仮面の影
夜が深まり、診療所の灯りが小さく瞬いている。
リリアはカイの寝顔を見つめながら、森で出会った“仮面の男”の姿を思い返していた。
あの低い声。ぞわりと背筋を這うような気配。
「星の継承者たちよ」
──まるで、ふたりの存在を知っていたかのような呼び方だった。
「……どうして、私たちのことを……」
静かな夜気が窓を撫で、外の森がざわめく。
不安が胸の奥に静かに沈んでいく。
そのとき——
「……眠れないのか?」
声の主はミナトだった。
夜警のために外を巡回していたらしい。
ランタンの光に照らされた彼の顔は、どこか疲れていたが優しさを滲ませている。
「うん……考えてた。あの仮面の人、私たちのことを知ってた」
「俺も気になってた。あれは偶然じゃない。……何かを仕掛けてくるつもりだ」
ふたりは静かに診療所の外へ出た。
冷たい夜風の中、森の方角を見つめる。
霧が薄く立ち込め、月明かりに照らされたその奥に——
一瞬、何かが動いた。
「……っ!」
リリアが息を呑む。
木々の間に、銀色の仮面がかすかに光った。
その目は、まるで夜を見透かすように鋭い。
「やっぱり……見てる」
ミナトが剣に手をかける。
だが仮面の男は何もせず、ただ闇に溶けるように姿を消した。
リリアの背筋に冷たいものが走る。
これは“偶然”なんかじゃない。
彼らは、すでに“見つけられている”。
「リリア」
ミナトの声が少しだけ優しくなる。
「俺たちは、もう後戻りできない。……それでも、君は進むか?」
リリアは迷わずうなずいた。
「うん。守りたい人がいるから」
夜空には満天の星。
その光の下で、静かに次の章への扉が開かれる。
仮面の男との対決は──もう、避けられない。




