第5話 新たな居場所
「お世話になりました......!」
「ああ、元気でおやりなさいな」
ラノアラがシグリアに頭を下げる。
リオルグとアルファルドの説得もあり、ラノアラは『ヘイルストラ』を辞めることとなった。
ラノアラの両手には、裏の薬草畑からシグリアが餞別にと持たせた、採れたての質の良い薬草たちが花束のように収まっている。
「この子こき使うんじゃないよ! 泣いて帰ってきたりなんかしようもんなら殴り込みに行くからね!」
「本当にやりそうで怖いんですよ......」
「ご心配には及びません。彼女も他の職員隊員同様、分け隔てなく平等に尊重されるべき方ですから。我々もしっかりサポートします」
シグリアの脅しにやや怯えるアルファルドとは対照的に、リオルグの声色は真剣だ。
「それなら頼むね。ラノアラ、またいつでも帰っておいで」
「はい......っ、ほんとうにお世話になりました!」
表から少し離れた所に、馬車が一台停まっていた。
「ご自宅までお送りします」
「あ......はい、すみません」
調薬道具などの荷物をアルファルドに預けると、リオルグがエスコートのためそっと手を差し出した。
まるで今まで一度もそうしてもらったことがないかのように、ラノアラが怪訝そうな目でその手を見つめる。
「どうぞ、お手を取ってください」
ラノアラが恐る恐る手を取り、馬車へ乗り込む。
リオルグとアルファルドがひとつ、目を見合わせた。
ヴァルグレイス侯爵邸へは、馬車で十五分ほどで到着した。
「では、明日の正午にまた迎えに上がります」
「......はい、申し訳ありません、何から何まで」
ラノアラが降りて行った後、車内ではリオルグとアルファルドが向かい合った。
「......侯爵家の令嬢とはまるで思えませんね」
「ああ、彼女を悪く言うわけではないが......」
馬車は騎士団本部へ向かって、ゆっくりと動いていく。
コンコン、という控えめなノックの音が、ヴァイルグレイス侯爵家の執務室に響く。
「誰だ」
「ラノアラです」
「入りなさい」
ラノアラが扉を開けると、父であるヘニング侯爵は執務机に肩肘をついて、何やら女性用のドレスの冊子を眺めていた。
「お願いがあるのですが」
「なんだ、小遣いならやってるだろう」
ヘニング侯爵は、ちらりとも目を上げない。
「明日からしばらく家には帰りません。外泊の許可をいただけますか」
「ああ、なんでもいい、好きにしなさい」
「はい、失礼します」
扉を閉める前に、これが似合いそうだ、という侯爵のつぶやきが聞こえた。
「......やっぱりもう、私には興味もないんだわ」
どこへだとか、誰とだとか、そんなことを聞かれるかもしれないと身構えていたラノアラは、安心と諦念の入り交じったため息を吐いた。
もう、ここへは戻って来たくない。
少ない荷物をまとめるため、ラノアラは自室へ足を向けた。
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