記憶の奥に眠るもの
森から戻った夜。
診療所にはいつもの静けさが戻っていたはずなのに──空気がどこか、張り詰めている。
リリアはランタンを灯し、治療台の横でカイの包帯を外していた。
「……熱は少し下がってる。傷の治りも、思ったより早いわ」
「君が……いてくれたから」
ふとしたやり取りの中にも、森での戦いの余韻が残る。
あの仮面の男。銀色の獣。
そして、何よりも——
カイの胸に刻まれた“紋章”が、かすかに脈を打っていた。
リリアは静かに問う。
「ねぇ……あの時、森で震えてたよね。何か……思い出したの?」
カイは目を伏せた。
それは痛みを伴う記憶。
言葉にするたびに、心の奥に隠していた何かが暴かれるような——。
「……俺は……前の世界で、仲間を……助けられなかったんだ」
声は震え、指先がベッドシーツを握りしめる。
「傷ついた人間を、見殺しにした。助ける術が、俺にはなかった……」
リリアの胸がきゅっと締めつけられる。
彼の痛みが、自分にも伝わるようだった。
「カイ……」
彼はゆっくりと顔を上げ、真っ直ぐにリリアを見る。
「でも今度は、違う。君となら……誰も死なせたくない」
ランタンの光がふたりの間を照らす。
その光は暖かく、そしてどこか涙がこぼれそうになるほど優しい。
リリアは彼の手に触れた。
「私も……看護師だったから。命を守ることの“重さ”は、知ってる」
「……だから、一緒に背負おう」
夜風が診療所の窓を揺らし、遠くの森からフクロウの声が聞こえる。
この瞬間、ふたりの心は静かに重なった。
——それは戦いよりも強く、確かな“絆”の始まり。




