0.運命の鼓動
この物語に関する国名、人名等は現実世界のモノとは関係ありません。云わばフィクションです。
それらに関する苦情等は一切受け付けませんのであしからず。
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それは世界の産声だったのか。
それは社会の慟哭だったのか。
それは人類の歓声だったのか。
それとも――世界を相手取った天災たちの咆哮だったのか。
◇◆◇◆◇◆◇
西暦二一八六年四月一日。
三度の世界大戦を経て、戦争という名の経済活動が姿を消して久しい。今では国家間での政治的要素は貨幣供給や債券市場、輸出入などの武力を伴わない経済活動が主流だ。
世界各地の紛争なども次第と影を潜め、第二次世界大戦当初から二世紀余が過ぎ去った今こそが平和という言葉が良く似合う、というのは自称歴史家の言だったか。
実際、貧困という貧富の差は二十二世紀に突入すると数多の産業革命や歴史的発見、技術革新から医療発達など、後に"歴史の爆発"と称される出来事によりそれらの言葉は死語となりつつあった。
ならば、貧富の差が無くなればどうなるか。
人の欲望というのは尽きることを知らない陽炎のようで、貧富が無くなれば次は娯楽を欲したのだ。
二十一世紀は開拓期であり、様々な娯楽が生み出された。それこそ一人から多数、インドアからアウトドア、合法から非合法まで数々の物が生み出され、それは人を熱狂させる。今でも人を魅了するのは、そうした時代に生み出された娯楽が根幹に眠っているのは否定出来ないし、間違いでもない。
また、進化をすれば退化もする。廃れた文化があれば、より一層昇華された文化だってあるということだ。
その一角を担っているのが、<Virtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game>。俗に言うVRMMORPGと呼ばれる仮想大規模オンラインロールプレイングゲームだ。
専用のインターフェイスを使用して脳の神経と疑似接続を行い、脳から送り出される神経信号を全て電子信号へと変換、それをコンソール内に投影することより仮想空間内が現実世界と瓜二つになる。それこそがVRMMORPGの醍醐味というわけだ。
そしてその業界にまた新たな名が刻まれることになる。
その名は<ヴァルハラオンライン>。栄光と同時に汚名を刻み、世界最高を謳いながらにして世界最悪の結末を齎そうとする名前だった。
それはゲームという観点だけを見れば文句の付けようのない、間違いなく世界最高峰のゲームだっただろう。
VRMMORPG特有の膨大なデータ量に翻弄されることなく練りに練り込まれたシナリオと、それを飽きさせることのない洗練されたシステム。重度のゲーマーをも唸らせる、職業こそないもののそれをも霞ませる圧倒的なスキルの数々と種々様々な武具類。ハイエンドなグラフィックを背景に、本物と区別のつかない再現力。
どれを挙げても難癖付け難い、本当の意味での至高を掲げた作品だろう。
問題だったのは背景にある思惑にあった。
<ヴァルハラオンライン>を作成した会社は、VRMMORPGが世界を席巻するまで人々を魅了していた大手MMORPG作成会社だった。
その会社は数多くの名作MMPRPGを生み出しながら、サービス終了間際にはプレイヤーから駄作と称して罵し続けられた。それはMMORPGの宿命だったのかもしれない。未完成だからこそMMORPGは輝き、そして未完成だからこそMMORPGの終わりは儚い。
それに納得出来なかった。自分たちの努力の結晶をたった一言で穢されるのに我慢ならなかった。
だからこそ、彼ら"天災たち"は世界に牙を剥く。
才能という才能を振りしぼり、発想という発想で埋め尽くし、技術という技術で創り上げた最初で最後の挑戦。
神(作成者)も人も命懸け、そんな戦いの幕開け。打ち鳴らされた鐘は祝福か、はたまた絶望か。
人々が請い願い、怨嗟の想いの末に生み出されたという背景こそが本来の思惑。
◇◆◇◆◇◆◇
さぁ、勝負と逝こうじゃないか。
勝てば生き残り、負ければ死ぬ。古来からの弱肉強食の法則に則り、命を掛けて戦おうではないか!
チップは互いの命。此方の命は既に盤上に投げ捨てた。後は君達次第だ!
残された時間を足掻き続けろ。残された時間を研ぎ澄ませろ。残された時間を謳歌し続けろ。
単純明快、君達の勝利条件は我等の魂<ヴァルハラオンライン>をクリアすることだ!
タイムリミットまでに世界の謎を解き明かせ!
それが出来てこその君達であり、それが出来ない君達に生き残る価値などない!
これこそが君達が望んだ世界だ!
だからこそ我等に見せてみろ! 君達の意地というものを!
さぁ、開幕だ。夢にまで見た新境地、篤とご覧あれ――