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第4話 専属契約

「うちの専属薬師になってくださいませんか」

「......はい?」


ラノアラを真っ直ぐな目で見つめるリオルグの表情は真剣そのものだ。

「ちょっ、ちょっとすいません、団長? いくらなんでも ──」

「いや、あなたは素晴らしい。是非うちの騎士団で働いていただきたい」

「だからちょっと待ってくれって。色々飛ばし過ぎなんだよ」

アルファルドが両手を挙げてリオルグの視界に割って入る。

ラノアラの顔は困惑でいっぱいだ。

「えっとですね、経緯をご説明しても......?」

アルファルドがラノアラへ顔を向け、少し困ったような顔で言う。


「── つまり、騎士団ではポーションなどの必要物資が不足しており、そのためにお抱えで働けてかつ腕の立つ薬師を探しておられて、それで私にお声をかけにいらっしゃったと?」

「そういうことです」

アルファルドが簡単に事の経緯を説明すると、ラノアラは考え込むように顎に手を添えた。

「ここで出している薬の中に私が作ったものがあるというのは、シグリアさんから聞いたんですか?」

「はい、それもつい昨日のことなんですが」

「そうなんですね」

リオルグは、ラノアラが出してきた薬を手に取って眺めている。

「失礼ですが、私のことはどこまでご存じでいらっしゃるのでしょうか?」

「どこまで......というと」

「私の家門のことや、それから、社交界の噂のことなどです」

毅然とした態度で言ってのけるラノアラに、アルファルドとリオルグが首をかしげる。

「あの、家門というのは?」

アルファルドがラノアラに尋ねる。

「ヴァイルグレイス侯爵が、私の父です。私は次女ですが、社交界に顔を出していないのでご存じなかったのでしょう。ヴァイルグレイスの次女ですよ。お分かりになったならお引き取り下さい」

淡々と、そして矢継ぎ早に喋るラノアラの顔は、無表情のように見えてどこか寂しそうで、なにか傷ついたように見えた。

「失礼いたしました、ご令嬢」

リオルグが持っていたポーションの瓶を置き、ラノアラへ真っ直ぐ向き直る。

「侯爵家のご令嬢だとは知らず、無礼をお許しください」

「そんな風にかしこまっていただく必要はありません」

「いえ、それで、騎士団には来ていただけるということでよろしいですか?」

「......はい?」

リオルグの突き刺すように一直線な眼光に、ラノアラがたじろぐ。

「あの、ですから私は ──」

「ヴァルグレイス家の次女といえば、私にも聞き覚えがあります。幼少の頃にお母上を失くされてから、ずっとお一人で薬学の勉強や研究にあたっておられたとか」

「ええそうです、だから ”オクスリ令嬢” と ──」

「尊敬します」

「......え?」

「お前もそう思うだろ?」

リオルグがアルファルドに問いかける。

「そりゃ、当たり前です。俺も伯爵家の三男で、ほとんど家を出るような形で騎士団に入ったんで。何と言うか、貴族らしくあることよりも大切なことってあるじゃないですか」

「......」

言葉の出ないラノアラの顔を覗き込むように、リオルグが片膝をつく。

「ご令嬢、いや、ラノアラさん。我々と一緒に来ていただけないでしょうか。騎士団内は身分の差や派閥の(いさか)いもなく、みな平等で一体です。社交界に顔を出す必要もなく、身勝手な噂を憂う必要もない。給与はきちんと支払われます。調薬や研究に使っていただくための専用の研究室もあります。寝食も保証します。......どうでしょうか?」

「ふっ......ふふっ、ふふふ」

急にクスクスと笑い出したラノアラを見て、うろたえるリオルグ。

「切実なんですね、とっても」

ラノアラは胸に手を当てると、しっかりと顔を上げ、リオルグの目を正面から見据えて言った。

「もうすぐシグリアさんが帰ってきます。一緒に話してもらえませんか、騎士団の専属薬師になると」

「それは......!」

「はい、私でよろしければ、どうぞよろしくお願いいたします」

ラノアラが微笑む。

リオルグとアルファルドが安堵の笑みを浮かべる。

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

リオルグが差し出した手を、ラノアラがおずおずと握り返した。


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