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あの時のジェントルマンさんだ…!

俺と陽飛が無事に和解した後。

陽飛に引き止められて、俺はまだ部屋に残ってコイツと話をしていた。


お昼が近いので、小腹が空いてきたなあと思ってると、何も言っていないにも関わらず、美味しそうなサンドイッチが俺の前に置かれる。

メイドさん1にお礼を言い、続いてコーヒーを運んでくれたメイドさん2にもお礼を述べる。

至れり尽くせり……陽飛も金髪ブロンドさんも、これが当たり前の日常なんだろうな。すごいぜ。


まあ、その分、社交界でのしがらみとかは、大変そうだけど……


ちらりと見る。

陽飛はカップに口をつけて、紅茶を含んだ。

紅茶好きなのだ、コイツ。どこでもかしこでもすぐティータイムしている。貴族か。


「あ、そういや、アオ。よくこの家の場所知ってたね?俺教えてないのに。…目立つから?」


陽飛が昨夜強制的に泊まらされた金髪ブロンドさんの屋敷を、ここを、何故俺が知っているか。

答えるのは、簡単だ。


「………ああ。少し前に、俺、金髪ブロンドさんにここに連れて来られたんだよ」

「………は?」

「こ、怖い顔するなよ……いや、金髪ブロンドさんは浮気なんてしてないぞ。俺も来海一筋だし」

「…はあ、そんな心配してないよ。てか、どうでもいいよあの婚約者が他に男作っても。そしたら婚約破棄できてせいせいするね」

「うん、お前は何でそんなこと言っちゃうかな……」


陽飛はめちゃくちゃだが、筋は通す男だ。婚約者が居るなら居るで、きちんと浮気なんかせずに、一応向き合いはする。心の中では思っていても、婚約破棄なんて言いやしない。


だが残念なことに、女嫌いのくせに女に優しいコイツが、金髪ブロンドさんには全然優しくない。

何でだ?


昨夜の様子じゃ、金髪ブロンドさんの方はコイツに気がありそうだったのに……ううーん、彼女が不憫ではある。


「ていうか、連れてこられたってどういう意味?」

「……ん?何か車で拉致られて、で…何か人のモノにベタベタするんじゃないというお叱りを……ん?」


俺は、はたと気付いた。


アレ……?


『幼馴染だからって、人のモノにベタベタ……!!もうワタシは、貴方に我慢ならないのよ!!いい加減人のモノをタラシこむのはやめなさいっ!!』


『いっつも、2人で親密そうなやり取りしてっ!何よあの長ったらしいメールの長文は!?貴方、定期的に自分の写真送ったりしてるでしょうが!やめて頂戴ほんと!!』


思い出される金髪ブロンドさんの言葉の数々。


ーーーーー俺は、頭を押さえた。


「ああ、お前のことだったのかよアレ……。俺は、てっきり来海が世界進出からの百合展開だと、途中まで思ってた……」

「何の話?あの女、何かアオにしたわけ?」


うむ。

俺は、眉根を寄せた。

すれ違ってるなコレ…?

