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第1話 オクスリ令嬢

私、ラノアラ・ヴァルグレイスは、いつからか「オクスリ令嬢」と呼ばれていた。


王国でも四家しかない侯爵家に生まれ、父であるヘニング・ヴァルグレイスは、先代が興した港事業を継いで財を成す事業主だった。


私が8歳、姉のオルティナが15歳の時に、母、エラが亡くなった。

私と姉のことをなにより一番に考え、理解し、寄り添ってくれる、優しくて聡明な母だった。

母が亡くなった原因となったのは、カラミア終息病という、王国でも症例のごく少ない難病だった。

数年をかけてじわじわと体温が下がり、やがて意識が薄れて、最後は意識のないまま極低体温で死に至る。

「終息病」と名前が付けられている通り、かかったら、死ぬまで治らない。治せない。

母は診断を受けてから2年後の夏に、低体温で亡くなった。

あの冷たさが忘れられなかった。


それから私は、起きている時間はすべて勉強と研究に費やした。

家には書庫なんてなかったし、父は女の子が勉強をするのをずっと嫌がっていたけれど、毎日王立図書館に通い詰め、与えられたお小遣いで薬剤の材料やポーション醸造の道具を買い集める私を見て、「母を失くして気がおかしくなってしまった哀れな娘」と思うことにしたようだった。


そんな日々を4年続け、私が12歳になった年の夏、父が「母」を連れてきた。

「カティーネだ。お前たちの新しいお母さんだよ。オルティナ、ラノアラ、挨拶しなさい」

「ごきげんよう、はじめまして」

すぐにひざを折って挨拶したオルティナに続いて、私もお辞儀をする。

新しい母は、優しい笑顔をしているように見えた。

「カティーネ、カルレッタはどこだい?」

「馬車の中よ。眠ってしまって。それより早く部屋で休みたいわ」

「ああもちろんだとも、さ、こっちへ」

父はカティーネ(継母)に、あろうことか、母の部屋を使わせた。


「二人とも、カルレッタだ。カルレッタ、お姉さまだよ」

夕食の席で、父は私と姉にカルレッタを紹介した。

「ごきげんようオルティナお姉さま、ラノアラお姉さま」

この時カルレッタは10歳だった。

淡い金の巻き毛に吊り気味な目、どちらも継母カティーネの見た目とは離れていた。

私と姉と同じ、淡い金色の髪。吊り気味な目。

カルレッタは、()()()()()()()



「ラノアラお姉さま~??」

ああ、また来た。

カルレッタの気味の悪いほどの猫なで声で、度々勉強や調剤への集中を削がれるようになって、もうかれこれ4年になる。

「今いいかしら~?」

16歳になった私は、王都に出入りする冒険者や騎士が使う、王都の中心部から離れた古い薬屋で、調剤と醸造の仕事をさせてもらっていた。

もちろん父には「侯爵家の令嬢が平民のように働くなんて」と頭ごなしに否定されたが、なんだかもう、「女だから」とか「貴族令嬢だから」とか、そういうしがらみに疲れ切っていた。

私は勉強と研究がしたかった。

母を奪った病を治せる薬を作りたかった。

そのために毎日必死でやってきて、ようやくこうして仕事にできたと思ったのに。

作業室のドアが勢いよく開き、豪奢な赤いドレスに身を包んだカルレッタが姿を現す。

「お姉さま、わたしお願いがあるんだけれど」

「......なあに」

「わたしたちこの間、フレイメイル公爵家のパーティーに行ったじゃない? その時にできた靴擦れが治らないの。オクスリ出してくれるわよね?」

カルレッタが我が物顔でスツールに腰かけ、わざとらしく足をさする。

「......ええ、では2時間後に取りに来てくれる? それと、私はそのパーティーには参加してないわ」

私の言葉を聞くが早いか、カルレッタは大げさに目を見開いて口元を覆った。

「あっ! そうだわごめんなさい! でも気にしないで、お父様がパーティーのために新調してくれた靴が少し硬かっただけなの!」

何を気にしないでなのか、全くわからない。

カルレッタはひょいと立ち上がると、わざとらしく笑いながら言った。

「でもわたしこれから騎士団の演習場に行くの。テオラス様にお誘いいただいたから! だからオクスリはお姉さまが家まで持って帰って来てくれる?」

テオラス、というのはフレイメイル公爵家の三男だ。パーティーで知り合ったのだろう。

「......わかったわ」

「わぁありがとうお姉さま! それじゃ、”オクスリ” がんばってね、ふふっ」

カルレッタは、足なんてどこも痛くなさそうな軽快な足取りで作業室を出て行った。


カルレッタがいつも閉めずに帰るドアを今日もまた閉めに行って、それから小鍋で火にかけていたアサリウム草とユモス花を確認し、その煮え切った様を見てため息をつき、火を止める。

火の魔石は安価で流通量も多く、日常生活に馴染みのある魔石だ。

しかし火力の調整が難しい点から、加熱するタイプのポーション作りは目を離さないことがなにより重要だった。

「はぁ......どうしよ」

ダメになったものを眺めていても仕方がない。

私は小鍋の中身を流し、靴擦れ用の軟膏を調合するためのはかりを手に取った。



お読みいただきありがとうございます。

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