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乙女たちの内緒の話 (翠視点)

隣で、テレビの画面に夢中になっている幼馴染の男の横顔を眺める。

宮野和泉だ。

儚げな見た目とは裏腹に、グロテスクなモノで目を輝かせてる姿には、ちょっと驚くけど。


男にしては可愛い顔をしてる。……なんて言ったら、本人には怒られそう。気にしてるものね。

その幼馴染の男が、ふとこちらを見てきた。不思議そうに首を傾けた。


「どうかした?翠ちゃん」

「ううん…何でもない」

「何でもないのに、僕の方を見ててくれたの?…嬉しい」

「ちょっと、そういうのヤメテ。…違うから」

「あはは」


上品に微笑むその表情は、よく学内では「王子様みたい」と女子たちからは評されている。

爽やかな好青年。……私にとっても、彼の印象は昔からそのようなものだ。


昨日、私はこの幼馴染に告白された。

私が部活の先輩に告白された、と言ったら、この男は焦るでもなく、『僕と付き合って』。

ただ身近に居る女が居なくなりそうな気配がしたから、そんなことを言っただけ。

彼が私に向けるベクトルなんて、そんなものだ所詮。


とは言っても、だからどうとかではなく。

元々付き合う気はなかったから、私はあまり迷わずに、彼の告白を断った。


彼に告白されるのは、人生で2度目だった。

でも1度目と違って、彼は意外にも食い下がってきた。『幼馴染以上になりたいんだよ僕は』と彼にしては珍しく、言葉に熱がこもっていたから、驚いた。


彼は、変わっているのだ。


他に女の子を探せばいいのに。貴方になら、大体の女の子は好感を持つのに。


何で私?


