表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/100

嘘つきは誰だ

「ーーだって。あれだろ。和泉が、俺への告白の言葉が書かれた来海からのメッセージカードを、来海の部屋のクッキー缶に入れたんだろ?」

「そう、和泉。私もやらかしてるけど、貴方は、自分でもはからずにも、もっとやらかしてたのよ………」


「はい?」


大倉家に突然呼び出され、『名翠理劇場』に説明のないまま同席させられ、挙げ句ギルティ宣言してきた大倉家の兄妹に、宮野和泉くんはぽかんとしていた。

こりゃあ、往生際が悪いというものだ。

状況証拠は、出揃ってんでい!


和泉は、眉をきゅっと下げた。焦ったように、席を立ち上がった。手をあわあわ。


「ちょ、ちょっと待ってよ!だから、さっきか何の話をしてるのか説明して欲しいんだけど!?」

「やれやれ。手のかかる弟分だ。仕方ないなこんにゃろう。兄貴が説明してやる」

「は、はあ……」


和泉はしきりに首を傾げながら、納得の行かない様子。目の前の迷える子羊を、導いてやらねばなるまい。むくむくと使命感が湧いてきた。


俺も真実に気付いた者の1人として、『名翠理劇場』の儀礼に従い、顔の前で指を組んだ。深い思案顔。それでいて、真っ直ぐと真実を追求する目。

これで、回転椅子があれば、やはり完璧な探偵ドラマなのに。

ポチろうかな。


「ーー事件のあらましはこうだ。バレンタインの前日。2月13日。この日、来海と翠は、2人でバレンタインチョコ作りをしていた。その際、以前2人で買いに行った同じ箱を、並べてキッチンの上に置いてたんだそうだ。バレンタインチョコを入れる用の」

「は、はあ……」

「ところがどっこい。翠は、友人からの電話で途中離席。既にチョコは…あ、ドーナツか。ドーナツは作り終えていて、後は箱に入れるだけだったそうだ」

「はあ、……あ。ドーナツ、美味しかったよね。僕は翠ちゃんにミルクチョコレートとナッツ掛けのドーナツもらったんだけど、碧兄ちゃんはどうだったの?」

「あー俺か?俺は、来海にビターチョコレート掛けに砂糖漬けのオレンジが散りばめられた本気の一品だった。マジで美味かった」

「ねー、ちょー美味しかった」


和泉がちらりと贈り主の方を見た。

「本人の前でヤメテ」と言わんばかりに、ストレートに褒められて照れたらしい翠が、ペシペシと和泉の腕を叩いた。

そういうのは陰で言って、と恥ずかしがり屋全開である。それでも和泉は気にした風ではないのだから、このツンデレな妹を相手にできる和泉は、上級者だなと思う。


そうだな。ドーナツ美味しかったなあ、また食べたいなあ。


……って、いかん!話が脱線してしまった。おのれい、和泉はかったな。


俺は塩のイチャつきを始めた義弟と妹に、合図代わりに咳払いをした。


「…こほん。話を戻す。それでだ。離席した翠が帰って来ると、並んでいた箱が分かりやすく()()()()()()らしい。それをしたのは、恐らく来海。そして、翠がどの瞬間でも目撃していないことから、来海がこの、翠の居ない間にカードを箱に入れたのは間違いない。確かに、ドーナツを箱に入れてからカードを入れるよりも、カードを入れてからドーナツを入れたと考えた方がしっくり来るしな」

「はあ……」


ここで俺は、以前の桜井さんとの会話を思い出した。

俺がまだ来海に他に彼氏が居ると勘違いしていた頃。

学校の非常階段で、来海の告白事情を知っている来海の親友の桜井さんに、話を聞いていたのだ。


その際、桜井さんが語った、来海とのバレンタインデー翌日の会話は、以下の通り。


『ちなみに、どんなふうに告白したの?』

『ふふーん。バレンタインチョコの箱の()()メッセージカードを仕込んでおいてね!ーーーーー』


はい、ここで皆様。

来海は「箱の底」と言っている。

だから、順番は

箱の底にカードを入れる→上からドーナツ入れる…

の流れが妥当だと思われる。


来海と翠はドーナツを作り終えた後、包装までやったはずだ。

『箱をキッチンの上に並べていた』という翠の発言から、ドーナツを箱に入れる、その工程まで2人が一緒に居る時にやった、というのは、想像が及ぶ。

その工程までやろうと思っていたから、キッチンの上に箱を並べていたのだ。


うちの妹と解散した後に、来海が、既にドーナツを入れてある箱にカードを入れたとは考えにくい。

底にカードを入れるために、持ち上げてドーナツが崩れるリスクを起こしてまで、来海はカードを後から入れようとするか?否。


だが、来海がカードを箱に入れたのは、ドーナツよりも前でなくてはならない。


よって、翠が離席した時に、来海はカードを箱に入れていたと考えられる。


「何故、来海は箱同士の距離を空けたと思う和泉?」

「ええと……2つが同じ箱だった。そして、お姉ちゃんはそのうちの1つにカードを入れた。でも並んで置いてたら、見分けがつかなくなっちゃうかも。……だから、分かりやすく離して、置いた?」

