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打球音が爆音の謎と恐怖

作者: NAOKI
掲載日:2026/08/02

 皆さんは、取り返しのつかないミスをした事がありますか?この物語の主人公は、甲子園出場が懸かった地方大会の決勝戦で、取り返しのつかないエラーをしてしまいました。この物語は、何故か打球音が爆音に聞こえるようになった、絶望感で打ちひしがれた主人公が、もがき苦しみながら、必死に生きていく様が描かれています。そして、周りの人達の温かい言葉や、夢に出て来るようになった巨大なボールのお化けの攻撃に秘められた思いが、主人公に降り注ぎます。そんな不思議な物語が、いよいよ幕を開けます。

 高校三年生の夏、甲子園出場が懸かった地方大会決勝戦。僕の高校は、春夏通じて未だ甲子園に出場した事が無く、もし甲子園に出場する事ができたら、初出場となる。僕は四番バッター、レフトとして、試合に出場していた。

 僕のチームが先攻で、相手チームが後攻。序盤から、僕のチームが優勢に試合を進め、一点、また一点と点数を積み重ねていった。この試合に登板していたエースは、プロ注目のピッチャーで、ストレートは一五〇キロを超え、鋭く曲がるカーブ、スライダー、フォークといった、多彩な変化球を投げる事ができる。この試合での僕のチームのエースは絶好調。快調に投げ、相手チームのスコアボードに〇が並んでいった。

 九回表にも一点を取り、三対〇で僕のチームがリードしている状態で、九回裏の相手の攻撃に入った。先頭打者を三振にし、次の打者は粘ってフォアボール。更にショートゴロでゲッツーかと思いきや、一塁はギリギリセーフ。一旦ほっとしたエースが、フォアボールを与えてしまい、次の打者はサードゴロ、かと思いきや、ボテボテのゴロで、グローブにボールが入った時には、オールセーフ。二死満塁。

 ここで開き直ったエースが、渾身のストレートを投じ、打球はフラフラと、僕がいるレフトに飛んで来た。

 ―このレフトフライを捕ったら、甲子園だ!捕ったら甲子園!捕ったら甲子園!―

 そんな事を考えながら、捕球体勢に入った、その時、太陽の光が目に入った。

 ―うわっ!眩しい!―

 一瞬、迷いが生じ、気が付くと、目の前にボールが迫っていた。グローブを構えている位置から少しずれている。慌ててボールを捕りにいったが、時既に遅し。ボールがグローブの端に当たり、捕り損ねてしまった。

 ―や、やばい!落としたら、甲子園に行けなくなるかもしれない!―

 必死にグローブの中に入れようとしたが、更なる不運が襲う。焦った僕が、グローブを大きく振ってしまい、ボールがポ~ンと大きな弧を描き、はるか遠くに投げ出されてしまった。センターの外野手が追い付けず、ボールが転々とグラウンドを転がって行く。どんどんランナーがホームを踏み、なんと、バッターまでもがホームを踏んだ。

 悲劇の逆転サヨナラ負け。僕のチームから、甲子園出場が零れ落ちて行った。僕はその場で膝から崩れ落ち、頭をグラウンドに擦り付け、号泣し、暫くの間、起き上がれずにいた。他のチームメイトも、同じように泣き崩れ、一人、また一人、ゆっくりと立ち上がり、フラフラ歩いてホームベース前に行く。僕はというと、センターの外野手に抱きかかえられながらゆっくりと起き上がり、そのまま抱きかかえられながら、フラフラと歩き、何とか整列。泣きじゃくりながら、試合終了の握手を交わし、ベンチ前に行って、更に泣きじゃくった。

 この試合、僕は、逆転サヨナラ負けの原因となったエラーだけではなく、全打席凡退で、全くいいところが無く、大きく足を引っ張ってしまった。

 その日のその後の事は、ほとんど何も覚えていない程、ずっと泣いてばかりいた。他のチームメート、特に、エースに対して、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。エースには、謝る事しかできなかった。

