間話 不良優等生を本気にさせる方法
第三章入るか、幕間入れるか迷ったけど、後者にした。
この話と、もう一話書いたら三章入るのでお付き合いいただけると幸いです。
第三章がカオスだから書きたくなくてモラトリアムしてるわけじゃないよ?
9月。
地球温暖化の影響でまだまだ夏真っ盛りの時期。
水上高校1年8組の担任、高島は職員室で『不良優等生』と対面していた。
大倉碧。
彼は自分が受け持つクラスの生徒であり、彼は高校に入学して約半年、数々の問題を起こしていた。
彼は幼馴染に尋常ではないほど入れ込んでおり、場所を構わずその幼馴染に求愛をし、1学期は授業を放棄して幼馴染のクラスの調理実習に勝手に混ざっていた。
手料理って何だかんだであんまり食べる機会ないんですよねと、爽やかに述べたこの生徒は、全く反省していなかった。
周りの生徒も教師に報告をせずに彼を普通に受け入れていたのがなおのこと、たちが悪い。
学校的不良行為をしでかしている彼だが、水上高校の生徒には彼に助けられた者も多く、人望があるというのがまた高嶋の頭を痛くさせる。
だが彼はやはり学校的不良である。
提出物は出さないわ、授業中全く違うことをしてるわ、いきなり席を立って何か叫ぶわ、とにかく生活態度に問題がある。
しかし、また校内屈指の優等生でもある。
すこぶる頭がいいのである。
そんなふざけた授業態度だが、彼の名前が首位から落ちたことが一度もない。
入学して3日でロスへ旅立った彼のもう1人の天才幼馴染が太鼓判を押してただけはある。
そんな不良優等生と、高嶋は現在、来週の校外模試について話をしているところだった。
「ーーーー大倉」
「何でしょうか高嶋先生」
「来週の校外模試、そろそろ本気を出してみないか」
「嫌です」
きっぱりと碧が断った。高嶋は、あまりに早い返答に眉をひそめた。
「お前が勉強したら、全国でもトップのレベル狙えるだろう。勿体無いぞ。そんなに拒否する理由は何だ?」
「……高嶋先生。俺はですね、勉強してる時間があったら可愛い来海ちゃんを愛でてる方が俺の人生は豊かになるんです。ハッピーです。よって、俺は来海に勉強を教えてる時以外で、勉強しません。勉強してる暇があったら、来海との時間に全部ベットします」
「大倉。宮野はちゃんと提出物も出してるぞ。お前はその時間何してるんだ?」
「色々やることがあるんです。来海のアルバムをスマホで作ったり、あのクソガキ天才幼馴染がしてくるサイバー攻撃を処理したり。来海のことを考えて幸福を感じます」
「………分かった。お前がやばい幼馴染狂なのはよくよーく分かった……」
高嶋は、はあーと溜め息を吐く。
思ったよりもこれは重症だと。
しかし高嶋も果たさねばならない義務があるのである。
「大倉。俺はお前を心配しているんだ。確かにお前はすこぶる頭が良いが、将来的にも一度本気で勉強する経験をした方がきっとお前のためになる。お前の人生の糧になる。だから、来週の校外模試、頑張ってみないか?大倉」
「高嶋先生ーーーーーー!」
感銘を受けたように、碧はぱっと目を見開いてーーーーーーー、
「……高嶋先生。俺知ってますよ。
学年主任に、圧かけられてるんですよね!うちと県のトップを争ってる三国ヶ丘高校を押さえて、うちが一番になるために俺の成績上げてこいって言われたんですよね!ここ10年近く三国ヶ丘のトップに、うちの高校のトップは一度も勝ったことがないから躍起になってるのも知ってます!」
「ああ!勘のいいガキは嫌いだぁ!何で分かった大倉!ちょっと感動話みたいになりかけてたのに!」
したり顔になる碧。額を押さえる高嶋。
「まあまあまあ。情報は勝手に入ってくるんですよ。ていうか三国ヶ丘のトップにこの前直接宣戦布告されました。何か昔、俺に模試で負けたとか何とか。だけど、俺が断ったらめっちゃ怒られたよ高嶋先生どうしようー!」
「受け入れろ!その宣戦布告受け入れて、俺が学年主任から大目玉くらうのを回避させてくれよ!」
「ええー…、高嶋先生が怒られるのは俺も不本意なんですが……だけど、ごめんなさい、高嶋先生!!俺は来海とのハッピーライフを1秒も減らしたくないので!!」
「大倉ぁ!!」
爽やかな笑顔で言い切った碧に、高嶋は頭を抱えた。
どうやったらこの不良優等生を本気にさせられるのだろうか?