「ザッツライト!……て、まあ俺も推測の域を出ないんだが。恐らくな」


分かりやすく離しておけば、自分のモノ……カードを入れた方がどちらの箱なのかが、一目で分かる。

そういう心理からだろう。


「ところがーーーー、っていうのは、お前の口から聞かせてくれ翠」

「うん。何があったのか話すね」


この事件の一端となったうちの妹は、こくりと頷いた。協力的に、俺と和泉に説明してくれた。


「………それが……その、私、その時、肘がぶつかって箱を両方とも床に落としちゃったの。キッチンの上の後片付けしようと思って、ぽん、と。マットが敷いてあったから、箱が傷付いたとこはなかったんだけど…」


偶然の産物。意図しない悲劇。

床に落ちた2つの箱。


「ちょうどその時、来海ちゃん…自分の部屋に行ってて。そして、私も、箱のうちの1つにそんな重要なカードが入ってるって、知らなくて。とりあえず、箱を拾って並べたの。ーーーー()()()()()()()()()()()()()。そのうちに、来海ちゃんが帰ってきて。2人でドーナツの包装して、箱に入れたの」


そして、更にここがまた悲劇である。

翠は生真面目な性格なので、「よく分からないが帰って来たら来海によって離されていた」2つの箱の位置をきちんと再現してしまったのだ。

もし箱の位置がズレていたのなら、来海も気付いたであろう。「あれ?翠ちゃん動かした?」と。


しかし、うちの妹がきちんと再現してしまったばかりに、何の違和感もなく、来海は「カードの入った箱だと思っている方の位置に置いてあった」箱に、俺宛てのドーナツを入れた。


恐らくーーーその時に、()()()()()()()()()()のだ。


「箱の中って、紙製緩衝材……いわゆるペーパーフィラーが敷き詰められてたんだが、来海はその下にカードを入れたんだと思う。だから、ドーナツ入れる時にも気付かなかったんだろうな……」

「私が『箱さっき落としちゃったの、ごめんなさい』ってその時に言えば良かっただけなのに。そしたら来海ちゃんも確認したよね……ごめんなさいお兄ちゃん……来海ちゃんも……」

「いや、それが正直良かったとは思うが、仕方ないよ。翠も知らなかったわけだしな」


問題は、その後のカードの行方である。


もう、分かっただろうか皆様。

このバレンタインに起きた悲劇の真犯人が一体誰なのかーーーー!


和泉はようやく合点がいったように「あ」と小さく発した。落ち着かないように、鼻に手を当てた。整った鼻梁を、バイオリンの弓の如く、指がすっと撫でた。


おう…ついに自覚したようだな。迷える子羊こと、うちの義弟は。


「その入れ替わった箱に入っていたカードは、翠の手元にあった。そして、それは…バレンタインデーに翠から和泉……お前の手に渡ったはずだ!」


バレンタインデーに、うちの妹がチョコを贈る相手は昔からこの男。和泉である。

つまり、そのカードが入った箱は、和泉の手元に現在あるわけである。


おまけに、ペーパーフィラーの下にあったカードは、何故か来海の部屋のクッキー缶に入れられていた。

これは大問題だぞ、和泉くん?


わざわざペーパーフィラーをどかし。


()()()()()()()()()()()()()()()()()俺にも来海にも黙って、来海の部屋にこっそり入り、クッキー缶の中に入れたのだーーーー!


圧倒的にギルティ!


来海と余計なすれ違いをさせられた日々も含めて、これはギルティ!


俺は席を立ち上がり、両手をついた。

誰かカツ丼とスタンドライトを寄越してくれ!

探偵ドラマは終わりじゃ!ここからは、刑事ドラマでお送りします!

この義弟に、色々と吐かせにゃならん!


「さあ、和泉よ。白状しろ。お前がこのバレンタイン闘争の真犯人ーーーー」

「ちょっと待ってよ、碧兄ちゃん!」

「何だ!?状況証拠は揃ってるんだ!往生際が悪いぞ!観念しろ宮野ーっ!」

「何のキャラ!刑事ドラマの世界に入り込まないで!?てか、言うけどーーーー」


和泉は、不可解そうな表情を浮かべて、かぶりを振った。



「お姉ちゃんの部屋のクッキー缶に入れたの僕じゃないよ。そもそも、クッキー缶って、どれのこと?」




ホワッツ?







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