「ごめん!本当にごめん!僕のせいで、甲子園に行けなくなっちゃった。僕がエラーしなかったら、お前が甲子園で投げてる姿を、プロのスカウトが見て、今よりもっと評価が上がったのに、僕が台無しにしてしまった。本当にごめん!」

 僕の泣きながらの謝罪の言葉に対し、エースは、「気にするな。お前のせいじゃない」と言ってくれたが、僕の目から、涙がとめどなく流れた。

 女子マネージャーは、泣きながら、僕の肩に手を置いてくれた。それでも、全く慰められる事は無く、ひたすら泣き続けた。

 そして、その日の夜、僕は野球を辞める事を決断した。ベッドに横になったが、なかなか眠れない。目から涙が零れてきて、暫くの間、泣いていると、泣き疲れたのか、いつの間にか眠りについた。


 僕の夢に、突然、巨大なボールが現れた。目と口が付いていて、お化けだと分かった。

 ―な、何だあれは!めちゃくちゃでかいボールのお化けだ!一体、僕に何をしてくるんだろうな~!―

 巨大なボールのお化けが、僕に話し掛けてきた。

「お前のせいで、甲子園に行けなくなったんだぞ!お前のせいだ!お前のせいだ!」

「そ、そんな事、分かってるよ!だから、もう僕は、野球を辞めるんだ!」

「はっはっは。それがお前の決断か!そんな決断をしても、お前のせいで甲子園に行けなくなったという事実は、変えられないぞ!」

「分かってるよ!でも、僕にはもう、野球をする資格なんて無いんだ!」

「フン!もういい!痛い目に遭わせてやる!これでも食らえ!」

 巨大なボールのお化けが、僕に向かって飛んで来て、僕を押し潰そうとしてきた。

 ―うわ~っ!動けない!このままだと、このボールのお化けに押し潰される!―

 どんどん巨大なボールのお化けが、僕に迫って来る。僕は動けない。そのまま、僕が押し潰されてしまった。


「うわ~っ!」

 僕が大声を上げて目を覚ました。身体から、大量の汗が噴き出ている。恐怖のあまり、涙は止まっていた。

―夢だったか・・・。それにしても、めちゃくちゃ怖い夢だったな。あの巨大なボールのお化け、僕のせいって言って、僕を責めてたな。野球を辞める僕に、傷口をえぐるように、あんな事を言ってくるなんて、最悪なお化けだな。あ~、これから寝たら、またあのお化けが出て来るかもしれないぞ!もう寝たくない~!―

眠らないように気を付けていたが、眠気には勝てず、また眠ってしまったが、今度は巨大なボールのお化けは、夢に出て来なかった。


 翌朝、目が覚め、テレビのスイッチを入れると、メジャーリーグの試合が放送されていた。日本人の有名選手も出場している。その選手がバッターボックスに入り、構える。ピッチャーがボールを投じると、バットをフルスイング!見事、ボールを芯で捉え、物凄いライナー性の当たりが、見事にスタンドに届いた。完璧なホームランに、スタジアムが大歓声に包まれる。一方、僕はというと、耳を塞いで、その場に座り込んでいた。なんと、打球音が物凄い爆音に聞こえたのだ。あまりの大きな音の為、耳が壊れそうな位の衝撃を受けた。

「な、何だ、今の音は。打球音は、普通、カキーンという音のはずなのに、グワッキ~ンという物凄い爆音に聞こえた。耳が壊れそうだな。なんでこんな事になったんだろう。あの巨大なボールのお化けが、何か関係してるのかな」

 引き続き、メジャーリーグの試合を観ていると、再び打球音が爆音に聞こえ、このままでは本当に耳が壊れると思い、テレビのスイッチを切った。

 その日、エースや他のチームメートや女子マネージャーから、僕のスマホに電話がかかってきたが、出なかった。メッセージが僕のスマホに届いたが、見なかった。その日の夜の夢にも、巨大なボールのお化けが出て来て、同じように僕を責め、押し潰してきた。

 そんな日が何日も続いた。野球の試合を観ると、打球音が爆音に聞こえるので、意識的に野球の試合を観ないようにしていたが、どうしても気になる試合は観て、その度に爆音に苦しめられた。相変わらず、夢に巨大なボールのお化けが出て来て、苦しめられた。大学の野球推薦の話が来ていたが、全て断った。

