告白を君に
陽飛が金髪ブロンドさんに連れて行かれた後。
俺と来海は、デッキに出て街の夜景を一望していた。
遠くに灯る光が、幻想的な世界を演出していた。
しかも、俺の隣に居るのは、大好きな女の子だ。
これを最高のロケーションと言わずして、何と言う。
「…………来海。改めて、16歳のお誕生日おめでとう」
「うん!」
俺が笑いかけると、来海もキラキラの笑顔を向けてくれた。……ずっと、ずっと、守りたくなる…国宝級の笑顔だった。
来海は、ふっと笑う。安心したような穏やかさが、そこにこもっていた。
「………全部、碧くんのおかげだよ。今ある幸せも全部、碧くんがくれた……」
「そうかー?俺の方が、来海に貰ってばっかりな気がするけど?」
「ふふ!ううん。碧くんに貰った分が大きすぎて、返しきれないの、私……」
来海が俺にそっと寄り添う。肩に感じたその存在が、俺を安心させてくれる。
俺の方が、沢山貰ってるよ……絶対。
そんなことを、しみじみと思った。
ほお、と夜の中に息を吐いて、それから…俺は来海の手を握った。俺よりも少し冷たい体温が、伝わってくる。
来海は少し恥ずかしそうに顔を赤くして、だけど、俺よりもずっと、強い力で握り返してくれた。
それがたまらなく、嬉しくて泣きそうになった。
もう、俺……いいんだな。
来海のそばを離れなくて…いいんだ。
幼馴染の距離感を更生する必要なんて、もうどこにもない。
だって、俺と来海は……
「ーーーー来海」
「……っ!」
俺は、繋がれた手ではない、もう片方の手を添えて、来海に黒い手のひらサイズの箱を差し出した。デッキに置かれた小さな丸テーブルの上で、その箱はそっと開いた。
「碧くん……これ……っ」
「誕生日おめでとう。…受け取ってくれるか?」
「……っ!もちろん…だよ…っ!!」
俺は小さく笑って、来海の手を優しく掴んだまま、その左手の薬指にーーーーーそっと、指輪を嵌めた。
うん……我ながら、ぴったりのサイズだった。
重いか?気にするな、重いよ。知ってるよ。
指輪どこに着けるか迷ったけど、だって俺が来海につけていて欲しいのは、ここだった。
………ぽろ。
木製のテーブルが、濡れた。
俺が見上げればーーーー来海は、泣いていた。
俺が来海にキスを拒ませて泣かせたあの翌日の光景と重なったが……もう、意味が違う。
ぽろ、ぽろ、と来海の目から、押し留めなく雫が溢れ落ちて行く。来海は指輪のついた手に、もう片方の手を重ねて、胸に当てた。
「嬉しい………最高のプレゼントだね……碧くん…」
「……良かった。その言葉の方が、俺にとって最高のプレゼントだ」
「ふふふ、また、そんなこと言っちゃって……」
俺は来海の涙をハンカチでそっと拭った。来海は、また笑って、くすぐったそうに睫毛を伏せた。
「ねえ、碧くん………ありがとう」
「うん?こちらこそ」
「私、こんなことされたらもう碧くんのそば離れられないけど、いいかな……?」
「安心しろ。俺も離れないよ」
「ふふふ、そういうところが、好きだよ……碧くん」
「………っ」
「照れた?」
「照れるに決まってる」
何なら、泣くぞ?
俺、彼氏なんだ……来海に「好き」って言ってもらえる男なんだな………。
良かった、ちゃんと……ずっと、両想いだった。
両想いだったんだ。
あー、マジで泣きそう。
「ふふん、そういうところも可愛くて大好き…!」
「………愛おしさで、死ぬ……」
「ふふふ….っ!」
俺は来海を後ろから、抱き締めた。
綺麗なフェイスラインも、華奢な肩も、白い首筋も、全部…全部、愛おしさのかたまりだった。
視界に映る君のすべて、愛おしかった。
「ありがとう……俺を、選んでくれて……君の彼氏にしてくれて」
「ふふん、どうしたの?急に〜」
「言いたくなったんだよ。全部に感謝したい気持ちになっちゃったんだよ今」
「そんなの、私も一緒だよ……。ありがとう、私を見捨てないでくれて。碧くんの彼女にしてくれて、ありがとう………」
ああ、だからもう、泣くってこんなの……
俺は、いつからこんな涙腺弱くなったんだろ…。
離したくない。
もう、絶対離さない。
「ーーーーー好きだよ、来海」
俺がそう耳打ちすると、来海は「ひゃぁ……!?」とくすぐったそうに、俺の中で身を捩った。
耳まで真っ赤に染め上げて、来海はパクパクと口をわななかせた。
はは、可愛い……ホント。
「来海、好き」
「……へぁ!?」
「好き………」
「…ひゃ……っ!?」
来海は耳を押さえて、パッ!と俺の方を振り向く。
目が潤んでいた。
「あ、あ、碧くん……っ、ダメ、私が死んじゃう…これ以上は、私が心臓が止まって死んじゃう……!」
「そう?俺はまだ言い足りないけど」
「ダメぇ、ダメなのぉ……!」
「はは」
ーーーーー来海が俺にいつか話した……理想の告白、とは少し違う形になってしまったけど。
バックハグと、耳打ちと、指輪は、ちゃんと叶えたぞ?
キザっぽくて、俺へのダメージはデカいけどな。
「ーーーーー好きだよ、来海」
俺は、それを告える喜びを噛み締めて、静かにその言葉を、夜の中に落とした。
やっと……!
長かったわ、ここまで……
しかし、この2人に問題はまだ残っているーーーーーー。




