途切れた旋律
夜明け前の森は、まだ薄暗く、鳥のさえずりさえも息を潜めている。
リナは焚き火の跡のそばで膝を抱えていた。
夢の中で聞いた“オルゴールの旋律”が、頭の中で何度も繰り返されている。
けれど――どこかで音が途切れている。
「リナ、また眠れなかったの?」
声をかけたのはカイだった。
寝癖のついた髪を手ぐしで直しながら、彼は隣に腰を下ろす。
朝露の匂いが、静かに二人を包んだ。
「夢を見たの。知らない場所で、知らない自分に会ったの」
リナの声は少し震えていた。
カイは黙って空を見上げ、やがて小さく息を吐く。
「それ、きっと無駄な夢じゃないよ」
「……え?」
「だって、リナの見た夢が何かを呼んでる気がする。あの風の奥にある“何か”を」
カイの瞳には、焚き火の残り火のような光が宿っていた。
強くて優しい、けれど今にも燃え尽きそうな危うさを含んで。
そこへ、ミナとレオが眠そうな顔でやってくる。
「おはよ〜……てか二人とも早起きだね」
「うん、ちょっと風の音が気になって」
リナが答えると、ミナは耳を澄ませた。
――シュウゥゥ……
森の奥から、確かに“音”が聴こえる。
風が鳴らす音ではない。
何かが、奏でている。
「……ねぇ、今の聞こえた?」
「うん。あれ……旋律、だよね?」
カイが立ち上がり、森の奥を見つめた。
その先には、靄の中にうっすらと浮かぶ古い廃屋。
崩れかけた屋根、風に揺れるカーテン。
そして――確かに、音が流れている。
リナの胸がぎゅっと締め付けられる。
それは、夢の中で聞いたオルゴールと同じ旋律だった。
「行こう」
リナは一歩、霧の中へ踏み出した。
誰かが呼んでいる――そんな確信があった。
ミナとレオが顔を見合わせ、後に続く。
カイは少しだけ空を見上げ、静かに呟いた。
「やっぱり……まだ“物語”は終わらせてくれないか」
霧の向こう、音が途切れる。
それと同時に、リナの胸の奥で何かがはじけた。
――あの旋律の“続きを”見つけなければならない。
それが、この旅の意味を繋ぐ鍵のような気がしていた。
そして朝日が昇る。
霧を割って差し込む光が、彼らの行く先を照らしていた。
新しい一日が始まる――でもその足音の裏で、静かに何かが蠢き始めていた。