金髪ブロンドさんも素直になればいいのに。コイツは素直な奴は好きだぞ。


「はあ。お前、あの子のことちゃんと大切にしろよ…向こうはだいぶお前のこと………その…」

「………冗談でしょ。まさか、俺のこと好きとか言わないよね?」


陽飛は笑い飛ばす。自虐めいた笑みをのぞかせて、陽飛は、カップをソーサーに置いた。


カチリ、と硬質な音が鳴る。俺には敢えて、陽飛がその音を鳴らしたように思えた。

それ以上聞くなとでも言うように。


「………何でお前、そんな頑ななんだよ陽飛?お前らしくもない…」

「相性が悪いんだよ。最悪なことにね。表面の話じゃないよ。俺はちゃんと彼女の内面を考察した上で言ってる」

「………はあ…?」

「まあ、いいじゃないか。俺は時の運に任せるよ」


陽飛は、お得意の読めない笑顔を浮かべた。

俺には、どうしようもなかった。


コイツを落とすには、将来、金髪ブロンドさんもだいぶ苦労するに違いない。

やっぱり不憫だった。


部屋に置かれた時計の針が12時を回り、俺は席を立ち上がった。お暇しよう。


「来海がそろそろ部活から帰ってくるからな」

「アオの行動原理、どうにかならない?」

「ひど。俺の幸せを奪ってくれるな…!」

「クルミは天才的な心の調教師か何かなのかなぁ」


そうかも。


俺が部屋を出ると、陽飛は見送りでもするのか、ついてくる。いらんけども。


長い廊下の出会い頭でーーーー俺は、とある初老の男性と危うくぶつかりそうになった。

広い廊下の弊害である。こんなに曲がり角のある廊下なんて、なかなかないぞ?


「すみません…」

「ああいえ、こちらこそ…」


その初老の男性の顔を見て、俺は「あ!」と声を上げた。

それは向こうも同じだったようで、「おや?」と俺の顔を見て、微笑んだ。


「君は……そうだった、アオイくんだったね。あの時は話を聞いてくれてどうもありがとう」

「いえ、こちらこそアドバイス頂いて……」


彼は、なんとあの時のジェントルマンさんだった!


俺が来海にキスするフリをして泣かせてしまった翌朝。来海の母親である都さんに略奪をおすすめされて、キャパオーバーした俺は、心を落ち着けるべくこのジェントルマンさんとお話していたのだ。


このジェントルマンさんの孫娘の婚約者が、幼馴染に夢中で、孫娘はどうアプローチしていいか分からずにいる、という悩みを初対面ながら俺は相談された。


幼馴染、という単語に他人事と思えなかった俺は、このジェントルマンさんと連絡先も交換していた。


「アオ。正造(しょうぞう)さんと知り合いなの?」

「ああ。ちょっと縁あって。…?アレ、正造さんがどうしてここに……」

「ここは私の家だからねぇ」

「え?」


ここって、金髪ブロンドさんの家じゃなかったけ?


……あ!!この人の孫娘って、金髪ブロンドさんだったのか!?

で、孫娘の婚約者が、陽飛!!


で、その孫娘の婚約者が夢中になってる幼馴染……


幼馴染……


………。


俺か、来海か、の2択なんだが。

あのー、もしかして俺だったりするぅ……?


「………あれから、うちの孫娘と婚約者には、目ぼしい親展がなくってねぇ……」

「…正造さん。俺の顔をどうして見るんですかね?」


陽飛は、困ったように笑う。

お前がその婚約者だからだろうが。


「……はあ、まったく、ハルヒくん。君が夢中になってる幼馴染にぜひとも会ってみたいものだよ。うちの孫娘が負けてるって言うのかね?いや、そんなことは有り得ない……私は、その幼馴染に言ってやりたいことが沢山あるのだよ。婚約者の2人の邪魔をするなとねぇ……」


してねぇ。してねぇんですよ、まったく。


何で俺がこんな焦らなきゃいけないんだ?!

俺が後ろめたい感じになっちゃってるのは、何で?お前のせいだぞ、陽飛ぃ…!