ーーーー諦めて欲しい。


それが私の正直な本音だった。


お兄ちゃんと来海ちゃんみたいな幼馴染の方が、よほど珍しい。小さい頃からお互いを想い合って、変わらず好きなままで、順調にお付き合いして。

でも、和泉は、多分…あの2人に憧れてるんだろう。


だけど、私は和泉とは…付き合いたくない。


寧ろ、幼馴染のポジションだってやめて、距離を置かせて欲しいーーーとまでは想ってないけど、近しいことはよく考える。


幼馴染じゃなかったら、良かったのに。


そうしたら、同じ学校の、違うクラスの、誰かと誰かで居れたのに。



階段をぱたぱたと降りてくる音がした。それも、2人分。絶世の美少女と、身内ながら整った顔をしている男。……来海ちゃんと、お兄ちゃん。


「碧くん……っ、あの番組のせいで今夜は1人で寝るの怖いの……!だから、一緒寝よう?お願いっ」

「昨日俺がどれだけ頑張ったと……2日連続は俺の精神が持たん。だから、すまんが却下」

「ふぇぇ、怖い……1人で寝るのやだ。……私は何起こってもいいって、言ってるのに……碧くんのガードが固いよう……!」

「だから、何でそんなこと言っちゃうかね!?段階飛ばしちゃいかんだろーが。ほら、うちの妹貸してやるから。幽霊が出ても動じないクールガールを貸してやるから」

「うう……じゃあ、翠ちゃんと寝る……今日は翠ちゃんに癒されてくる……」

「おう、そうしなさい」


お兄ちゃんが来海ちゃんの頭をぽんぽん。来海ちゃんも嬉しそうに瞳を閉じている。もっとして、と言わんばかりに甘えていた。


うちの兄とその彼女は、いつもこんな具合だ。周囲にお構いなしで甘すぎて、時々砂糖を吐かされる。

でも美男美女なので、ドラマのワンシーンを観ているようで、許せてしまう……というのが私を含めた周りの心情だと思う。


ちょうど心霊特番は終わる頃で、平和なエンディングが流れていた。

ホラーが苦手な来海ちゃんを考慮して、お兄ちゃんは今降りてきたのだろう。翠、と名前を呼ばれる。


「……ということで、今夜は俺の代わりに来海の添い寝を頼む。赤い女が出てきそうで、怖いんだと」

「別にいいけど………お兄ちゃんがしなくていいの?お兄ちゃん変態紳士だから、嬉しいでしょ?」


お兄ちゃんの顔が歪んだ。


「妹よ。俺に変な属性をつけるんじゃない。誰が変態紳士だ、誰が」

「紳士なら2日連続精神が持つと思うけど」

「あの美少女相手に一晩何もせずに我慢しただけ、俺は男として賞賛されるべき。よって、お前の説は不成立」

「………はあ、じゃあお兄ちゃんは変態ってことで」

「おい待て。おかしい。何で一番アウトな方を取り出すんだ!?どう考えても紳士じゃろ」

「普段の言動」

「………あのな。それ言われたらもう何も言えねえすわ。舐めた口聞いてすみません!」

「よろしい」


結論、我が兄は来海ちゃん限定の変態。

だけどお母さん曰く、人格形成の途中で何かあったとかではなく、生まれた時かららしい。

お母さんは自由人だし、お父さんは寡黙だし、じゃあお兄ちゃんのその変態ぶりは誰の遺伝子だろう?謎だ。


……とは言ってみるけど、私は知ってる。

お兄ちゃんのコレは、お父さんの血筋だ。

お父さんもお母さんに対して、お母さんが帰って来る度にいつもこんな感じだ。

お兄ちゃんは、知らないみたいだけど。


話を聞いてたらしい、来海ちゃんと和泉の母親である都さんが、ぽんと手を合わせた。


「あら〜、今夜は翠ちゃんが我が家に泊まってくれるの〜?嬉しいわぁ。…あ、碧ちゃんも泊まる?和室なら空いてるわよ?」

「いえ。今日は、父親も帰って来ないらしいんで。家を留守に出来ないし、宮野家にもお邪魔なので、今夜は遠慮しておきます」

「そーお?残念ねぇ。じゃあ碧ちゃんも、戸締りだけは、きちんとしておいてね」

「はい」


お兄ちゃんは、じゃあ翠頼んだ、と言って大倉家に帰って行った。

や、お風呂入ってないし、歯も磨いてないし、すぐにそっちに私も帰るんだけど……。


「うふふん、今日は翠ちゃんとお泊まりだ〜。嬉しいな〜」


きゅう、と私に抱きついた来海ちゃん。来海ちゃんの胸に頭が埋もれて、同性の私でも変な気持ちになった。あと、すごくいい匂い。

確かに、これはお兄ちゃんが変態になるのも仕方ないのかもしれない……。


あと、すごい可愛い。いちいち発言が可愛い。


「………お泊まりかあ。翠ちゃん、夜に僕の部屋来たりしーーーー」

「うるさい。蹴る」

「わー、ストレート〜」


和泉が変なことを言って、毎度のごとく私を揶揄って来ようとしてきたので、一蹴。


昨日私にフラれて、軽口だとしても、夜這いに誘えるそのメンタルがすごいと思う。

ほんと、変な男。


いつになったら、諦めてくれるかしら。



******


大倉家に戻り、諸々の支度を終わらせて。

今は、来海ちゃんの部屋。

来海ちゃんの寝巻き姿……ネグリジェって言うらしいけど、うん、可愛い。

どこかの良家のお嬢様みたい。


この美少女が彼女って、お兄ちゃんはすごいのかもしれない。


2人で布団をかぶって、仲良く寝る。

まるで本当のお姉ちゃんみたい。

お兄ちゃんほどぶっ飛んではないけど、私だって来海ちゃんとは仲が良いのだ。同性同士だしね。


私はずっと気になっていたことがあって、つい来海ちゃんに訊いてみた。


「………来海ちゃんって、お兄ちゃんと付き合ってて嫌になったりしないの…?」

「へ?な、何で…?」


来海ちゃんがキョトンとしていた。本当に分からないらしい。

来海ちゃんって、天然とか、鈍感なのかな……。

あのとち狂った兄相手に、よく辟易しないものだ。


「いや、だってお兄ちゃん……重くない?」

「そう……?」

「そうだよ」

「ええと。でも、私の方が重いよ多分……」

「いや、ない。あの兄より重いは、ないよ」

「ええ……?そんなことないよ……?私、すっごく重たいもん……」


来海ちゃんは重いというより、ヤキモチ持ちな気がする。お兄ちゃんが他の女の子と話してると、小学生の高学年とか、すごく悲しんでたし。

私はその頃小学校低学年とかで、『何で来海ちゃん悲しそうなんだろー?』とぼんやり思っていた覚えが。


お兄ちゃんは、多分知らないと思うけど。



昔は、あの兄は結構、今のように来海ちゃんに対して分かりやすいようで、案外分かりやすくなかったのだ。

優しいのは勿論だけど、ハッキリ好意がダダ漏れだったかというと……ちょっと違う。

「好きとかじゃなくて、ただ優しくしてるだけだよ」と言われてしまえば、こちらが引き下がるしかないような。


変態なのは昔からとして、お兄ちゃんはそれを来海ちゃんの前では、綺麗に隠していた。

良き隣人ならぬ、良き幼馴染。


優しいけれど、来海ちゃんからしたら多分……お兄ちゃんが恋愛の意味での好意の見えない男に思えていたんじゃないかと思う。

来海ちゃんが一時期、お兄ちゃんの掴みどころの無さに悩んでたのも、私は知ってる。


ーーー中学の途中から、変わったような気がする。


あの頃のお兄ちゃんは……何だか、時々1人で何かを思い詰めた顔をしていた。


まあ、今では、立派なオープン変態だけど。

よく来海ちゃんと付き合えたなと思う、ほんと。


「重いの、やじゃない?」

「うーん。私は、嬉しい、かな?好きで居てくれるなら何でもいいなあと思っちゃう。あと単純に、私すぐにあれこれ悩んじゃうタイプだから……その方が助かるというか、嬉しいの」

「……そっか」

「翠ちゃんは、嫌?」

「………どうだろう……分からない、かも」


自分でも分からない。


私には、今好きな人が居る。

違うクラスの、同い年の男の子。

それは、紛れもない事実。


でも、付き合うのは理想ではあるけど、違うなあと思っている自分が居るのだ。


「……難しい………」

「ふふ、翠ちゃんらしい」

「……恋愛下手?」

「ううん。よく考えて、最良を見つける。しっかり者の翠ちゃんらしい……」


怖いと言っていた割には、来海ちゃんは私が居たからなのか、すぐに眠りに落ちた。でもやっぱり無意識に幽霊に怯えてるのか、私が来海ちゃんの抱き枕と化していた。


昨夜の兄もこんな感じだったのだろうか?


だとしたら確かに、うん。

この状態を何もせずに耐えたのは、紳士と称えるべきなのかもしれない。


女の私でさえ、柔らかい感触にやられて、変な気分になってるのだから。

恐るべし来海ちゃん。


私も、瞼を下ろして眠りに就いた。


第三章も、あと少しで終わりです。

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― 新着の感想 ―
兄貴とはほぼ真逆の感情なんですね これは余程の事件がない限り和泉に矢印向くことはなさそうですね  
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