おっぱいに囲まれながら異界行き
「これで良かろう」
と魔王が言ったのだ。
本当にこれでいいのか!?
その判断は、到底僕には付きかねる状況だったが。
……壮絶という他ないシチュエーションだった。
まず僕がUMAの背の先頭に乗った。
次に魔王、さらに予言者という順で乗ったのだが、その座席(UMAの背中)の狭いこと狭いこと。二人乗りでも無理そうなスペースに三人とか、ほとんど試練で。
「ユウくん、もっと詰めろぉ!!」
「これ以上無理ぃっ」
完全押しくら饅頭状態。
「レナ。あそこに置き放しの水晶球はいいの!?」
「あれって水晶球じゃないからっ。ペテログロマだから!!」
「なんでもいいけど、どうすんのよっ?」
「あんな大きいの持って、KTに三人乗るのは無理だし、あそこに置いていくわ。後でまた取りにくればいいし」
秘宝とか言ってた割に、ぞんざいな扱いだな。
あんな大きくて重そうなもの盗んでいくようなやつもいないと思うけど。
「やはり三人乗りは不可能だったか? 拙者、KTのお尻から滑り落ちないように、ジュノにつかまってるぞ♪」
そう言って、予言者が魔王にがしっとしがみついたみたいで。
「どーぞご自由に。って、あんた何すんのよぉぉ!!」
……うん? 何してんだ?
ふと僕は後ろを向く。
予言者が、魔王の後ろから両手でがっちりそれを触っていて。
それというのは金髪少女の豊満すぎる双乳を……。
「ジュノのおっぱいおっきいぃ♪ 弾力あって超もみごたえありぃぃ!!」
予言者が魔王の後ろから、セーラー服の上を鷲掴みでもみもみぃっ。
「あ……あふふん♥ じゃなくて、やめろぉ、レナぁぁぁ!!」
しかし、何言われようががカエルの面に水。予言者は躊躇いもせず
「ジュノぉぉ、ここって何ぃ!?」
おっぱい中心部を両の人差し指でつんつんと突いていて。
「いやああああああああああん!!」
「いひひひ。魔王ともあろう者が、拙者の責めに悶えやがって。うふふ。もっと気持ちよくなりたがってるのかなぁぁ?」
……な。何戯れてんだ、こいつら?
予言者なんか、あんな目ぇ三角に細めて口角緩めていやらしい顔作って。別に百合とかそういう関係じゃなさそうだし、女同士でセクハラごっこか?
この状況でそんなことしてる場合かよ? 今から異界に行こうって時に?
なんか迷惑だぞそれ。二人でごちゃごちゃやってるから、関係ない僕まで足止め食らってて。
「悶えてなんかないぃぃぃ!! いやがってるだけだよぉぉ!!」
「ふざけるな。きみらが静かにしないと、KTが動いてくれない」
先頭の僕がそう言えば、
「そうよこの痴女!! 変なとこ触らないで落ち着きなさいっ!!」
「ごめ~ん、ジュノぉ。痴女だなんて、拙者の愛が足りなかったぁぁ? なら、もっと激しくやってあげるぅ♪」
セクハラ娘め!? 演技してるのかマジで勘違いしてるのか?
まあ、どっちにせよ、この異界人も魔王にも勝るとも劣らない変態であるのは間違いないけど。
「ジュノ、そんなに怒らないでぇぇ!!」
むっぎゅううう!! より深くおっぱいに指を食いこませ、指先までぷるぷると痙攣させ出す予言者に
「ああああああああ~~ん♥」
大口を開け、金髪を振り乱しながら嗚咽の声を上げる魔王。
もう見てられん、こんなの。
やりすぎだ。普通の高校生のレッドゾーンを軽く超えてやがる。
前に向き直った僕は、UMAの耳にすっと口を近付けて。
「KT。とっとと時空間移動しておくれ」
そう直接囁いたのだが、UMAは目を細め「くるるるう」と喉を鳴らしたものの、それきり微動だにしてくれなくて。
そんな状況にも関わらず、僕の声はしっかり後方に漏れ伝わっていたようで。
「ユウくん、そんなこと言っても無駄だぞ。KTは拙者の言うことしか聞かないからっ。乙女たちの憩いの場を邪魔するんでなぁいっ!!」
乙女たちの憩いの場ぁ?
