これだからイケメンは(偏見)
俺はヤン=デレ2世だったのか。
ううむ……?
俺がこっそりと自分のヤバさを、改めて自覚していた時ーーーーー
「うわぁぁぁ!!!アオ助けて!!もう嫌だあのわがまま金髪美女ーーーーー!!!」
「うお……い」
ガクン!と、俺の肩が勢いよく引っ張られた。
俺に背後から抱きついてきたイケメン。
おおん、何かデジャブ……!
俺は、遠慮なく、遠くにぶっ飛ばした。イケメンの身体は、宙を軽く舞いーーーーーしかし、何事もなかったかのように、綺麗に着地した。
「はあ、何で俺がこんな目に……っ!くそっ、早くおさらばしたいよ、あんな美女…!」
……ちっ。
だから俺たちのためにちょいとは、無様なとこ見せてサービスしろって言ってるだろクソイケメン。
皆様お察しの通り、こちらは陽飛クンである。
俺と来海の幼馴染にして、ややトラブルメーカーである御曹司。
ちなみに、コイツのせいで俺は散々な目に遭わされたのだ……!
ああ、思い出したら、腹立ってきた…!
明日、じーーっっっっくりお話しようなあ、陽飛?
まあ、それはひとまず置いておいて。
確か陽飛は親が決めた婚約者らしい、金髪ブロンドさんに拉致られて連れて行かれた筈なんだが……
隙を見て逃げ出してきたというところだろう。
この男も、ただでは転ばない。
誰かに手綱を握らせるようなことは、決してなかった。
うん、でも俺の元に来ないでくれるか……?
俺は今結構、来海の彼氏になれたことへの感動のしんみりタイムなんだが……
まったく、ぶち壊してくれるコイツは。
「あ、冷泉さんだ」「冷泉さんだ」
中学生組が、陽飛に気付いて小さく驚いた顔をする。
和泉と翠が陽飛と会うのは、そういや随分と久しぶりだったな。
ん?
……冷泉さん?
そんな呼び方してたっけ?
……。え、何か距離遠くない?
しかも、めっちゃ微妙な顔してるのは何で?
陽飛も俺と同じ気持ちだったらしく、眉を下げた。
「ねえぇぇ、俺に人権はないの…!?何でそんな距離感遠いの…!?俺も一応、幼馴染なんだけどね!?」
翠と和泉は、顔を見合わせた。
「私、お兄ちゃんと来海ちゃんのこと、応援してますから。ううん、冷泉さんにはちょっと困ってるっていうか……」
「僕も、冷泉さんのことは危険な当て馬として見てます」
「はあ、ひっっどいね!?改めて聞くけど、ひどいなあ!?」
陽飛は心外そうに、ああくそ……!と叫んだ。悔しそうに奥歯をギリギリと鳴らした。
うん、……まあ、諦めろ陽飛。俺の妹と義弟は、俺と来海の味方なのだ。ハッピーエンドに横入れする者には容赦ないのだ。
おん?そういえばだな、金髪ブロンドさんはいずこ……?
すると、カツン、カツン…と、ハイヒールの音がだんだんと大きくなっていく。
いや、カツカツカツカツ!!というこちらに走って迫ってくる音がしていると言った方が正しいな。
陽飛は、その音で察したか、「げぇ…!?」という嫌そうな表情を浮かべていた。
「…もうっ、どこに行ってるのかしら、ハルヒーーー!!!まだ仕置きの続き……」
金髪ブロンドさんがキョロキョロとしながら、陽飛のことを探していたところ。
「「あ」」
俺と、金髪ブロンドさんの目が合った。
当然、金髪ブロンドさんは、俺のすぐそばに居た陽飛を見つけ、青筋を立てた。
「またオオクラアオイのところに居たのね…!?いつも言ってるでしょ!?アナタの婚約者はワタシなの!ワタシなのーーーーー!!!いい加減、受け入れなさい!!」
「受け入れてるさ!?誠に不本意だけどね!?俺は今、故郷に帰って羽伸ばしてんだから、こんな時くらい好きにさせてよホントさぁぁーーーーー!!」
「な……!?ワタシのこと迷惑だと思ってるわけね!?
ふぇ、ひ、ひど…………ん"ん"っ!!アナタは信用ならないのよ!!好き勝手させたら何し出すか分かんないし!浮気したら許さないんだから!!」
「浮気なんかしないわ!!俺のこと、ちょっとは信用してくれてもいいじゃないか!!結婚して、子供に囲まれて、老後に一緒に茶を啜って縁側に居るのは、どうせ君1人だよああクソぉぉ!!!!」
「な………っ」
陽飛の言葉に、金髪ブロンドさんの顔が、ぶわっ…と赤く染まった。
しかし、金髪ブロンドさんは悟られまいと思ったか、強気な姿勢を崩さない。
「な、な、何よ急にっ!??……と、とにかく、この船が港に着いたら、今日はワタシの家に直行だから!アナタのご両親には、許可貰ってるから、逃げられないわよ!!」
「くっっそ、何で許可出すかな俺の両親はぁぁーー!!!何が悲しくて俺はこの婚約者の家に泊まらなきゃいけないんだよ…っ!!俺は、添い寝以上は絶対してやらないからな…!!君と既成事実なんか作らされてたまるかよ……!!!」
「の、望むところよ…!!!だらしなくワタシの魅力にやられて、アナタはワタシにこうべを垂れとけばいいんだわーーー!!!」
この時、俺と来海、翠、和泉の…誰もが思っていたに違いない。
果たして俺たちは何を見せられてるんだろうか、と。
…馬鹿なのかコイツら!?
くっ、俺の心配を返しやがれ、陽飛。
俺でさえ、来海と添い寝したことねぇつぅのに…!
クソ…これだから、イケメンは嫌なんだ。(偏見)
ぼぉぉぉぉーーーーー、と船の汽笛が鳴った。
そろそろ帰港らしい。