陽飛は動揺している俺を愉快そうに笑って、とんでもないことを言い出す。


「正造さん。その幼馴染なら、今目の前にーーーー」

「だぁぁぁ!?黙れ、陽飛!」

「……がっ、」


俺は、陽飛の脚の脛を刈り上げて、痛みで黙らせる。

地味に悶絶し始める陽飛。


「はて……?」


おほほほ。お気になさらずジェントルマンさん。

諸悪の根源は、コイツっすわ。



******


1時近くになって、俺の家のチャイムが鳴った。

誰かは分かってるので、その音を聞いただけで、俺の心は弾んだ。


うきうきで玄関の扉を開くと、もちろん思った通りの人物。


白と濃紺の袴姿の来海が立っている。しかも、ポニーテール。最高か。

身長の倍ある長い弓を持って、来海はニコニコで立っていた。


「ね、聞いて聞いて碧くん!今日はすごく調子良くてね…!ほとんど外さなかったの…!あの強豪の私立にも練習試合だけど、勝てたんだよ…!」

「それはすごいな!よく頑張ったな来海ー」

「うん…っ!」


来海は、満面の笑みで頷いた。


俺は来海から荷物を受け取って、2人で家の中に入った。来海はそれはそれはご機嫌で、よっぽど嬉しかったんだろうなと察せられた。


俺は荷物を置いて、用意してた昼食を出そうとキッチンへと向かおうとした。

しかし、それより早く、ぎゅ〜っと、俺の背中に抱きつく来海。


「ね……碧くん。私頑張ったから、ご褒美ちょーだい…?」

「何でもいいぞ」

「う〜ん、頭ポンポンして!」

「何でもしてあげるのに」

「碧くん……私のことあんまり甘やかしすぎないようにね……?」

「来海を甘やかすのが、俺の至福の時なのに…」

「もう…っ!碧くんはぁー!……」


ちょっと頰を膨らませて、俺を上目遣いに見上げる来海。だから最高かて。


俺は小さく笑って、ご所望通りに来海の頭をポンポンと撫でた。いつもは髪を優しく撫でるのだが、今日は頭のてっべんに軽く手を置いたようなやや荒っぽい仕草だった。

でも、こういうの好きなんだってうちの彼女は。


………はあぁぁ、彼女…!彼女!?


何て最高な響きだ!


「よしよーし、来海ちゃん……いい子……ちゃんと俺を見てた来海ちゃんはいい子……」

「………?よく分かんないけど、褒められてるみたいだから、いっかぁ…」

「今日のお昼は、来海のためにフォーを作ったぞ!いい鶏ガラスープがとれたんだ。期待しててくれ」

「ふふ、嬉しい〜!」


来海が、今度は真正面から俺の身体に腕を回して、ぎゅ〜っと抱きついた。


こんな些細なことで嬉しそうにしてくれる幼馴染の女の子………いいや……彼女のことが、俺はたまらなく愛おしかった。


良かった……

俺はこの幸せを手放す必要なんてない。


ありがとう来海、俺を選んでくれて。


俺に抱きついた状態で俺を見上げた来海と、ぱちりと目が合う。

俺と来海は、束の間、じいっと見つめあったまま。


それから、どちらも相手から視線を外さない似た者同士だったことに、くすくすと俺と来海は笑い合った。


幸せ〜………


もう何も心配することないわ。




******




ーーーーーー1週間後。



「私……碧くんの彼女じゃなかった…?」


「ええええ!?」


「そ、そんな……嘘………や、やだぁ…うわぁぁーん、ごめんなさい私碧くんのこと好きすぎるあまり、都合よく解釈して恋人だと思い込んでたんだ私ーーーーっ!!!」


「いや!?彼女だから!?俺たちは恋人…!」


「もう私恥ずかしすぎて生きていけないよぉぉぉぉ!!!!」


「…く、来海ぃーーーーっっ!??」


俊敏に部屋から去って行った来海の後ろ姿へと、手を伸ばして、俺はがくりと床に崩れ落ちた。



ああ、何でこうなったちくしょう……!


俺は床に落ちていたとあるメッセージカードを拾い上げたーーーーーー



お読みくださりありがとうございます。

これにて、第二章完結。

はあああ、ここまで書ききれて良かった。

碧の暴走に加えて、陽飛のキャラが濃すぎて、皆様に受け入れてもらえるかどうか心配し、作者は何度腹を壊したか。


ちなみにジェントルマンさんは第一章の『何で慰めに来なかったのかと訊かれる』にて登場してます。

実に48話ぶりの伏線回収。

いや、誰が分かるか!という感じですが、、、

実はそんな前から話の構成考えてたんです、という裏話。


改めてお付き合いありがとうございます。

今後ともこの作品をよろしくお願いいたします。

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