影の接近
診療所に差し込む朝の光も、どこか冷たく感じる。
昨日の夜、森の奥で感じた“仮面の男の影”は、まだ消えていなかった。
「……いや、消えてないな」
カイは天井を見上げ、拳を握る。
「奴は動いてる。次は逃げられない」
窓の外で風がざわめき、木々が小刻みに揺れる。
リラはカイのそばに寄り、そっと手を握った。
「大丈夫……私たち、一緒だよ」
その言葉に、カイはわずかに微笑む。
「ありがとう……でも、油断はできない」
午前の診療が終わった頃、森の方向から黒い霧が忍び寄る。
診療所の周囲を取り囲むように、影がゆっくりと姿を形作った。
「来る……!」
シーナが杖を構え、魔法陣を床に展開する。
影が一斉に襲いかかり、診療所の扉を叩き、窓ガラスを揺らす。
だがカイは躊躇せず前へ進む。
「行くぞ!皆、俺について来い!」
闇と光が交錯し、魔法と剣の戦いが始まる。
影の一体がシーナの結界を破ろうと突進するが、リラの放つ光の魔法で弾き返される。
カイは影の群れを相手に、魔力の刃で次々と切り裂いていく。
しかしその中心に――仮面の男の姿がぼんやり浮かび、じっと見下ろしていた。
「やっと……動き出したか」
低く響く声が森に響き、影たちがさらに凶暴に動き出す。
「奴……あれが本体か」
カイの胸が熱くなる。
「次は……絶対に負けられない」
診療所の中、仲間たちの息遣いと魔法の光が入り混じり、まるで嵐の中にいるかのようだ。
戦いの最中でも、カイの瞳は揺らがない――
守るべき仲間と命、そして自分の過去と向き合う覚悟が、そこにあった。