更に時が過ぎ、僕は、野球部やサークルが無い大学を調べ上げ、受験して合格し、入学する事を決めた。合格してから、女子マネージャーから電話があり、僕と同じ大学に合格し、入学する事を聞かされた。一方、エースは、実績が認められ、プロのドラフトにかかり、晴れてプロ野球選手となった。


 大学の入学式の後、大学の敷地を歩いていると、後ろから女性の声が聞こえた。

「お~い!待ってよ~!折角、一緒の大学に入ったんだし、一緒に歩こうよ~!」

 声の主は、高校野球部の時の女子マネージャーだった。

「お~!久し振りだね~!そうだね。一緒に歩こう」

 久し振りの再会に、話題が尽きず、楽しくおしゃべりしながら歩いていると、ふと、女子マネージャーが言ってきた。

「ねぇ、本当に野球を辞めちゃったの?あんなに上手かったのに」

「うん。もう決めたんだ。こうして、野球とは無縁の大学に入ったんだし、もう二度と野球はやらないよ」

「そうなんだね。決めた事なら、私がどうこう言える立場じゃないけど、あの地方大会の決勝戦でのエラーが、決め手になっちゃったの?」

「正直に言うと、そのエラーが決め手になって、野球を辞める事にしたんだよ。あのエラーが無ければ、甲子園に行けたんだし、危うくエースのプロ入りを無くしてしまうところだったし、バッティングも全然ダメだったし、もう僕に野球をする資格なんて無いと、痛烈に思い知らされたよ」

「でも、あの決勝戦の前までは、いっぱい打ってたし、いい守備してたよ!君のお陰で勝てた試合だって、何試合もあったよ!それなのに、あの決勝戦だけで、野球を辞めちゃうなんて、私としては、とっても寂しいし、悲しいよ。今からでも、もう一度、野球をする気にはなれないの?まだ間に合うと思うよ」

「気持ちは嬉しいけど、もう野球を辞めたんだ。野球をやりたくても出来ない環境を整えたし、僕の意思は揺るがないよ」

「そうなんだね。分かった。これからは一緒に大学生活をエンジョイしようね!」

「うん!ところで、なんでこの大学に入ったの?お前の学力なら、もっとレベルが高い大学に入れただろ~?」

「ウフフ、それは、ひ・み・つ~!後で言いたくなったら、言ってあげる~!」

「何だよそれ~!まぁ、いいか~。あ!そういや、もうエースと付き合ってるの?お前達、お似合いのカップル~って雰囲気を漂わせてたよな~。エースに対する態度と、エース以外の部員に対する態度が、全然違ってたよな~」

「え~!エースと付き合ってないよ~!私、部員全員に同じ態度で接してたと思ってたけど、そんな風に見えてたんだ~。それは、君の気のせいだよ」

「何だぁ。そうだったんだ~。野球をやってた時に、そう言ってくれてれば、もっと頑張れたかもしれないな~」

「あはは。言わなくても分かってると思ってたよ~」

 そんな会話をし、引き続き、楽しくおしゃべりしながら歩く。女子マネージャーは、綺麗でスタイルが良く、他の男からの羨む視線を感じながら、気分良く歩いていたが、こんなにも魅力的な女性が、僕なんかを相手にするはずが無いという思いを持っていて、自分の中で、最低限の距離を置いていた。


 更に日が経ち、僕はそれなりに大学生活をエンジョイしていたが、部活にもサークルにも入っていなかった。女子マネージャーも、部活とサークルに入っていなかったが、アルバイトを掛け持ちで頑張っていた。なんでこんなにアルバイトを頑張るのかを訊ねてみたが、やはり秘密にされた。

 大学の授業を終え、家に帰り、ダラダラ過ごしていると、あっという間に夜になり、久々にプロ野球の試合を観ようと、テレビのスイッチを入れると、なんと、高校時代のチームメートのエースが、プロ入り初登板を迎える試合が放送されていた。

