表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

3.レベリングとクエスト

「こりゃ洒落にならねぇな、おい……!」


 <始まりの草原>を超え、目測で凡そ二キロメートルほど離れた場所に生育していた森の中をレインは闊歩していた。

 違うフィールドに切り替わったのだろう、マップ名が<深緑の森>へと変化している。また、適正レベルも変化したのか周りに出現するモンスターのレベルも変わっており、それは勿論<始まりの草原>よりも高く設定されていることは明白だ。

 そして<始まりの草原>よりもモンスターの湧きが多く設定されている。<始まりの草原>が蛇口を軽く捻る程度の多さだとするならば、<深緑の森>はホースで水を撒くほどだ。


「来る場所間違ったな……!

 <ホブゴブリン>に<ウェアウルフ>だけでも辛いってのに<オーク>も追加かよっ!?」


 目の前に次々と湧き出すモンスターの群れ。それは常時三体から四体が沸き出し、レアモンスター扱いなのに数匹に一体程度の確率で毛むくじゃらで槍を持つ<オーク>が出現する。

 設定されているレベルも<ホブゴブリン>と<ウェアウルフ>が七、<オーク>が九という破格の数字。現在のレインのレベルは六で、適正レベルより少し高いくらいというところか。ただ、先程も述べたようにモンスターの湧きが多い為、数字だけよりも一段上に適正レベルは高い。

 何が言いたいかというと、今現在レインは窮地に陥っているというわけだ。


「デスペナってどのくらいだったけな……っ! 確か経験値の二割減少だっけ!?

 別にまだ痛いってほどじゃないけどさっ!」


 左右から挟み込むように距離を詰めてくる二体の<ホブゴブリン>を後ろに跳躍して躱す。それと同時に相棒たる大鎌を右から払い、赤いエフェクトを撒き散らすが一撃で倒すには至らない。追撃に<シックル>をブチ当てて一体を倒すが、待ってましたとばかりに追加のモンスターが出現する。

 それも運の悪いことに<オーク>だ。顔を引き攣りさせながら増援で出現した<オーク>を見据えならが、右足を軸に回転。

 <シックル>の熟練度が四〇を超えた所でスキルツリーに新しく出現した攻撃スキル<エアスラッシュ>を発動。硬直時間は一秒間あるものの、現状三体まで巻き込める範囲攻撃は魅力だ。威力だけを見れば<シックル>に劣るが、それを補って余りあるほど乱戦状態では重宝する。

 大鎌から迸るように空間を走る不可視の刃が三体のモンスターを切り裂いていく。先の攻撃で仕留め切れなかった<ホブゴブリン>はこの攻撃に耐えきれなかったのか、断末魔を上げながら経験値へと姿を変え、<ウェアウルフ>は後ろへ吹き飛び、難敵である<オーク>は呻き声を上げつつも戦意は衰えなかった。

 流石にスキルにクリティカルが発動しても一撃では仕留め切れない、と思った所で背中から衝撃を受け、転んだような痛みが背中から全身へと広がる。前方によろめきながら首だけでその衝撃の原因を探った。御馳走に在り付けたとばかり、俺の背中に<ウェアウルフ>が喰らい付いている。


「ッ、残りHPは四割弱か……!」


 噛み付かれた場所にはメスのような牙が突き刺さり、継続的にレインのHPバーを蝕んで行く。追加出現した<ホブゴブリン>はフゴフゴと鼻息荒く、手傷を負わせた<オーク>は槍を構えながら突進してくる。間一髪のところで槍の穂先を避け切り、地面へダイブ。その衝撃で喰らい付いていた<ウェアウルフ>から漸く解放され、即座に体勢を立て直した。

 継続ダメージによりHPバーは注意域イエローゾーンから危険域レッドゾーンへと突入する。<オーク>の攻撃を受ければ間違いなくレインのHPバーは底に付き、そのままシステム的な"死"を迎えるだろう。

 ジリ、と緊張からか頭痛が走る。全身の毛穴から嫌な汗が噴き出て、握りしめる相棒が零れ落ちそうだ。

 だが、足掻く。レインの瞳には諦めの光を宿してはいなかった。


「『闇の矢よ、相手を穿て<ダークアロー>!』」


 後方にステップしながら詠唱し、そのまま魔法を放つ。目標は一番の難敵である<オーク>で、狙い通り左足を地面に縫い付けるように着弾。片膝を付くような格好で悶える形となった<オーク>に追撃、をする前に二体の<ホブゴブリン>が壁のように立ち塞がる。

 即座に<エアスラッシュ>を放ち陣形を崩そうとするが、武蔵坊弁慶の如く仁王立ちのまま動かない。レインは舌打ちを零しながら残りMPに気を配る。数値的には残り数発が限度だが、マナポーションは手持ちには存在しない。

