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5.それぞれの歩み

 レインとクロウがクエストを受領した小さな山村へと再び姿を現したのは夜の帳が完全に辺りを包み、梟などの夜の生き物が活発に動き始めた頃である。

 NPCに生活サイクルがあるのか、依頼者である村長は昼間の場所には既に姿はなく、変わりに村長宅のギィギィと音鳴らす木製のロッキングチェアーに腰掛けていた。二人の来訪に驚きつつも微笑を絶やさずに出迎えた村長に、二人は幾許かの安らぎを覚えながら件の依頼を報告する。

 村長はその報告を聞きながら大層驚いた表情で二人を交互に見やり、次いで快活な笑みで感謝の言葉を嵐のように振りかけた。

 そんな言葉の羅列にくすぐったさを感じつつも、レインはすぐにシステムウィンドウを開いてクエストの戦果を確認する。


 五〇〇〇ガルド。

 赤獅子のマント。

 三〇〇〇経験値。


 ガルドと経験値はこの際省くとして、レインは残る一つである戦利品の説明を閲覧して笑みを深くした。

 この時点で装飾品を入手できたのもそうだし、何よりレア度の位階が既に<レア>に届いているのは僥倖ものだ。現在の装備品全てが<コモン>ということを考えると、この赤獅子のマントは一線を画した装備となるだろう。事実、胴と腰の装備の防御力を足してもこのマントの防御力には届かないのだ。


 苦労した甲斐があった、そんな胸中の想いを秘めて二人は村長宅を後にする。

 流石に夜の森を闊歩する気概も体力も無かったレインとクロウは、村の中にある質素な宿でツインの部屋を割り勘で予約し、備え付けられたスプリングもなにもない木製の土台に家畜の毛か何かが詰め込まれた布団と真っ白なシーツに腰を降ろし話し始める。


「改めて、俺の名前はレイン。見ての通り、ソロの鎌使いで一応DDダメージディーラーだ。

 今回は本当に助かったよ。お前の御蔭でデスペナが発生することなくクエストを攻略出来た。お前があの時来てくれてなかったら、俺は今頃城塞都市で一人項垂れただろうよ」

「なに、気にするな。私だってお前と同じクエストを受注していたんだ。タンクだからお前よりは受け切れただろうが、一人では削りきれなっただろうさ。

 それを考えると、あの邂逅は私にとっても都合が良かった。まさか私以外にこの時点でこの森に踏み込んで、挙げ句の果てにボスモンスターをソロで狩り切ろうとする酔狂な存在がいるとは思っていなかったからな」

「俺はあのクエストがボス討伐だとは全く思ってなかったけどな……」

「ということは、まさかお前は……?」

「予想通り、レアモンスターを狩るつもりであの<ハイオーク>に喧嘩を売ったというわけで……」

「……何と言うか、お前は私の予想を一回りも二回りも超えて行くな。

 まさか鎌使いがソロに留まらず、型破りの超近接戦闘をしてるとは夢にも思わなかった――いや、聞いたことがあるな。

 数多くのVRMMORPGで身の丈を超える大鎌を手にしながらモンスターを刈り取って行く死神タナトスが居ると。もしや……?」

「まぁ、間違いなくそんな希少で酔狂な物好きは俺くらいだろうな」


 共闘した故だろうか、二人は元来の気心の知れた間柄のような態度で息苦しさを感じることなく会話に没頭して行く。


「これも何かの縁、フレンド登録でもしておくか?」

「お、それいいな。そっちから送ってくれよ」

「了解」


 フレンド登録とはプレイヤー同士が互いの状況を知ることが出来たり、個人チャットが出来たりするなどの便利機能の一つである。

 一種のデスゲームと化したこの世界で生き抜くには、こうしたプレイヤー同士の交流は必要不可欠であり、また情報のやり取りなどが攻略の足がかりとなる。

 どんな状況でも人脈や情報と言うのは重要なファクターで、それを蔑ろに出来る物ではない。


 レインとクロウが共闘したように、この<ヴァルハラオンライン>には数多くのボスモンスターがこれからプレイヤーに立ち塞がるだろう。

 その時の戦闘でも理解できるように、ボスモンスターは幾ら個人の能力が高かろうとも撃破に至ることは少ない。それも、<ハイオーク>などは序の口で、ダンジョンの最奥などに潜む協力なボスモンスターや大規模戦闘級レイドボスモンスターなどは個人で太刀打ちなど不可能だろう。