 ―お~!エースがマウンドにいる!二軍で結果を残して、一軍に上がったんだな~!凄い!さすがだな~!これは、ちゃんと観なきゃいけないな~!―

 食い入るように、テレビの画面に見入る。エースが第一球をバッターに投じると、見事に審判からのストライクコールが発せられた。その打者に対し、かすらせもせず、見事、三振に仕留めた。次の打者も、かすらせもせず三振に仕留めた。その次の打者には、ボールをバットに当てられたが、センターフライに仕留めた。ただ、やはり打球音は爆音に聞こえた。

 ―うわ~!エース、三者凡退に仕留めて、凄過ぎる~!それにしても、相変わらず、打球音が爆音に聞こえて、耳が潰れそうだな~!この試合を最後まで観るの、大変だな~。でも、折角エースが投げてるんだし、我慢できる限り我慢して、できるだけ長く試合を観ていよう!―

 打球音が爆音に聞こえ続け、耳が潰れそうな思いをしながら、試合を観続け、エースが順調に相手チームのスコアボードに〇を並べていく。相手ピッチャーも好調で、エースのチームも点を獲れないでいる。白熱の投手戦が続いたが、五回表、ツーアウトから、エースが相手チームのバッターに、スリーランホームランを打たれてしまった。エースはこの回で降板。爆音に苦しめられていた事もあり、テレビのスイッチを切った。

 ―エース、バッタバッタと打者をアウトにして、頑張ってたし、かっこ良かったな~。ホームランを打たれてしまったけど、いいピッチングだったな~。よし!試合が終わる時間を見計らって、電話をかけてみよう!それにしても、相変わらず、打球音が爆音に聞こえたな~。この不思議な現象、一生続くのかな~―

 暫くの間、のんびり過ごし、スマホで調べると、試合はそのまま三対〇で負けてしまったのが分かった。試合直後はさすがに止めとこうと考え、更にのんびりしながら過ごし、そろそろいいかなという時間になり、エースに電話すると、電話に出てくれた。

「お~!久し振り~!電話ありがとう!」

「エース!久し振りだな~!試合観てたよ!さすがエースだな!ナイスピッチングだったよ!ホームランなんて気にすんなよ!これからだよ!」

「ははは。褒めてくれて、励ましてくれて、ありがと~!さっきまで落ち込んでたけど、元気が出たよ!ところで、お前はもう野球やらないのか?」

「うん。あの地方大会の決勝戦で、逆転サヨナラ負けになるエラーをしたんだし、皆に申し訳なさ過ぎだし、特にお前には、危うくプロ入りを無くさせてしまうところだったんだし、もう僕に野球をやる資格なんて無いよ」

「はぁ?何言ってんだよ!俺は、そんな事、ぜんっぜん気にしてないよ!そんな事を考えて野球を辞めたんなら、全くの見当違いだよ!お前、決勝戦の前の準決勝の事、忘れちゃったのか?」

「え!気にしてないって言ってくれて、ほっとしたけど、準決勝の事って、どんな事を言ってるの?」

「その試合、俺がめちゃくちゃ調子悪くて、さっぱりストライクが入らなくて、どんどんフォアボールやデッドボールを出して、真ん中に投げたら打たれて、六点も獲られて、こっちは三点しか獲ってなかった。九回裏のこっちの攻撃で、二死満塁でお前に打順が回って来て、粘りに粘って、十球目を見事にホームランにして、逆転サヨナラ勝ちしただろ~!あの試合、もしあのまま負けてたら、プロ入りできなかったって、後でスカウトから聞いたんだよ。つまり、俺がプロ野球選手になれたのは、お前のお陰なんだよ!」

「え!そうなの~!あの逆転サヨナラ満塁ホームラン、そんなにお前にとって、大きな事だったんだな。びっくりしたよ!」

「そうだよ!だから、お前が野球を辞めたって聞いた時、めちゃくちゃびっくりしたんだよ!もう一度、野球をやれよ!お前なら出来るよ!」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、僕は、野球部もサークルも無い大学に入学したんだし、もう野球をするなんて出来ないよ!」

