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彼女の幸せの日

ーーー貴方の温かい温もりを、すぐそばで感じる。



船の向こう側では大勢の談笑している声が聞こえていた。明るい灯りのもとで、食事を交えて煌びやかな光景が広がっていた。


私の誕生日を祝いに駆けつけてくれた人たちばかりで、そんな存在が居てくれたことに、泣いてしまいそう。……ううん、実はさっきね、ちょっと泣いちゃった。


これはきっと、全部……碧くんが、くれたもの。


碧くんが居なかったら私は……どうなってたんだろう。


多分、家族以外に大切に思える人なんて誰も居なくて、ひとりで狭い世界に篭ったままだったような気がする。

ただ泣いて…自分を取り巻く理不尽に、八つ当たりしてただろうな……


碧くんの、顔を見上げた。

夜に浮かび上がる綺麗な輪郭に、私の心臓が波打った。


びゅぅっ…と、夜風が通り抜けていく。春はまだ寒くて、でもそばにある温もりが、とても心地よくて。


自分の左手の薬指に嵌っている指輪を、私は空にそっとかざした。

星を秘めた雄大なキャンパスの中、この一等星は、何よりも輝いていた。


……ねえ、碧くん。

本当に私で良かったの?


面倒くさくて、わがままで、貴方に守ってもらってばかりの私を、わざわざ貴方が選ぶ理由なんて、どこにもないのに。


貴方がまだ私のそばに居るのが、不思議なくらいなのに。


………でも、ごめんね碧くん。


そんなこと言いながら、私は碧くんを離したくないってずっと思っている。

ずっと、そうだ。


碧くんが告白してくれるのを期待して、でも待ちきれなくて……だから、バレンタインに()ったの。


多分碧くんは…前から、今日、告白してくれようとしてたんだよね……?

私の理想を叶えようとしてくれてたんだよね…?


…ううん……私のことを甘やかしすぎじゃないかな碧くん…


今日まで告白せずに待っておけば良かったなあ、とも思いつつ、でもあまり後悔はなかった。


告白はするよりもされる方が嬉しいと思ってたけど……でも、碧くんの恋人に一日でも早くなれたなら、別にいいなあ。


ねえ、碧くん。

バレンタインの日は、本当に天にも昇る心地だったんだよ。

ちょっとぎこちなさそうにしながらも、『…俺も…好きだぞ…?』って返してくれた時、涙が出るほど嬉しかったの。


両想いかなとは思ってたけど…ちゃんと両想いだったと知れて、たまらなく嬉しかった。


碧くんの恋人になれて、私…幸せだよ。


キスの件は、ちょっぴり恨んでるけどね……?

『俺も男だぞ?』なんて部屋に2人きりで言われたから、ついに来たぁ…!って、私すっっごく喜んでたのにぃ……ううう……!!


恋人になったから、やっとしてくれると思って、内心期待してたんだからぁ!!


キスするフリして揶揄うなんて、いつもの碧くんからは考えられない仕打ちで、私はムカムカしました。


碧くんは覚悟しておいてね…?

ファーストキスは、私もう何時間もやらせてもらいます……!す、すごいの、するの……!


うん、そんなこと言いながら、私にそんなテクは絶対ないんだけど…。


…うう、碧くんはどうして私に割とベッタリしてるのに、そこの感覚だけしっかりしちゃってるんだろ…。

私の胸とかちらりと見るのに、なんか、そういう下心が感じられないんだよね……爽やかな興味、て感じ…?


あれ、大丈夫だよね……?


ちゃんといつか手を出してくれるよね…?


碧くんはよく私のこと可愛いって言ってくれるけど、もしかしてそれって小さい子供をあやしてる感じ、だなんて言わない………よね?


私は、つんつんと、碧くんの肩をつついた。

碧くんが私の方を向いた。

まるでバレンタインの日の私みたいな幸せな顔を浮かべていて、私の方を見て何故か泣きそうになっていた。


その顔、陽飛くんには見せちゃ駄目だよ?


「碧くん………」

「うん?」

「子供、何人欲しい…?」

「…ぐふっ、ごほっ、けほっ、けほ…っ!」


碧くんが勢いよく咳き込む。私は、碧くんの背中をよしよしとさすった。早めの花粉症かなぁ…?


碧くんは動揺した表情で、私を見た。


「……えっと、聞き間違いかなぁ……俺の耳には、子供何人欲しい?って聞こえたんだけど……」

「うん…!合ってるよ!何人欲しいの?」

「ちょい待ってぃ。何でそうなったよ来海ちゃん…!?ていうか、これはそう、ちょっとデリケートな問題じゃ……俺はどっちかっていうと、来海の意思の方が大切……俺がもし答えたら、来海はその通りにしてしまう……」

「私は、3人欲しいなぁ……」

「な、一緒……だ!?ほ、本当に……?!俺も3人欲しいなあと思ってたけど…マジか……」

「うふふふん」


碧くん。私がそんなことも分からないとお思い?

碧くんなら、女の子2人と男の子1人欲しいって言うと思ったわ……!