 そんな時にこそ光り輝くのが、プレイヤー同士の繋がりだ。今でこそその数も少ないが、ダンジョンなど攻略の難易度が上がれば上がるほどプレイヤー同士はパーティーを組み始め、詳しい場所は未だ解明されていないが、前情報からギルドも立ち上げることが可能と言う。

 一人の力などモンスターからすれば所詮小さなものだ。だからこそ、プレイヤーは手を取り合い、それこそがプレイヤーだけが持つ可能性の種。その種を芽吹かせ、大樹へと育むことこそがこの世界を攻略する鍵となるだろう。


 そうして二人の声音が次第に小さくなっていき、それが寝息へと変わるまで幾許かの時を要した。

 時計の針は既に日を跨ぎ、寝静まった頃には星々が煌き温かく大地を月明かり共に照らし上げていた。


◇◆◇◆◇◆◇


「レイン、左から挟み込めッ!」


 クロウの低いテノールが鋭く飛ぶ。

 それを聞き遂げるまでも無く、レインは既に左――クロウと対象を挟む対角線――に場所をとり、先手とばかりに新調した鎌であり新たなる相棒である<オーバーサイズ>を振り被る。

 レインの姿は今までと異なっており、オークの皮を惜しげなく使った獅子シリーズでその身を包んでいた。これは一度レインとクロウは<城塞都市ガーランド>へと戻り、NPCの鍛冶屋などを周って装備を一新したのだ。御蔭でモンスターからの被ダメージは大きく軽減し、ライフポーションなどの支出を抑えることに成功している。反し投資として、巨額とまでは言わないが手持ちの半分程度は装備を更新するのに消えて行った。


 <オーク>の皮は焦げ茶色というところだったが、レインが装備している獅子シリーズの一式は黒に近い色をしており、ゆったりとしたローブ調のそれと頭をすっぽりと覆うフードはまさに死神タナトスに相応しい出立ちで、握る大鎌は魂刈り取るそれと同額の存在感を放っていた。

 しかし、そんな動きにくそうな服装でもレインの俊敏さは健在で、下半身が見えない御蔭で足運びなどが視認出来ずに他プレイヤーからは不気味に見えるほどだ。


 それと同じくしてクロウも装備を一新とまでは言わないがそれなりに更新しており、身体を覆う純白のアーマーは相変わらず右手のロングソードが今までより一段階上の武器<アイアンブレード>を、左手には<ハイオーク>のドロップ品から鍛冶屋で生み出されたタワーシールド<赤獅子の巨盾>が装備されている。成人男性をも覆い隠すその大盾は、現実世界では両手で抱えることすら不可能な重量を有しているが、クロウは片腕でそれを支え、あまつさえ右手に握るロングソードでレインと同時に<グリズリー>を挟撃するだけの俊敏さも兼ね備えていた。流石にその速度と威力はレインに劣るが、クロウの持ち味は攻撃力にあるのではなく防御力にあるのだ。試しにとその身に攻撃を受けようともHPバーはこ揺るぎしかせず、<赤獅子の巨盾>で防げば被ダメージは完全にシャットダウンするほどである。


「このまま押し込むッ」


 今や<シックル>や<エアスラッシュ>をマスターしたレインは幾つかの新スキルが習得していた。

 基本的には鎌の攻撃スキルで大半が上記二つ、そして<ブレイク>の派生スキルであったが、他にもレベルアップにより解放されたスキルも習得している。その内の一つが<ステップ>と呼ばれる回避系のスキルであった。

 <ステップ>は単純に数メートルほど前後左右三六〇度をすばやく移動するという単純なものだが、スキル硬直時間中にも使用出来るというそれ以上に重要な効果を有しているスキルである。