「そうなのか。でも、俺はお前にまた野球をして欲しいと、強く思ってるからな!あ~、それと、ついでに思い出話をするけど、マネージャー、お前の事が好きだったんだよ」

「え~!そんな訳ないだろ~!そんな素振り、微塵も見せてなかったぞ!寧ろ、マネージャー、お前の事が好きって感じに見えたぞ!」

「いやいや、それは、お前の勘違いだよ。もう言っちゃうけど、俺、マネージャーの事が好きで、告白したんだぞ!でも、断られた。理由を訊いたら、好きな人がいるって言われた。その時、たまたまお前が遠くの方を歩いてるのを見て、マネージャー、熱い視線を送ってたよ。で、好きな人はお前だというのを聞いたんだよ。悔しくて、その事をお前に言う気になれなかったけど、お前が決勝戦の事を、いつまでも引き摺ってるから、少しでも元気付ける為に、言ってやったんだよ」

「そ、そうなのか。でも、今の僕は、マネージャーの気持ちに応えられるような人間じゃないよな。いろいろ考えてみるよ」

「そうだな。しっかりと野球にもマネージャーにも向き合えよ!じゃあ、俺、今日のピッチングの分析をしなきゃいけないし、そろそろ電話切るぞ。じゃあな」

「うん。分かった。じゃあね」

 電話を切り、いろいろな事を考える。

 ―エース、決勝戦の僕のエラーなんて、全然気にしてなかったんだな。それどころか、準決勝の僕の逆転満塁ホームランのお陰で、プロ野球選手になれたなんて言ってくれて、嬉しいな~。でも、また野球をやるなんて、難しいな~。それにしても、マネージャーが僕の事を好きだなんて、意外過ぎて、びっくり仰天だな~。エースに言われた通り、野球にもマネージャーにも、向き合わなきゃいけないな~。遅い時間になってきたし、そろそろ寝るか~。今日もあの巨大なボールのお化けが夢に出て来るのかな~―

 寝る準備を整え、ベッドに横になると、程なく眠りについた。


 夢に、いつものように、巨大なボールのお化けが出て来た。

「おい!相変わらず、冴えない生活を送ってるようだな!お前、そんなんでいいのか!また、押し潰してやろうか!」

「うるさい!今日は言わせてもらう!お前、本当は僕の事が気になって心配で、しょっちゅう僕の夢に出て来て、僕に絡んでくるんだろ!」

「はぁ?お前、今日はやたらと強気だな!何かあったのか?」

「今日、高校時代のチームメートのエースピッチャーが、プロ入り初登板したんだよ。残念ながら、ホームランを打たれて、負け投手になったけど、いいピッチングをしてたよ。それで、エースに電話したら、地方大会の決勝戦での僕の致命的なエラーを気にしてないし、寧ろ、その前の準決勝での僕の逆転サヨナラ満塁ホームランに感謝してきたんだよ。更に、僕にもう一度、野球をして欲しいって言ってきたよ。女子マネージャーが僕の事を好きっていうのも言ってきたよ。お前は、僕がどうすればいいと思う?」

「なんで俺に訊くんだ?お前が自分で決めればいいだろ!」

「自分ではなかなか決められなくて、悩んでるんだよ。野球にも女子マネージャーにも、しっかりと向き合わなきゃいけないって思うけど、もう野球部もサークルも無い大学に入っちゃったし、そんなに簡単な事ではないんだよ。今の僕では、マネージャーと釣り合わないし、この際、お前の意見を聞いてみようと思ったんだ」

「フン!じゃあ、俺が野球も女子マネージャーも諦めろって言ったら、諦めるのか?」

「それは・・・本心で言うと、諦めたくないよ!野球もマネージャーも、大好きなんだよ!」

「その気持ちだよ、大事なのは。自分の気持ちに正直になれよ!」

「お前、僕が自分の気持ちに気付いて欲しくて、しょっちゅう僕の夢に出て来て、あんな事をしてきたのか。素直じゃないよな」

「はっはっは。素直じゃないのは、お前もだろ。よし!俺と勝負しよう!お前の手に、巨大なバットを出現させてやるから、俺を打ってみろ!俺を打てれば、もうお前の夢に出て来ないようにするし、打球音が爆音に聞こえないようにしてやるよ」

