闇の回廊
夜の静寂を切り裂くように、冷たい風が吹いた。
森の奥——古びた石造りの回廊に、ひとりの男の足音が響く。
仮面の男、レオン。
その足取りは重く、まるで何かを背負っているかのようだった。
回廊の壁には、かつての仲間たちの名前が刻まれている。
その中に「カイ」の名もあった。
指先でその名をなぞりながら、レオンは小さく呟いた。
「……お前を、守るはずだったのにな」
過去の記憶が蘇る。
炎に包まれた戦場。
泣き叫ぶ子どもたち。
命令に背けば、全員処刑される——。
その夜、レオンは“選んでしまった”。
生き延びるために、仲間を切り捨てるという最悪の選択を。
「俺が死ねばよかったのに……」
仮面の下で、彼は唇を噛みしめた。
その時、背後から声がする。
「後悔しているようだな、レオン」
現れたのは、黒い外套を纏った老人——“導師カデル”。
この闇の回廊を支配する者であり、レオンに仮面を与えた張本人だ。
「感情は不要だ。お前が背負うのは贖罪ではない。“任務”だ」
レオンは俯きながら答える。
「……それでも、心が痛むんだ。あの頃の俺は、何も守れなかった」
カデルの瞳が一瞬だけ光を帯びる。
「ならば、次こそ守ればいい。この世界を——我らの手で作り直すのだ」
重い沈黙。
レオンは仮面に触れた。
その奥の瞳には、かすかな“迷い”が灯っている。
「……それでも、俺はもう一度、カイと向き合う」
「愚か者め。お前の心は、いずれそれを滅ぼすだろう」
回廊の奥へ消えていくレオンの背に、老人の声が冷たく響いた。
「滅びこそ、再生のはじまりなのだからな——」