 それによりレインは得意技である擬似的連続攻撃を加えた後は<ステップ>により回避、そして再度連撃を加えるという怒涛の攻めを繰り出すという戦闘スタイルを身に付けたのだ。


 クロウの<ダブルスラッシュ>が上段から<グリズリー>の眉間へと閃き、返し手で胴を薙ぐ。軽いノックバックを起こした<グリズリー>は振りかぶっていた腕が硬直し、その隙をレインが嵐のような連撃を繰り出す。今でも連撃の初手は<シックル>で、下段からゴルフのスイングのように両手で振り回して股間を一刀両断。次いで頂点へと昇った大鎌を始点に全体重を乗せた<ブレイク>を脳天にブチ当てる。今度は完全にノックバックが発生し<グリズリー>は一歩後方へよろめき、硬直時間を消すように<ステップ>で距離を取る。締めに飛び込みながら<エアスラッシュ>を放ち、空中で硬直時間を消化し、<グリズリー>の目の前に降り立つと同時に新スキル<首薙ぎ>を発動。これは敵モンスターの首にヒットさせれば必中でクリティカルを発生させるスキルで、それ故に威力設定などは他より低めだがクリティカルを発生させてしまえば関係ない。

 赤いエフェクトを撒き散らし、<グリズリー>は結晶となって砕け散る。


「走り抜けるぞ、レインッ!」

「遅れんなよ、クロウっ!」

「それは此方の科白だッ!」


 黒と白の影が洞窟内を疾走する。

 二人が出会ってから既に十回も太陽と月が地上へ姿を現し、その間二人はずっとコンビを組んでレベリングと数ヶ所の小さなダンジョンを攻略していた。

 今回は<城塞都市ガーランド>から南へ五キロほど進んだ所に存在する小さな洞窟、名を<隠滅の洞穴>というダンジョンを攻略する手筈となっている。この洞窟は天井は三メートルほどと、長物を使うレインにとっては些か不都合な場所ではあるがそれを物ともしない技量にクロウは、共にコンビを組んでから何度目かわからない舌を巻く。

 左右はプレイヤー二人が武器を振るう程度は楽なスペースが確保されてはいるも、密室に近い場所での戦闘は開けた場所での戦闘とまた違った戦略が必要となり、二人は即時その場所に適した戦闘スタイルへ移行を果たしていた。


「それにしても、今回こそボスモンスターは潜んでるかね?」


 全力疾走、とまではいかないがそれでも駆け足にしては早い速度で駆け抜けるレインはそう口を零した。


「さて……。しかし<ハイオーク>が珍しかったのだろう。

 事実、未だプレイヤーの拠点であるガーランドではボスモンスターの噂は一向に耳にしない。

 それを顧みれば、まだまだ攻略段階で見れば初期に近い場所にボスモンスターが配置されているのは稀だろうな」


 注意散漫になることなく、クロウはレインの言葉を返す。その際に、というよりも絶えず視線はまだ見えぬ洞窟の闇や天井などへ動かしモンスターの奇襲を警戒する。

 同じようにレインも警戒を怠ることなく、そのまま会話も続けた。


「あ、そうだ。

 今回の探索が終わったら、俺は拠点をリミングの方に移すことにするよ」

「<城下町リミング>……。

 一足先に次の攻略拠点になる場所を陣取る気か?」

Exactlyそのとおりでございます

 俺は基本的にソロで動くけど、お前はそうはいかないんだろ?」

「あぁ、これでも他にパーティーを率いてる身だからな。

 他の仲間も最前線で戦えるステータスだが、お前程じゃない。

 それにまだまだ最前線から遠いプレイヤーの訓練もしなくてはならんからな」

「面倒見のいいこって……。

 なんだ、ギルドでも成立するつもりか?」

「勿論だ。この世界を攻略するのにギルドは必要不可欠だろう?

