風の記憶
森を渡る風が、リナの髪を優しく揺らした。
その風の匂いは、どこか懐かしくて、ほんの少し切なかった。
――カイと初めて出会った日も、たしかこんな風が吹いていた。
「変わらないね、この風」
リナがそう呟くと、カイは静かに頷いた。
「いや、少し違うかも。今は……俺たちの風だ」
彼の言葉にリナは目を瞬かせる。
照れ隠しのように笑ったその顔に、もうあの孤独な影はなかった。
ミナとレオも合流し、みんなで焚き火を囲む。
燃える木の音がぱちぱちと響き、風の歌と混ざり合う。
穏やかで、どこか夢のような時間。
でも――その夜、リナは不思議な夢を見た。
森の奥、白い霧の中に佇むひとりの少女。
彼女はリナと同じ顔をしていて、ただ微笑んでいた。
「あなたが、もうひとりのわたし?」
問いかけた瞬間、風が強く吹き抜け、少女の姿が消えた。
残ったのは、古びたオルゴールの音だけ。
リナが目を覚ますと、胸の奥に淡い痛みが残っていた。
それは過去からの呼び声のようで、未来への予感のようでもあった。
「風が教えてくれるの……まだ終わってないんだね」
朝の光が差し込む。
リナの髪をなでる風は、まるで誰かの手のように優しかった。




