再び、光の中へ
夜が明けた。
長い戦いの末、森を包んでいた重たい霧がようやく晴れ、木々の隙間から朝日が差し込む。
金色の光が診療所の屋根を照らし、焦げた木の匂いとともに、静かな温もりを運んできた。
リナはベッドの上でゆっくりと目を開けた。
天井を見つめながら、昨夜の出来事をひとつひとつ思い出す。
誰かの叫び声。血の匂い。カイの背中。――そして、あの約束。
「……終わったんだね」
小さく呟く声に、隣から穏やかな笑みが返る。
「終わったけど、始まったんだよ。きっと」
そう言ったのはミナ。包帯を巻いた腕をそっと撫でながら、窓の外を見つめていた。
遠くで鳥の鳴き声が響く。
世界は確かに動き出している。
けれど、その美しさに胸を締めつけられるような痛みが混ざっていた。
リナはそっと立ち上がり、外へ出る。
朝露が光る草原の向こうに、カイがひとり立っていた。
彼は何も言わず、ただ空を見上げている。
「カイ……」
振り向いた彼の瞳には、かすかな迷いと決意が宿っていた。
「リナ。俺……もう逃げない」
その言葉が、朝の風に溶けていく。
まだ冷たい空気の中、二人の影が並ぶ。
そして、初めて笑い合った――まるで、光の中に帰ってきたように。