こんな、露骨にいやがられてるセクハラが?
「あたしも魔王として命令する。KTよ、異界に行くのだ!!」
胸に触れる予言者の両手を、さも煩わしげに、魔王が両手で引っ掴んでそう言ったのだ。
強力な力でその手を封じられ、さすがに予言者も懲りたのか……。
「もうぅっ。ジュノがそう言うなら、KT行くわよ!!」
ご主人様にそう言われたら、UMAも動くだろうと思いきや。
やつはやる気なさそうに顔を上げ「くるっ、くりゅりゅう」と小さく鳴いただけ。その後ぴたり固まってしまって。
いささかも動く気配はなかった。
「さっきから思ってたんだけど。このUMAに乗って異界に行くって言っても、何をどうやって異界に行けるんだ? まさか、空飛んでそのまま別世界に行けちゃうとか、そんなんじゃないよな?」
そぞろに僕が疑問を呈すれば、
「違うよぉっ。KTって時空間を移動するのっ。単純な物理移動じゃない。そんなんだったら、鳥や飛行機でいいわけだからっ」
予言者がそう答え、「あたしが説明してやるぞ」と魔王まで口を出してきて。
「まず始めに理解しなければならないことが一つある」
「なんだよそれ?」
聞き返すと、魔王が言う。
「この学園が、異世界接続点であることについてだ」
「あー。なんかもうどーでもよくなってきた」
これでもかとばかりに続くこの学園でのSF(すごく不思議)話にそろそろ食傷していた僕が、前を向いたまま唇を「3」の形にして言っても、魔王は堂々と。
「そう言わずに聞け。あたしのような魔王やレナのような異界人、そして、そのペットであるUMAがこの学園にいる理由の説明にもなるのだから」
「そうか。じゃあ聞いてやる。でも、手短にな」
こっちが魔王の方を振り向いてそう言えば、魔王は右腕で金髪をかき上げながら語り出す。
「ほう、そうか。いい心がけだ。では、話は凄く長くなるのだが、転校生のきみにも分かるように一から説明すると……」
「って長えのかよ!? 頼むから、そこショートカットで済ましてくれただでさえ、異界行きが遅れてるんだから」
「ふぬー。せっかちなやつ。なら一言で説明してやろう。……あの岩は旅人の石なのだ。これでどうだ」
ぴかぴかと光る大岩を横目にしながら、顎をしゃくり上げ魔王が言った。
「その一言で済むなら、最初っからそう言ってくれ。旅人の石だと? あんな風に輝いてるし、UMAたちもあそこから現れたわけだから、何かあるのは歴然だと思うが、なんだよ、トリッパーって。そのイリーガルな響きは?」
「ユウくんは知らないだろうが、こういう岩は世界中にあるのだ」
「世界中ぅ?」
貴石宝石の類って、世界中の地下に眠っているからな。
ダイアモンドや金だって元は自然界から採掘されたんだから、こういう岩だっていろんなところに存在してておかしくない。
そう考える僕だったが、そこで少年みたいな少女の声がして
「世界中というのは、此界のあらゆる場所という意味でもあるが、それだけじゃないぞっ。文字通り、あらゆる世界、イコールどんな異世界にも、この種の岩、旅する石ながあるってことなのだ♪」
「もっと分からなくなってきた」
と迷える僕を説得するように、
「そして、この石と石の間は時空を超えて旅できるのだ。例えば、今我々がいる現代日本の高校から違う世界、魔王が支配する世界や石像が支配する世界や美少年が支配する世界などに行けるという、そんな不思議な岩なのだ」
と魔王がまとめてきて。
「なんだよ。美少年がいっぱいいる世界って?」
「ユウくん。そこに行きたいのか? ま、まさかきみ……!! 碧眼、色白で茶髪のITベンチャーの社長である美青年に『きみの熱いうぶべ茸から溢れる聖なる液略して聖液が欲しいんだ』などと、とんちきなことを言われて、BL的にあんなことやこんなことをしたいのかぁぁ!? 」
魔王が頬に両手当てて、なんの極悪勘違いしてやがる?