 ならば私はその内の一つを率いようと思う。

 そこに――」


 クロウの言葉は途中で途切れた。新たなモンスターを<索敵サーチング>が感知したからだ。

 ダンジョンのマップは最初は白紙で、プレイヤーが探索しその目で見ることによって自動でマッピングされていく。また、他のプレイヤーがマップデータを委譲する事によってもマッピングされる。

 そうしてマッピングされたダンジョンマップはそれなりの収入源となることが多く、酔狂な<情報屋>なるプレイヤー達に売り付けるのがレインの習慣となっていた。


「俺はソロ専門だよ、クロウ」

「レイン?」


 レインの呟きに律儀に反応するクロウだが、その瞳には困惑の光が彩っていた。

 モンスターの喊声が洞窟に内に木霊する。耳の劈くような雄叫びに二人を眉を顰めることはなかった。


「パーティーはまだ気心知れた仲間なら大丈夫だ。

 けど、ギルドみたいな集団に俺は属する事は無理だろうさ。

 なんたって、俺は問題児らしいからな」


 過去は過去、現在は現在と割り切れるほどレイン――霧笠雨竜は大人になれないでいた。

 握り締める掌は力を込め過ぎて白くなる。それはクロウの言葉を簡単に振り切れないでいる証拠でもあった。


「……そうか、なら無理強いはしない。

 だが、気が変わったらいつでも言ってくれ。

 私はいつでもお前を迎えよう」

「…………ありがとう」


 その言葉を皮切りに、二人は口を閉じ、そして眼の前に現れた新たなモンスターに挑むのであった。

Name:レイン

Lv:16


<ステータス>

HP:600(+80)

MP:130

STR:45(+5)

DEX:61

INT:10

LUC:10


<スキル>

鎌:231/1000

索敵サーチング:142/1000

隠蔽ハイディング:86/1000

ステップ:64/100

シックル:100/100

エアスラッシュ:100/100

ブレイク:100/100

首薙ぎ:34/100

ダークアロー:100/100

アイスアロー:100/100

ヒール:100/100


<スキル紹介>

スキル名:ステップ

名前の通り、前後左右にステップを刻む。

スキルの硬直時間中も使用可能。

再使用時間リキャストは三秒。


スキル名:首薙ぎ

サイズを使った単発攻撃。普通に使えばただの威力低めのスキルだが、敵モンスターの首にこのスキルをヒットさせれば必中でクリティカルが発生する。

威力補正一七〇%、クリティカル補正一・三倍、再使用時間リキャストは三秒、硬直時間はなし。


<装備>

武器:オーバーサイズ

レア度:アンコモン

物理攻撃力:120

魔法攻撃力:45

アビリティ:断罪(クリティカル率を二倍)

装備条件:STR(40)、DEX(10)、INT(0)、LUC(0)


頭:獅子のフード

レア度:アンコモン

物理防御力:7

魔法防御力:3

ボーナスステータス:なし

アビリティ:なし

装備条件:STR(10)、DEX(0)、INT(0)、LUC(0)


腕:獅子のフィンガーグローブ

レア度:アンコモン

物理防御力:8

魔法防御力:3

ボーナスステータス:なし

アビリティ:なし

装備条件:STR(10)、DEX(0)、INT(0)、LUC(0)


胴:獅子のローブ(上)

レア度:アンコモン

物理防御力:13

魔法防御力:6

ボーナスステータス:なし

アビリティ:なし

装備条件:STR(10)、DEX(0)、INT(0)、LUC(0)


腰:獅子のローブ(下)

レア度:アンコモン

物理防御力:12

魔法防御力:4

ボーナスステータス:なし

アビリティ:なし

装備条件:STR(10)、DEX(0)、INT(0)、LUC(0)


足:獅子の革靴

レア度:コモン

物理防御力:10

魔法防御力:4

ボーナスステータス:なし

アビリティ:なし

装備条件:STR(10)、DEX(0)、INT(0)、LUC(0)


装飾品:赤獅子のマント

レア度:レア

物理防御力:25

魔法防御力:10

ボーナスステータス:HP+50

アビリティ:なし

装備条件:STR(30)、DEX(0)、INT(0)、LUC(0)


セット装備ボーナス:獅子シリーズ

HP+30,STR+5

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