 レインは口早に<アイスアロー>の呪文を詠唱し、後ろに回り込んでいた狼に撃つ。青い軌跡を描きながら流星のように<ウェアウルフ>の脳天に突き刺さが、INT極振りでワンド装備の魔法使いタイプなら一撃で葬れたであろうそれも、剣士タイプのレインでは届かない。

 そもそも、中・後衛のカウンター型であるサイズを片手に近接ソロプレイを行うレインが異常なのだ。本来なら取り回しの効かないサイズでは、懐に入られてしまえば反撃は難しく、そのまま嬲り殺しにされることも多々ある。事実、VRMMORPGを始めた初期の頃のレインはモンスターにいいようにやられた苦い経験があり、今でもその記憶の軌跡は鮮明に思いだせるだろう。そんな途方も無い積み重ねがあってこそ、今の荒技を成し遂げられるのだ。


「ほら、もういっちょ喰らいなっ!

 <エアスラッシュ>! ――からの<シックル>!」

 

 跳躍からのスキルの二連撃。

 本来ならスキルの硬直時間により行動不能に陥る所を、跳躍中にスキルを発動したことにより滞空時間でその時間なかったことにする。

 不可視の斬撃が<ホブゴブリン>を両断するが、<オーク>は生まれ持っての野性の勘でそれを掠りながらも避けた。だが、連撃で放たれた<シックル>までは回避し切れず、バッサリと左半身に斬閃を刻むが後一歩届かない。お返しとばかりに穿たれた鋼の槍がレインの腹部を貫通し、HPバーを大きく削るが、数ドットを残してその進行を止めた。


 絶体絶命。その言葉がレインの頭を過った。初死亡か、と諦観の境地へ至りそうになるが、握り締める柄は意思に反して体を動かす。

 貫通による継続ダメージが襲う刹那の前に、レインは鈍痛を堪えながら早唱により魔法を起動し、振り返ることなく放った。それは狙い違わず先程の<アイスアロー>で仕留め切れなかった<ウェアウルフ>に直撃し、そのまま崩れ落ちる。

 そして鳴り響くファンファーレ。それはレベルアップしたことの証であり、レベルアップ特典にはボーナスポイントの追加の他にステータスの全回復も存在する。

 つまり――


「ピンチはチャンスってなッ!」


 貫く槍の穂先を左手で握り締め、俺の変化を悟り距離を取ろうとする<オーク>を逃がすまいと獰猛な笑みを浮かべた。

 武器を手放すという思考は存在しなかったのか、そのまま綱引きの要領で付かず離れずを保つが、レインは右手に掴む大鎌を振るい赤いエフェクトを撒き散らす。<オーク>が粒子になると同時に、装備で合った鋼の槍も同じように粒子となって消えて行った。


「さて、第二ラウンドの幕開けと逝こうぜ……ッ!」


◇◆◇◆◇◆◇


 <深緑の森>を抜けたレインは、その抜けた先に存在した小さな村で休憩していた。

 既にレインのレベルは九を迎え、丁度<深緑の森>が適正レベルとなるまで成長している。ボーナスポイントも割り振り、新たにスキルツリーに出現したスキルも幾つか取得済みだ。

 朝から始めた<深緑の森>でのレベリングも、今では太陽は真上より少し過ぎた辺りで照らしていた。


「ん……?」


 そんな中、レインは宙に浮かんだマップウィンドウを見て声を上げた。

 そのマップには幾つかのアイコンが表示され、どれもNPCを示す緑色が転々としていたが、その内の一人にクエスチョンマークが付随している。どうやらクエスト関連みたいである。

 クエストとはNPCがプレイヤーに頼む依頼であり、植物や魔物の皮などの採集や、何とかというモンスターを一〇体討伐してくれというものが存在する。クエストの成功報酬にはアイテムやガルドの他に、経験値や特殊なスキルを習得するなど多岐に渡り、見つけ次第受託するのがベストというのがVRMMORPGの鉄則だ。

 レインはすぐにそのNPCの前までマップを見ながら移動を始める。キョロキョロしながらマップと住人を見ながら、件のNPCを発見した。


「そこの冒険者様、ちとお時間はありますかな?」


 目の前に立ち止まるだけで会話が発生。何らかのアクションを起こさなくて済み、レインは少しだけ安堵する。


「どうかしましたか?」

「いえ、冒険者様はあの森を抜けてこられたのでしょうかな?」

「えぇ、あの森の先のガーランドから来たんですよ。

 それで、何か御用ですか?」

「その、お恥ずかしい限りなのですが――」


 このNPCの依頼内容を纏めると、どうも近頃<深緑の森>から出現するモンスターの数が増え、そのモンスターたちが村の畑を荒らしているらしい。

 早い話が討伐系のクエストで、<ホブゴブリン>を一五体、<ウェアウルフ>を一〇体、<オーク>を三体、そしてまだ見たことのない<ハイオーク>という、どうもレアモンスターであろう一体を討伐でクエスト完了のようだ。


