世界ってこんな輝いてたっけ(バカ)
第三章がカオスになりませんように。(無駄な祈り)
ここ数日は、目が覚めると、まるで世界が変わったように思う。穏やかな気持ちに包まれ、世界のすべてを祝福したくなる。
それを1人で噛み締めるのが、朝の至福である。
本日もいつも通り俺は1人ーーー。
「碧くん、おはよう!」
俺のベッドのサイドにしゃがみ込んで、俺を見上げているニコニコ顔の来海。
既に軽い化粧も済ませ、髪はアイロンで綺麗に巻かれてあった。
俺は目を瞬かせた。
あれ、まだ俺は夢の中だったりするのだろうか。
「……おはよう…?」
「うん!珍しく早起きしたから、碧くんを起こしに来た!」
「……最高か…」
俺はあくびを噛み殺す。頰がだらしなくゆるんでしまいそうだったので、ちょっと修正して、俺は笑った。
来海は朝に弱く、俺は朝に強い。
世間一般で言えば距離感バグってた幼馴染時代(自覚してたけど両想いだからよしとしてた)から、俺と来海の朝は、俺が来海の家に起こしに行くのが定例だった。
まあ、そんなに回数は多くなかったけど。
来海に起こされるなんて、そんなイベントはじめて………
「はじめて!?」
「ん?」
「はじめてだ……来海に起こされるのはじめてだ!ど、動画撮っていいかっ?この記念的瞬間をスマホに収めたい衝動に俺は今駆られてるー!」
「えへへ、しょうがないなあ」
しぶりもせずに、すぐに許可出してくれる来海は控えめに言って神だと思う。天使なの?あれ、矛盾してしまった。神にして、天使。よし、それでいこう。キリストのお偉いさんに怒られたらどうしよう。思想の自由を保障して。
俺はベッド脇に置いていたスマホから、充電ケーブルを抜いて、画面を開いた。
あれ?ロックが掛かってないのは何故だろう。
俺は一定時間内にロックを一度でも解除したら、しばらく画面をロックなしで開けるように設定してるのだが……
つまり、15分以内に俺のスマホのロックが一度解除されてることになる。
……?
まっ、いいか。それより来海ちゃん〜!
この朝の来海を撮らねば!
多分スマホは来海が見たんだろう。もう、心配症だなまったく。
俺はカメラを立ち上げて、スマホを来海に向ける。
「来海……さっきの、もう一回くれ!おはようのところから!」
「ふふん〜、……"おはよう碧くん?"」
上目遣いに俺を見上げて、スマホを構えている俺の頰をつんつん。
くぁ、アレンジ入れてきやがったよ!最高か!
これでスマホで何度も擬似体験できるぜ、くく。
「それはそうと碧くん!そろそろ準備しないと、見送りの時間に間に合わなくなっちゃうよー?」
「お、それはマズい」
来海に礼を言って、スマホの電源を落とす。
ちらっと見えたホーム画面には、予定していた家の出発時刻の1時間前だった。
ここから空港まで、かなり時間がかかる。
あの幼馴染の男とその婚約者のフライトにはまだ早い時刻だが、何事も早めの用意が肝心である。
……そう、今日が、色々あったあのクソイケメンこと陽飛と金髪ブロンドさんがロサンゼルスへ帰る日なのである。
陽飛は「帰りたくない」と駄々こねたらしいが、金髪ブロンドさんの一喝で、泣く泣くロスへのリターンが決定していた。
俺は正直見送るつもりはなかったのだが、陽飛が「じゃあ俺ほんと帰らないから」とか脅してきたので、仕方なく来海を伴って奴の見送りに出向くことにした。
まあ、来海の誕生日にはクルーズ貸してくれたりしたし……致し方ない。
来海との空港デートということで手を打とうじゃないか。
俺は着替えようと、タンスからパーカーとズボンを取り出した。朝起きたらまず、俺は着替える派だ。顔を洗ったりなんやらを階下でしてから、わざわざ2階の自分の部屋に戻るのが面倒なため、というズボラな理由であった。
「………えっと」
「うん?」
先ほども断ったが、これははじめての朝である。来海が俺を起こしに来て、部屋に居るこの現状。
俺が何を言いたいか分かるか?
