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何で慰めに来なかったのかと訊かれる

都さんに略奪愛をそそのかされた俺は、心を落ち着けるべく、朝の公園のベンチで何やら人生経験豊富そうなジェントルマンさんとお話をし、そのジェントルマンさんの悩みなんかを聞いてあげた。


そのジェントルマンさんの孫娘の婚約者が幼馴染に入れ込んでおり、孫娘さんはどうアプローチすればいいのか困っているという話だった。

何だか話を聞いていると他人事のように思えず、俺とジェントルマンさんは意気投合。最終的に連絡先まで交換した。


大なり小なり、皆んな何かしらの悩みを持ってるもんなんだなあ。


まともな登校時間になり、だけど何となーく行きたくなくて、時間をコンビニで潰してから学校へ向かうと、俺は教室が何やら騒がしいことに気付く。


理由は、明白だった。


「…ま、待ってたよ、碧くん」


他クラスの来海が、何故か俺のクラスの教室に居たのだ。

しかも、俺の席の前で待ち構えている。

美少女の登場に、教室中がざわざわしていた。

目立つの苦手なくせに、どういう風の吹き回しだ来海ちゃんよ。


朝から来海を目に入れることが出来て、あまりの可愛さに吐血するかと俺は思ったが、ぐっとこらえる。

いかん、俺がしっかりするんだ。


マズいぞ…これは、大誤算だ。

あの気まずいキス未遂の一件により、しばらく接触を控えるようになると思ってたのに!


これは俺の方から、徹底的に、今度こそ離れるきっかけを作ってやらねば。

俺が略奪愛に目覚めてしまう前にだ!


俺は表情を引き締めて、わざとそっけない声を出した。

「昨日俺に泣かされておいて、よく来たな。偉いぞ来海」

「……っ、!?声冷たいのに、褒められてるっ!?」

「はあ!?ち、違うっ!!これは違う!!テイク2、撮り直すぞ!仕切り直しだ!!」


うう。しくった。

俺の染みついた来海全肯定癖が邪魔してくるぅ……。

気を取り直して、テイク2。


「ふん。俺に泣かされたのもう忘れたのか。のこのこ来やがって」

「え……っ、あ……っ、ご、ごめんね……!!私、私……、昨日は、最低とか言っちゃってごめんね、碧くん。クッション投げちゃって、ごめんね…。謝りに来たの今日は……許して碧くん」

「!?ふんぬぬぬぬぬ………!!」


ちょっと涙目になりながら、俺にごめんなさいする来海。

その健気さに、全大倉碧が泣いた…!

もう俺の手が来海の頭に伸びようとしていた。


…っ、だあ!!!

絆されるな、俺。

ここであっさり受け入れてしまったら、浮気相手ルートのままだ。

来海に、俺と距離を置かせるーーーー。


すなわち、早い話が俺が嫌われるように仕向ける。



嫌だ!!!



何だその最悪の作戦!

だけど、もうこれしかないんだ。

キスしようとしても拒まれないんだぞ。

来海の俺への絶対的信頼と情は、並々ではない。

説明だけで倫理観を正すのは、無理だったしな。

もはや、残された道は、ただ1つのみ。


「別に謝罪なんていい。もう……いや、しばらく俺に話しかけるな。俺が目立つの嫌いだって知ってて、こんな大勢の前で謝ってくるな……はぁ、来海もこういうの苦手なのに、そんなに早く俺と仲直りしたかったなんて可愛………っ、か、か、顔見せるな、もう俺のことは放っておけよ!」

「……………っ!!」


何か途中で本心がダダ漏れになりそうだったので、急いでまくしたてる。

俺の人生初の、来海ちゃんへの暴言タイムである。


ここまで言えば、流石に来海も怒るだろう。

『私は謝ったのに!元々碧くんが悪いくせに!最低ー、もう知らないっ!』みたいな反応が返ってくるはずだ。


ーーーーしかし。


ぽたっ。


俺の手元近くに、雫が落ちる。

木製の机が、濡れて色が濃くなった。


俺が顔を上げると、来海が目を押さえていた。

白い指の隙間から涙が落ちていく。


「あ、く、来海……」

「いつもなら碧くん、私が泣いたらすぐに追いかけてくれるのに、ごめんねってよしよししてくれるのに、昨日は、何の連絡もなくて……っ!!本当に嫌われちゃったって!!だから、急いで私、謝りに来たのに……!!ううう〜、もう駄目なの?碧くん、私のこと嫌いになっちゃったのぉ〜!?」

「………あ、ち、ちが」

「ごめんね……私のこと、嫌いにならないでよぉ…!碧くんに嫌われたら、私生きていけないよぉ〜っ!碧くんの馬鹿馬鹿っ!私たらし!私限定たらし!ううう、ちゃんと駄目なとこ直すからぁ…っ、嫌いにならないで……ひく。それとも、もう駄目なのぉ……?」

「……そっ、」



俺は、目をかっと開いた。



「そんなわけあるかぁぁぁっっ!!!??ごめんごめんごめん、来海!!ごめんな!本当にごめん!!」



来海を泣かせるなんて、俺は大馬鹿者だ……

早く全力で慰めるのである!


作戦など、全部頭から吹っ飛んでしまった俺だった。



******


自分の教室に登校してきた(はやて)は、何やら教室が騒がしいことに気が付いた。

一体何事だろうか。


しかし、理由は明白だった。


クラスメイトたちの関心は、教室の端の席に座っている一組の男女。

颯がよく知っている友人の男は、幼馴染の美少女を横抱きのようにして膝の上に乗せ、泣いている彼女を全力で慰めている。


「う…うう…っ、さっきは、何であんなこと言ったの……碧くん、ひどいよ……」

「ごめんね、ごめんな。全然、本心じゃないから。ごめんなさい」

「うう……昨日もキスを寸止めされて。なのに、その後、碧くんはからかってくるし。女の子なら、傷付くよあんなことされたら……」

「違います違うのです。あれは違うんだ……!俺はちゃんと抵抗しろって、最初に言っ……」

「言い訳は聞きません。碧くんは罰として、私の頭をホームルームが始まるまで撫でるの!」

「はい、来海王女……仰せのままに…今日も可愛いらしゅうございます」


………いや、何コレ。

周囲を見渡せば、クラスメイトたちは砂糖を吐く寸前。ある程度耐性のある颯でも、砂糖を吐きそうだった。


まあ、学年の間じゃ有名な幼馴染の2人だ。

この光景を知っている者も、少なくない。


来海に彼氏が居るという噂は、デマに違いなかった。


しかし、一昨日の夜に碧から電話が掛かってきて、「来海に彼氏が居た」と泣きそうになりながら颯に報告してきた。


来海に彼氏が居るーーーーーー。

そんなことが果たしてあるのか。


もしくは、碧が……


「告白を、見落としてた……?」


しかし、それは碧の性格上、考えづらい仮説であった。












ジェントルマンさんの孫娘の婚約者…(ボソッ)

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