姉妹もいいけど、男の子も欲しいんだよなあって、テレビ見ながら、いつか和泉にぼやいてたでしょ…?


私の弟は、しっかり教えてくれたよ…!

代わりに碧くんの部屋の棚の情報も、和泉にポロッと話したり…?

私があげた今年のバレンタインの箱もあそこにしまわれてるんだろうなあ〜ふふふ。

2段目が碧くんの大切なものたちのコレクション…自分で言うの、照れちゃうな……恥ずかしい…!


と、とにかく、筒抜けよ、碧くん。


私は、ほっと胸を撫で下ろした。


「……良かったぁ。じゃあ大丈夫かな…?」

「ええと、来海……どうして急にこんな質問を……?」

「ええ?…ふふふ〜…それは、内緒〜!」

「…ちくしょう、可愛い……」

「ふふ」


碧くんの子供かぁ。

絶対可愛い………


……いつかちゃんと手出してね、碧くん?




******


一世一代の告白を終えて……

客船のメインダイニングルームに戻ると、俺たちの元に、和泉と(すい)が駆け寄った。


「……あ!」


来海の指に嵌っている俺からのプレゼントに気付いた和泉が、声を上げた。

ぱっ!と顔を上げ、それからややあと笑った。


「良かった!渡せたんだ、碧兄ちゃん!」

「おう。その節は助かったよ」


数日前、来海にこの指輪を贈るのをやめるつもりだった俺に、和泉が「渡せ」と励ましてくれたのだ。

今思えば、全部、和泉の言う通りだった。


……だって仕方ないだろ。あの時は、来海に彼氏が居ると思ってたんだから。


「…ね、ちなみに、僕の言った通りだったでしょ?」


したり顔の和泉に、俺は苦笑した。


そうです。君の言う通りでした。

来海は泣いて喜んでくれました。


そこで、俺は、はたと気付いた。

来海の彼氏が自分だったと知った俺は、あらゆる勘違いに気付いてしまった……。


彼氏よりも幼馴染の俺を応援してるんだな、宮野家は…とずっと思っていた。


でも、彼氏は俺だった。


え?じゃあ和泉も、来海の母親の都さんも、ぽっと出の彼氏よりも俺を応援してたんじゃなくてーーーー


単純に…最初から俺を応援、していた…?!

来海の彼氏として……!?


呆然とした。みるみる気が抜けていく。

俺はこの3人の前じゃなきゃ、床に膝から崩れ落ちていただろう。


あああもう、言ってくれよぉぉーーーー!!!


そうだよな…!

なんかずっと、会話噛み合わないな!?と思ってたんだよ……

この人たち略奪推しかよ…?!と、思ってた。


いや……、気付かなかった俺が馬鹿なのか…?


来海の告白にも気付かなかったみたいだしな……


さて、俺が馬鹿なのか。


「………来海ちゃん」

そう呼んで、俺の妹の翠が、一歩前に出る。

そして…珍しくクールな表情を崩して、小さく笑った。


その様子に、俺の隣の和泉は息をのんだ。シャッターチャンスと言わんばかりにスマホを取り出すが、俺はがしっと腕を掴んで、和泉を止める。


和泉は、は…!とした顔で、スマホをしまった。


やれやれ、手のかかる弟分だぜ。


俺ならところ構わず来海にシャッターを向けるとこなんだが、和泉の想い人……俺の妹は、そういうのを嫌がる。昔から写真に映るのが、嫌いなんだよな。せっかく可愛いのに。


翠に嫌われたくない和泉は、同盟相手の俺に頼んで、こうして俺に止められることで、湧き上がる自分の衝動を抑えていた。

よって、翠から見て、和泉はいたって爽やかな好青年のままである。


めちゃくちゃ裏の顔は違うんだけどな。今も写真に収められなくて歯噛みしている。


う、ううむ……

いつかその我慢が爆発しなきゃいいんだが…


この2人にはぜひとも上手く行って欲しいと思うのが、兄心というものだ。

何事も起こりませんように………!


…。やばい、逆に、なんかフラグみたいなのを立ててしまった。(汗)

……いや、大丈夫だろ…。


翠は、来海の両手を取った。きゅう、と握る。


「あのね、来海ちゃん。お兄ちゃんはちょっと…いやだいぶおかしい部分はあるけど……でも、来海ちゃんのためなら何でもしてくれるから。便利だよ!だから見捨てないであげてね……?」

「ええ…!?」

「おいこらー。翠は何を言ってくれちゃってるんだ?」


驚いてる来海と真剣な翠の間に、どうどうと俺は割り込んだ。


まったく翠め……恐ろしいことを言うんじゃない。

来海が俺を見捨てるなんて、そんなことが億が一でもあったら、………


あったら………


………。


………。


うん、考えるのはやめておこう!

なかなかどうして、俺は隣に立っているヤン=デレさんこと、和泉くんを笑えないらしい……。


来海……浮気だけは、絶対に、マジで、くれぐれもしないでくれ。俺は、お天道様の下を歩けなくなるのは嫌だぞ。




うむ…色々おかしなところはあるが、2人が幸せみたいなので作者は何も言うまい。

良かったね(棒)!

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