来海は何も分かってないようで、首を傾げる。
いや、まあ、気にしてないなら、こっちは別にいいけど……
「えっと、着替えるぞ?」
「うん!」
来海は、こくりと頷いた。
俺をじーっと見ている。そんなに見られると、気恥ずかしいが…。
……あ、ちゃんと分かってるのね。じゃあいいけど。
え、いいのか?
俺はこの手の分野はまともな判断が出来ないので、誰か常識を教えて。
俺はスウェットの上を脱ぐとーーー
「へぁ……っ!?み、見ちゃ……」
「え?」
脱いだスウェット片手に、来海の方を向くと、来海が顔を真っ赤にしていた。なんかふるふるして可愛い。
いや、上半身だし、別に…?
ていうか、シャツ着てるんだけどな。
流石に全部脱ぎ出したらキモいかなと思って、今日はこのシャツの上にパーカーでも着ようと思ってた。
付き合いたてだから、慎重にな。
ここにきて、来海に冷められたら咽び泣く。
………うーん、もっと鍛えようかな。
部活で筋トレはしてるけど、並の量だし。
ふ、来海に、碧くんすごいって、言われたい。想像したらはかどりすぎて、自分は変態かと思った。
変態か。
来海は、口元を両手で隠して、
「………み、見ちゃ、ちら、ちらっと、見ちゃった…」
「ん?」
「……ふき、しゅ、しゅごぉい……碧くんが、男の人だ……」
「ええと……大丈夫か?」
俺は赤みのひかない来海を心配して、俺のベッドに腰掛けてる来海の額に手を伸ばすと、来海の肩がびくりと跳ねた。
俺の手が来海の額に触れる前に、来海がベッドの上ですささ…と後ろに下がった。
「いっ、今、近付くのダメ……っ!ダメなの!」
「なっ」
俺は目を白黒させた。
きょ、拒否られた…だと!?
俺の人生において、ほぼほぼ起きえない来海からのNOサイン!死にそう!やめて!?
「…わ、私が悪かったですっ、……よゆーだと思ってたのに、まだまだだったぁ……!出直してくるぅ…っ!」
「何を!?」
「碧くんはそういえばスポーツやってる男の子なんだよ…!甘く見てた私が浅慮だった……うう」
「何のことだ?腹筋がちらっと見えた程度だぞ?」
「分かってるじゃない碧くん、もうーーーっ!」
いや…分かってるというより、まあ、それくらいしか思いつかなかった。そういや、ちょっと脱ぐ時シャツがめくれたかもなと。俺の中ではあまり気にすることではなかった。
うむ、そんな来海が恥ずかしくなるような大層なものではないんだがなぁ。
でもまあ…
俺は、にやにやしていた。
こんな反応されると、こちらも気分が良いというか、調子に乗ってしまう。
純粋培養な来海に、悪いことを教えてやりたくなって仕方がない。
いや、可愛すぎるだろ。何だ、その初心な感じは。
いつもは寧ろ自分からじっと目線を合わせにくる来海が、俺とちょっと目が合っただけで逸らしてしまう。
俺は自分から昔に距離感バグらせた自覚があるだけに、近すぎる距離でも来海が俺に割とグイグイ来ることが嬉しくありつつも、気がかりだった。
男として意識されてないのでは、と。
その軽い承認欲求を満たしてくるというのか、今の来海の姿は俺を意識しまくってて、俺は心の中で小躍りしていた。
俺がそれはもう上機嫌に微笑んで、ベッドの上の来海を隅に追い詰めると、来海はさらに顔を赤くする。
俺がベッドに置いた手の近くで、来海の足が跳ねる。
「来海」
「だ、ダメ、ダメなの、碧くん……っ、私耐性なさすぎて、も、これ以上は……っ、」
言っておくが、そんな反応されても逆効果だぞ?
それ以上俺にご褒美やってどうする。
俺は、来海にそっと耳打ちした。
「………そういうとこが、最高に可愛くて好き」
「ひゃぁんっ!?」
くく、可愛い。
来海は「うう…」とちょっと悔しそうに俺を見た。
俺にやられた右耳を両手で押さえて、鉄壁のガードをつくる。
うん、右はな?
俺が完全にスイッチ入って、今度は左耳にしようとするとーーーー
「(………碧くんの悪い子。めっ、だよ…?)」
俺の左耳がやられた。
来海の息遣いが、すぐそばで聞こえた。
俺は死んだ。
ブックマーク、⭐︎評価、リアクション、してくれると作者の筆が捗ります。
既にしてまっせという方は、本当にいつも有難うございます。