 討伐系のクエストは単純なのだが、レアモンスターという点でレインは頭を悩ましていた。

 レアモンスターとは名前通り、一般的に出現し辛いモンスターか、何らかの条件を達成した時にだけ出現するモンスターだ。この場合、前者ならばレベリングのついでに探せばいいのだが、後者ならば話は異なってくる。後者ならば闇雲にモンスターを乱獲しても出現せず、時間の浪費へと繋がってしまうからだ。

 少しだけ困ったとレインは眉を顰めつつ、とりあえず出現を確認している三種類のモンスターを規定数だけ討伐するかと村の入り口に足を進めていると、途中に建てられた宿屋前で屯する二人の若い男性NPCの会話が耳へと届いた。


「ホントだって! 森の奥で赤色のオークを見たんだって!」

「あぁん? 赤色のオークだぁ?

 んな珍種オレぁ聞いたことねぇぜ? 見間違いじゃねぇのか?」

「いやいやいや! 見間違いなら俺はここまで言わないっての!

 そりゃオークは怖いけど、それでも何度か見たことあるじゃん?」

「ん、そりゃ……まぁな」

「そん時でも俺は逃げなかったんだぞ?

 それなのに今回だけは背筋が泡立つ感じがしたんだ。もう普通じゃないだろ?」

「……そうか? 偶々だろ、偶々」

「あー! もうこの分からず屋!」

「何だとっ!?

 そもそもだな――」


 そんな二人の会話を最後まで聞き遂げず、レインの脚は一直線へ村の入り口と反対の出口に向いていた。

 先程の二人の会話に登場した赤色のオークこそが<ハイオーク>なのだろう。ただ、どうしてそんな村の人物も知らないモンスターをクエスト内容に放り込んだのか。まぁ、それがゲームだからと言ってしまえば終いなのだが、レインは少しだけ首を捻る。

 何にせよ、これで当初の問題は解決したことになった。後は適当に狩りつつも、森の奥深くに居るであろう<ハイオーク>を狩り取るのみである。


◇◆◇◆◇◆◇


「そう思ってた時期もありました――っと!」


 弧を描くように触れ抜かれた死神の鎌は、数時間前まで難敵であった<オーク>を赤いエフェクトを迸らせながら切断するに至る。

 既にクエスト内容である<ホブゴブリン>、<ウェアウルフ>、<オーク>の討伐数は規定数に到達しているが、一向にレアモンスターの<ハイオーク>がお目に掛かれないでいた。

 森の深くを目指せば目指すほどモンスターの湧きも激しくなっているので、方角的には正しいはずなのだがそれでも辿り着けない。

 スキル<エアスラッシュ>が発動し、風の刃が狼を切り刻む。硬直の時間を突いて<ホブゴブリン>が突進してくるが、鎌の柄部分で往なして<シックル>を叩き込んだ。一撃では倒れないので、追撃に通常攻撃を放ち、粒子となるのを確認。

 レインは駆け足になりながら森を疾走する。日は何時の間にか暮れ出し、夕陽が辺りを包み始めていた。


「逢魔ヶ時が近いな……。

 魔に逢える時間ならお目当ての魔物とも出会わせて欲しいもんだよ、ホントに」


 汗を滴らせながら掛ける。

 斬っても斬っても湧いて出るモンスターに嫌気が差し、レインはモンスターを振り切って最奥を目指すという手段に出た。

 一時的に装備を外しアイテムウィンドウへと収納し、わらわらと周囲を囲むモンスターの群れを無理矢理突破を図る。<ウェアウルフ>を飛び超え、<ホブゴブリン>の足を引っ掛け転ばし、<オーク>の槍を避けながら脇を潜る。


 そうやって森の中を駆け巡り夜の帳が世界に降りる直前、レインの視界が少しだけ開けた。

 楕円状に開けたその場所は周りの木々からの葉が所々で降り積もり、木の幹には大きな啄木鳥が嘴で突き続けたような穴がそこかしこに開いている。辺りには無理矢理倒されたであろう樹木が散乱しており、その一本に腰掛ける“赤い”影。

 ドっと汗が噴き出る。すぐさまレインはウィンドウを呼び出し、相棒たる大鎌をその手に握り締めた。

 ぺろりと乾いた唇を舐め、獰猛な笑みを浮かべながら赤い影――<ハイオーク>を見据え、駆けだした。

Name:レイン

Lv:9


<ステータス>

HP:265

MP:70

STR:30

DEX:36

INT:10

LUC:10


<スキル>

鎌:102/1000

索敵サーチング:67/1000

隠蔽ハイディング:32/1000

シックル:78/100

エアスラッシュ:31/100

ダークアロー:34/100

アイスアロー:23/100

ヒール:15/100


<スキル紹介>

スキル名:エアスラッシュ

サイズを使った複数攻撃攻撃。不可視の斬撃を放つ。

威力補正一四〇%、クリティカル補正一・二倍、再使用時間リキャストは七秒、硬直時間は一秒。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