再び、光の道へ
夜明け前の森は、まるで息をひそめているかのようだった。
霧が足元を漂い、小鳥の声すら聞こえない。
カイは、静かに立ち止まった。
深く吸い込んだ冷たい空気が、胸の奥まで刺さるようだ。
ほんの数日前まで、彼は診療所のベッドに横たわっていた。
心も体も壊れかけて――それでも、戻ってきた。
「……結局、行くんだね」
隣に立つミナの声は、どこか寂しげだった。
「止めても、無駄だろ?」
「わかってるよ。でも、もう誰も傷つけたくないの」
「俺もだよ」
カイは笑った。けれどその瞳は、まっすぐ前を見据えていた。
“真実を見つける”――それだけが、今の彼を突き動かしていた。
森の奥へ進むほど、冷気が強くなる。
木々の間から、薄い光が射し込んだ。
朝日が昇る――夜が終わる合図。
「リラ、きっと怒ってるだろうな」
「怒ってるというより、心配してるんじゃない?」
「そうかもな……」
カイの脳裏に、あの穏やかな笑顔が浮かぶ。
白衣の袖をまくり、忙しそうに動きながらも、
彼の名を呼ぶときだけ柔らかくなる声――。
「帰ってきたら、ちゃんと話そう」
誰に聞かせるでもなく、ぽつりと呟いた。
そのころ、診療所では。
リラは窓辺に立ち、東の空が白むのを見つめていた。
彼のベッドは空っぽのまま。
残された温もりは、すでに冷めている。
「……無理してる顔してた」
自分の言葉が、かすれて消えていく。
彼が去る前に見せた、あの不安げな瞳。
“行かないで”と喉まで出かかった言葉を、彼女は飲み込んでしまった。
手の中のブレスレットが、小さく光を反射する。
それを胸に抱きしめた瞬間、
――ドンッ、と遠くで雷鳴が響いた。
リラははっと顔を上げた。
「まさか……森で?」
不安が走る。
嵐の予感。
それはまるで、これから始まる物語の号砲のようだった。