「打球音が爆音に聞こえてたのは、お前の仕業だったんだな!よ~し!やってやるよ!かかってこいよ!」

「よし!その意気だ!じゃあ、巨大バットを出してやる。受け取れ!」

 巨大なボールのお化けがそう言った直後、僕の手に、巨大なバットが現れ、僕が巨大なバットを握ると、不思議な事に、普通に持つ事ができた。

 ―こんな、僕の身体よりもはるかにでかいバットを持てるなんて、不思議だな~。あの巨大なボールのお化け、僕にどんな球種で、どれだけ速い球で向かってくるのかな~―

「さぁ、行くぞ!お前が打ったらお前の勝ち、三振だったら俺の勝ちだ!」

「分かった!来い!絶対に打ってやる!」

 巨大なボールのお化けが、物凄いスピードで向かって来た。

 ―は、速い!今まで見た事の無い速さだ!でも、振らなきゃ!―

 僕がスイングしたが、思いっ切り振り遅れて、空振りした。

「はっはっは。口ほどにも無いな!次、行くぞ!」

「お前、めっちゃくちゃ速いな!びっくりしたよ。打てる自信が無くなってきたよ」

 巨大なボールのお化けが、再び向かって来た。今度は、スピードはさっきよりも遅いが、物凄くキレのあるスライダー。

 ―な、何だ、この変化球!こんなん打てる訳ない!しかも、僕に当たる!―

 僕がスイングせず、身体をくねらせて避けようとしたが、なんと、巨大なボールのお化けは、僕にギリギリ当たらないように、ストライクゾーンを通って行った。

「はっはっは。今のはストライクだぞ!このままじゃ、勝負にならないな。よし!球種を予告してやろう!最後はストレートで行くぞ!」

「そ、そうか。それはありがたいけど、打てる気がしないな~。でも、諦めずに立ち向かうぞ!来い!」

 巨大なボールのお化けが、予告通り、物凄いスピードのストレートで向かって来た。

 ―くっそ~!一度見た球だ!タイミングを合わせて、思いっ切り振るぞ~!―

 タイミングを取り、思いっ切りスイングすると、見事、巨大なボールのお化けを、巨大なバットの芯で捉え、カキーンという打球音と共に、ホームラン性の当たりが遠くの方に飛んで行った。暫くして、物凄いスピードで、巨大なボールのお化けが、僕のところに戻って来た。

「やった~!打ったぞ~!僕の勝ちだ~!」

「くっそ~!見事だったな。俺の負けだ。約束通り、もうお前の夢には出て来ないし、打球音を爆音に聞こえないようにしてやる。さっきの打球音、普通の音だっただろ。打たれた瞬間、俺の負けを確信したんだよ」

「そうだったのか。お前、意地悪な奴だったけど、いい奴っていう感じもするな。いろいろありがとうな。僕、頑張って野球とマネージャーに向き合うよ」

「よし!それでいいんだ!じゃあな!頑張れよ!」

 巨大なボールのお化けがそう言うと、徐々に姿を消し、完全にいなくなった。


 翌朝、目が覚め、早速、テレビのスイッチを入れ、メジャーリーグの試合を観る。また日本人の有名選手がバッターボックスに入り、見事にホームランを打った。その時の打球音は、普通のカキーンという音だった。

 ―お~!打球音が普通に戻った~!よっしゃ~!さぁ、これからしっかり野球とマネージャーに向き合うぞ~!―

 外出の準備を整え、大学に向かった。その途中、女子マネージャーに電話をかけると、すぐに出てくれた。

「おはよ~!朝から電話なんて、珍しいね。どうしたの?」

「おはよう。実は、大事な話があるんだ!大学の正門の前で待ち合わせよう!」

「うん!いいよ!大事な話か~。気になるなぁ」

 電話を切り、少し急いで大学に向かい、正門の前に到着。見ると、既に女子マネージャーが立っていて、笑顔で僕に手を振っている。僕も手を振り返し、女子マネージャーのところに走る。

