悪魔との契約
目を開けて、私は目の前の男をまじまじと見つめた。
綺麗な男だけど、自分の部屋にいきなり連れ込むなんて非常識だと思う。
「ごめんねー。でもさ、君の部屋では全力出せなくてさぁ?」
「そんなこと、知らない・・・。」
「冷たいなぁ。でもでもぉ、ボクと一緒にいれて嬉しいだろゥ?」
何て気色の悪い発言だろう。
その自意識過剰の悪魔は艶やかな金髪を首あたりまで伸ばしていて動くたびにゆらゆら揺れている。
そして目鼻立ちはクッキリパッチリしていてて嫌みしかない。よく見ると左目だけ赤色に輝いている。右目は落ち着いた茶色。何処の国の人だろう。
一言でいうと細マッチョな体。その体を胸元のザックリ開いた黒い服で包んでいる。一見すると黒子みたいだけど、ジャラジャラつけられた銀色のアクセサリーが主張してる。
部屋も同じようにジャラジャラ飾り付けられていて、逆に虚しくなるような部屋。
「嫌だなぁ、涼香ちゃん。ボクの美しさに見惚れて声も出ないとか☆」
こっちが嫌だ・・・。
「さてさておいて、今の状況分かってるゥ?」
是非とも置かないで欲しい。
「君は、ボクと契約を交わして、彼ともう一度逢う!OK?」
さっぱりOKじゃないんだけど・・・。
でも彼に会いたいな。逢いたい。ああ、逢いたい・・・!話しかけたい。笑いかけてほしいな・・・。
「おぉ、そういうの好きだなぁ・・・未練たらたらな感じィ?」
気持ち悪・・・。
「そうだねぇ。でも彼と会うためには、いろいろしてくんないとぉ?ねぇ。」
本当ヤな奴だなぁ、悪魔・・・。
「あ、もちろん魂も貰うヨ?」
「いろいろって何・・・。」
「ボクはさぁ、女の子の笑顔が好きなんだよねぇ?」
知らない。
「だからね。涼香ちゃんがとびっきりの笑顔を見せてくれたらぁ、合わせてあげる☆」
「笑顔・・・?」
「うん!ちなみにボクの事は【M】だよん。憶えててね?」
「嫌・・・。私は、彼の事だけを憶えて生きてくの。」
「病んでるね?でも、その彼に会うためには、笑わなきゃならないからね?」
笑う。笑う?彼がいないのに?彼がいなのに、誰のために笑うっていうのよ。
彼がいないと、私は表情を作る意味を見いだせない。
涼香ちゃんのツッコミが鋭くなってきているのは、時が経つにつれ苛立ちが募ったからでしょう。