むー」

「観念しろ」と、柄にもなく言い放つなり。

 ぶいっ、ぶいいいっ。彼女の両頬を挟みながら、右手の人差指と中指を、その鼻腔に突っ込んでいたのだ。

 ――相手が相手だからって、普通の高校生がそんなことしちゃダメだろ?

 そりゃそうだけどさ。僕だって、クリティカルな状況に陥っていたんだから。トイレに行こうとしてただけなのに、得体の知れない少女に食うか食われるか……そんなサバイバルに突入していて。

 これくらい、人喰らい(ラミア)から身を守るための正当防衛だぞ? 

 って、正味の話、こっちも気が動転して、無我夢中でどうしようもないことしてただけなんだけど(泣)。

 ともあれ、こっちの勢いが功を奏したのか、僕の耳から口をはずした彼女が。

「ふごっ、ふごごっ。あにふんだ~!」

「きみ、自分の立場を弁えてるのか? これ以上、鼻を弄られたなかったら……豚鼻になりたくなかったら……」

 って、僕もなんなんだ!?  緊縛少女相手にこんな警告って!? 

とは頭の片隅で思ったけど。

「ふご……ふごごぉ……!!」

 鼻に指が入ったまま首を振る少女に詰問した。

「質問に答えたまえ。さっき言ってた『一つになる』って、どういうことだよ? その答えによっては、この指を抜いてやってもいいが、答えによってはどうなることか……!!」

 彼女の方は、鼻詰まり気味ながらも元気なアニメ声で。

「ふごーふごー。知りたいか? じゃあ、教えてやる。おまえは、これからあたしの食糧(エサ)になるのだ。あたしに食べ尽くされて、我が体内で消化され、血となり肉となる。つまり、それが一つになるってことで……うん。さらに言うなら、おまえのいらない部分は、あたしのうんこになって排出されるのだ……ふご、ふごごぉ!!」

 あたしのうんこぉ!? 僕はさらに気が動転して。

「ふんぎゅあああああん!!」

 彼女の鼻孔に、より深く二本指を突っ込んでいた。

 こんな鬼畜には、きついお灸が必要だ(たぶん)。

 転校してきたばかりで、ラブ&ハッピーな学園生活を送りたいって本気で願っている僕に、何も悪いことしてないのにこんなのって……。

 いつしか彼女を上回る鬼畜に自分がなりつつ、内心そう思っていた。僕もとんでもないバカだ。

 豚鼻少女が「ふご、ふごごぉ!!」な図だけど、こんな顔になっても彼女って可愛くて。

 美少女が変顔するとかえって魅力倍増ってお約束だけど、その例に漏れず……って、なんかムカつくぞそれ。こんなヤバいのが見た目だけキュートって。

「どうやらここは、こっちが大人になった方が利口のようだな」

 冷静になった僕は、彼女の鼻から指を抜き、頬から両手を外した。

「ふ。きみも自分の立場ってやつが、やっと分かったようだな。食われる側の心構えってやつが」

 まだそんな戯けたこと言う人喰い少女(ラミア)

「うん。きみの口は閉ざしておいた方がいいってことがよーく分かった」

「”えええ!?」

 もう一度かちゃりと。

「うぐ……うぐぐぅ……!!」

 猿ぐつわをはめてあげた。

「んぐぐううううう!!」

 またも喋れなくなった彼女が、目を見開き、足をばたつかせている。でも、白黒縞のニーソを履いた両 足がくるぶし辺りで縛られているから、丘バタフライでじたばたじたばた。

 制服スカートの下から見える白い生足が眩しいと思いつつ、僕は立ち上がった。

「うぐう……!! うぐぐう……!!」

 聞こえない聞こえない。何も聞こえてない。

「そんなとこで寝てると風邪引いちゃうぞぉ」

「うっぐぐぅ~~~~~~~~っ!」

 敵意満々にこっちを睨んでいるであろうその視線を、背中で感じていた。

 ……人喰い(ラミア)め。なんでこの学園にいるのか知らないけど、普通な生徒を怒らせるとこうなるんだ。

 後ろから聞こえる呻きアニ声(って聞こえてるじゃんっ)には耳を貸さず、ドキドキしながら目的のトイレを目指す。

 じいいいい。最初から最後まで様子を見届けた監視カメラが、こちらを見送って音を立てていた。

 ……僕、やり過ぎた? 

 いや。やり過ぎでもなんでもないことは、間もなくみんなが気づくことになるはずだから、ここでは釈明しない。あの状況で僕がしたことに一つも間違いはなかったし、どころか、あの少女ときたら、あんなことになっても可哀想でもなんでもない、恐ろしく禍々しき存在だということが、この後、如実に判明するから。


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