「うぶべ茸ってなんだよ!? そんなのがいる異世界、ぜってー行きたくねーよ!! てか、なんで僕ってどこに行っても盛りがついたみたいイヌみたいに、あんなことやこんなことばっかしたがるんだよ!?」
「いや、まあ、そこは若者の無軌道さゆえの過ちというか」
魔王め、そんな見当大はずれなこと言って、顎の下を左手でさすってるんじゃない。
「過ちぃ? んなもん犯すか!?」
「例えばの話だ。そういう異世界もあるかもしれないし、そんなところにも旅人の石経由で行ける可能性があるってことだ。ふふふ。そして、きみが道を誤ってあんなことをしてしまう可能性も」
「いや。その最後のやつの可能性はゼロ」
と僕が言うなり、魔王の後ろから予言者が話を合わせてきて。
「つまり、ジュノの話をまとめると、旅人の石は、時空を超えたワープ中継地点ってことだよ。この岩から各経絡につなっがっていて、あらゆる異界と行き来できる。ここが聖なる接続点ってのはそういうことで、この点を通じて異界の者が学園に来るようになっている」
超時空ワープターミナルかよ……、ここ。
そんなSF(すごく不思議)なものが現実にこの学園にあるって信じるのは超難しいけど、話自体は恐ろしく単純だな。
UMAの背上で僕ら三人が、そんな会話に熱中していると。
「おんや? あの岩にまた何か?」
ウィ……ウィィン……。
宝石質の大岩が、神妙にその赤や黄色、緑の表面に内部から光を滲ませ出していたのだ。
その異変に気付いた僕だったが、魔王はその状況を一切説明してくれず、
「ユウくん、気を付けて。しっかりKTの首に捉まってろよっ」
とその場のアドバイスだけしてきて。
「何かが始まるのか? ついに異界に出発するのか!?」
前振りもなくやってきたその瞬間に、こっちが焦るそばで。
「そうだよっ!! って後ろぉぉ、そこを触ってくるんじゃないぃぃ!!」
UMAの首にしがみついた僕は、もう前しか見ていなかったけど、後ろで何が起こっていたかは軽く想像が付いていた。だけど、そんなことはもうどうでもよくて。
ぴかぴかぴかぴかあっ!
じわじわと光り始めていた大岩が、さっきみたいに眩く強烈な光を発し出して。
「「きゃああああああああああああ!!」」
痛烈に白い、閃光のごとき光が辺りに迸った。
「うわぁぁっ。なんだこりゃ!! 目がつぶれるぅ!! 何も見えないぃぃっ!! って見えないんだけど、何かが起こってる感じがするぅ……この感じってなんなんだああ!? この奇異な、自分の体が縮んでいくような感じってぇぇ!?」
「KTが動き出したのよ!! ユウくん、準備はいい? って、今度はあたしが不安定になってきたぁぁぁ!! ユウくんにつかまるぞっ♥」
むっぎゅうううう。魔王が僕の腹に両腕を回して、背中に胸を押し付けてきて。
……当たってる。魔王当たってるぞ。
「ユウくん。変なこと考えるんじゃないぞ!!」
「一切考えてないっ」
UMAの首につかまる僕が前を向いたまま言うと、魔王は。
「考えてないだとぉ!? 美少女でEカップのあたしがこんなにユウくんに密着してるのに、何も感じられないっていうのか? あたしがそんなに魅力がない女子だっていうのか、このドジョウッコっ!!」
なんだよ、その逆切れ。
「いくら美少女でもきみは魔王だからな」
「くぬおおおお、魔王差別だーっ!!」
後方で苛立ちげな声を上げるや。
「く、苦しいっ。うげっ、やめろっ。その怪力で人の腹を締めてくるんじゃない!!」
背中にはさらにおっぱいがぐいぐいと押し付けられていたが、そんなことより腕の締め付けが激しすぎて。
「その怪力で僕を絞め殺す気かっ!?」
力を振り絞りこっちが息巻くも、魔王は魔王で。
「いっやあああああああ!! そんなとこもんでこないでぇぇ!!」
……またやってんのか、あいつら。
背中から魔王の胸が離れていたが、そこに予言者の手の甲が割り込んでいて。
「いひひ。このぼよよんは、拙者のものだ」
「別にレナのじゃないからあああ!!」
目を開けているのもしんどい光の中で、そんな風につながっている三人だった。
……本当にこんなので良かったのだろうか?