「来てくれてありがとう。結構待った?」

「ううん。さっき着いたとこ。大事な話って何?気になって気になって仕方がないよ」

「うん!まず伝えたい事なんだけど、僕、もう一度、野球をする事に決めたんだ!」

 僕の言葉を聞き、女子マネージャーの目から涙が零れた。

「お~!びっくりしたけど、すっごく嬉しいよ!その言葉をどんなに待ってた事か。でも、急になんで?何かきっかけがあったの?」

「うん!実は、言ってなかったけど、野球を辞めるって決めた後から、夢に巨大なボールのお化けが出て来るようになって、僕を罵り、押し潰してきたんだよ。更に、野球を観てる時、打球音が爆音に聞こえるようになったんだ。その時は、なんでこんな事になったのか、分からなかったけど、昨日、エースのプロでのピッチングを見て、エースに電話したら、決勝戦での僕のエラーを全然気にしてなくて、寧ろ、準決勝での僕の逆転サヨナラ満塁ホームランに感謝していて、もう一度、僕に野球をして欲しいって言ってきたんだ。その日の夜、夢に巨大なボールのお化けが出て来て、野球が大好きで、野球をまたやりたいという気持ちに正直になれって言ってきて、勝負する事になって、物凄いストレートだったけど、ホームランを打つ事ができて、もう巨大なボールのお化けが夢に出て来ないようになって、打球音が爆音に聞こえなくなったんだよ」

「え~!エースの言葉はともかく、巨大なボールのお化けって、びっくりだよ~!でも、信じるよ!君がまた野球をやってくれるのが、すっごく嬉しいし!」

「うん!あと一つ、大事な話があるんだ!エースから、お前が僕の事が好きという気持ちを聞いちゃったんだ。巨大なボールのお化けに、その事を話したら、自分の気持ちに正直になれって、応援してくれたんだ。もう迷わない!言うよ!お前の気持ち、すっごく嬉しかったんだ!僕もお前の事が大好きだよ!でも、付き合うのは、野球が軌道に乗ってからにして欲しい。今は、野球に集中したいんだ。我儘だけど、それでいいかな?」

「・・・ありがとう。すっごく嬉しいよ!勿論それでいいよ!君の事、いっぱい応援するよ!私も正直に言うよ。君と同じ大学に入ったのは、君の事が大好きで、君を支えて、一緒に楽しく過ごしたかったからなんだよ。アルバイトでお金を貯めてるのは、もし君がまた野球をやるって言ってくれた時、アルバイトで貯めたお金が少しでも役に立つかな~と思って、頑張ってたんだよ。良かった。本当に良かった」

「そこまで僕の事を考えて、頑張ってくれてたんだね。本当にありがとう。まずは野球部かサークルを立ち上げなきゃいけないし、メンバーを集めなきゃいけないけど、手伝ってくれるかな?それと、またマネージャーをやって欲しいんだ」

「うん!勿論いいよ!一緒に頑張ろうね!大好き!」

「うん!ありがと~!僕も大好きだよ!」

 この瞬間から、僕の二度目の野球生活が幕を開けた。僕と女子マネージャーの姿を、何処にあるのか分からない世界から、巨大なボールのお化けが微笑ましく見つめていた。

 読者の皆様にも、青春があったと思います。今、青春真っ只中の方もいらっしゃると思います。青春は、人それぞれですが、この物語の主人公は、一度諦めた青春を、再び取り戻せました。人間だけではなく、巨大なボールのお化けの力まで借りましたが。

 夢に出て来て、罵り、押し潰し、打球音を爆音に聞こえるようにしたという事で、やり方は荒っぽい事この上ないものでしたが、結果として、主人公は再び野球をやる事に決め、大好きな女性に想いを伝える事ができました。

 皆様も、行き詰った時、もしお化けが出て来たら、事態を打開する事ができるかもしれませんよ。勿論、穏やかな事では無いですが。

 短い物語でしたが、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。この物語の続きは、皆様の想像にお任せします。

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