カイの記憶と、揺れる診療所
診療所の扉を押すと、午後の陽光が優しく差し込む。
カイはベッドに横たわり、まだ意識は朦朧としている。
だが、胸に刻まれた紋章が微かに光り、リリアの前世の記憶を呼び覚ます。
「……ここは……?」
かすれた声に、リリアはそっと手を添えた。
「落ち着いて、カイ。ここは安全よ」
窓の外では、木漏れ日が揺れ、風がやさしく葉を撫でている。
診療所の静けさの中、微かな緊張と安心が交錯する。
エリスが小さく溜息をつき、窓辺に目を向けた。
「こんな静かな日でも、胸がざわつく……やっぱり転生者だから?」
ガイルは腕を組み、慎重に観察する。
「彼が何者か、確かめる必要がある。油断は禁物だ」
リオはベッドの横でカイの手を握る。
「でも、命の重みは変わらない。誰であろうと、助ける価値はある」
その時、カイの額に微かに光が走り、断片的な記憶が蘇る。
——異世界の戦場。
——助けられなかった仲間たちの声。
——リリアの手に救われた瞬間の感覚。
目を開け、カイはリリアを見つめる。
「……君が……リリア?」
リリアは小さく頷き、微笑む。
「そうよ、私だよ」
診療所は温かく、そして少し緊張感を帯びる。
命を救う使命、過去の記憶、これからの試練——
すべてが静かに交差する場所。
カイは弱々しく手を伸ばし、リリアの手を握る。
「……覚えてる。少しだけ、全部じゃないけど……君の手の温もり」
リリアは胸の奥で、じんわり温かさを感じる。
——この瞬間が、仲間との絆を確かなものにする。
診療所は、異世界での新しい物語の中心となった。