高嶋は分からなかった。
「どうやったら…お前は本気を出してくれるんだ?」
「…………そうですね高嶋先生……もし俺が勉強で本気出すとしたらそれはーーーー」
碧は、ちょっと照れくさそうに言い放つ。
「来海ちゃんがご褒美くれたら!ですかね!」
「それすら幼馴染なのかぁ!!……く!誰かー!誰か宮野を呼んでくれー!」
「あれ?私のことお呼びですか、高嶋先生」
ひょっこりとどこからか来海が現れた。
弓道部に所属している彼女は、白い袴を着ていた。
「宮野ー!」
「来海ちゃんだー!部活中なのに居るのは何故だろうと思うけど、多分休憩時間中で俺に会いに来たんだろうねわーい!」
「大正解碧くーん!わーい!」
「袴とポニーテールは正義!今日も可愛い綺麗!」
「えへへ。碧くんも爽やかかっこいいよー」
「おーい、幼馴染組っ!!いきなりイチャつき出すなぁー!?厳粛なる職員室で何をしてるんだ、ほんと!?」
優等生なはずの来海までイチャつき…悪ノリしてしまい、高嶋はツッコミながら叫ぶ。
それはそうと、来海の方は表情を切り替え、真面目な顔つきになる。
「高嶋先生。お話は聞かせてもらいました。碧くんに本気を出して欲しいんですよね……確かに、私も勿体無いとは思ってはいたんです……」
高嶋は、期待がみなぎった。
「おお、宮野!まさか!」
「ええ、そのまさかです…っ!碧くん!!」
高嶋に力強く頷いて、来海はくるっと、碧の方を向いた。
碧が首を傾げた。
来海はにこりと微笑む。
「来週の模試。頑張ったら、碧くんに膝枕で耳かきしてあげるのは、どう?」
「なーーーーーーー!」
碧が立ち上がった。
肩を震わせ、そのうち勢いよく上げた顔には、曇りなき輝きを秘めていた。
「っ、それは最高に素晴らしい提案だーぁ!三国ヶ丘のトップが何の!!全国のトップ取ってやるわ!!模試なんてちょちょいのちょいで片付けてやりますわ!来海ちゃん最高か。よし、今すぐに勉強してくるーーーー!!!!!」
ぬおおおーっ!と職員室を飛び出して行く碧。
彼がここまで熱意に溢れたことがあろうかという、やる気に満ちた背中。
残された高嶋は、何とも言えない気持ちになっていた。
自分の説得ではびくともしなかった碧が、幼馴染の言葉でいとも簡単にやる気になったからであり、またこの幼馴染が付き合っていないのも知っていたからである。
「お前たち……ほどほどにしとけよ」
「高嶋先生ーーーーーーー」
来海はちょっと困った顔をして、それから。
「これでまだほどほどのつもりなんですけど……」
「大倉が何であんなんなのかと思ったら、こっちも幼馴染狂なのかぁーーー!!」
改めてこの幼馴染組が恐ろしいと思った高嶋であった。
******
3週間後。教師が閲覧可能である、生徒たちの模試の結果を見て、高嶋は目をひん剥いた。
例の、不良優等生の模試結果である。
「………大倉よ。お前マジでとんでもないな……」
高嶋が学年主任から大目玉をくらうどころか、褒め殺されるレベルに違いなかった。もしかしたら、ボーナスが出るかもしれない。
「大倉……!お願いだから、このままずっと勉強しててくれーーーーーー」
彼はーーーーーー
******
はあ、極楽、極楽。
耳かきは初めてだ。
正直、自分の耳が汚れてたらどうしようかと前日にめちゃくちゃ綺麗にしておいたので、来海が掃除するような場所はないかもしれなかった。
でも、いいんだ。この耳かきされてるという状態が、最高に心地いい!
膝枕、最高!
控えめに耳の入り口ばかりをわさわさしてくる来海ちゃんは、尊い。耳の奥に突っ込むのを遠慮している奥ゆかしさを感じるのである。
あはれなり。
「碧くん、耳綺麗だね。掃除するとこないけど、どうする…?」
「やめないでください。そのわさわさしているだけいいんだ。極楽〜」
「ふふん〜」
来海は上機嫌で、俺へのご褒美を続行してくれた。
「それにしても……、碧くんには毎度びっくりさせられちゃう。私が提示したご褒美なんて、大したことなかったのに、まさか模試でーーーーー」
「いやー?これくらいの結果ださなきゃ、釣り合わないって〜」
うん。
来海ちゃんのご褒美は、全国3位くらい取れてやっとだぜ。
すまん、1位は取り損ねた。
以上、幼馴染時代の2人。
次回『大倉家結婚秘話』




