金碧輝煌、この決意を君に捧ぐ。
君に彼氏が居ると知った日、俺は自分の感情を隠した。どうしようもない嫉妬にまみれた感情も、理不尽に嘆き叫ぶ心の姿も、全部隠した。
隠してーーーー彼氏が居るのにまだ俺との関係を望む君を更生させなければいけないと、そう思った。
だって、君が選んだ人なんだ。
幸せになって欲しかった。
まだ君を好きで居る俺は、君の甘い誘いを断ることができなかった日もあったけど。
でも、もう潮時だ。
身を引かなければと思った。
だから、俺は……
俺はーーーーーー
なのに。
陽飛は、「いいよ」と何てことないように言った。
俺は、固まった。
いつも通りの笑みを浮かべているコイツが、恐ろしくて仕方なかった。
陽飛は、いいアイデアだとでも言いたげに、ぱちんと手を合わせた。
「そうそう、今まで通り、クルミのことは、好きに甘やかしてあげたらいいよアオ。俺はそういうの、すっごく苦手だから。得意分野で、俺のこと補ってよ。うんうん、それがいい」
「は、何……言ってんだよ………?」
世間の常識をおよそ無視した、常軌を逸脱したその考えを、まるで陽飛は頷いている。
俺は、自分の心臓が凍りついていくのを感じた。
気付いてないのか、陽飛はぺらぺらと続けた。
「…いいね、すごくいいじゃないか。俺がつい虐めちゃっても、アオがこれからもクルミのこと甘やかしてくれるだろう?そしたら、クルミは壊れない。永久機関だよ」
「………何言って……意味、分かんねえよ………っ」
「分かるでしょ。俺はクルミのこと虐めちゃうけど、アオがその分優しくしてあげるんだよ。だから俺たちで可愛がろうよ。俺は大丈夫だよ、今更2人の姿を見て嫉妬するような狭量じゃない。一生、2人はそのままの関係でいたらいいんだよ。俺が許してあげる」
「…………」
クソガキ…いや、クソ男の言葉に反吐が出るかと思った。
胸くそが悪くて、頭が一気に怒りで染まっていく感覚。気付けば、拳をキツく握りしめていた。
浮気を許してあげる寛容な男?
いいや、違う。
コイツは、今何と言った?
来海のこと虐めちゃうけど、俺が居れば大丈夫?
永久機関?
だから2人で可愛がろう?
ふざけるな……
ふざけんな。
俺が欲しかったもん、全部手にしておいて、ふざけたこと言ってるんじゃねえよーーーーーー!
「ーーーーふざけんなよっっ!!黙って聞いてりゃ、来海を侮辱するのも大概にしろ!!何が来海をつい虐めても大丈夫だ…?!来海はお前を選んでくれたのにっ、…お前を選んだのに……っ!!来海に優しくしろ…この世の誰より、丁重に扱えっ!!!」
視界が揺らぐ。
クソ男の顔なんて、見えやしない。
ああ、嫌だ。こんなボロボロの顔をコイツに晒してしまった。
ずっと、我慢してたのに。
俺の目からは、もう、熱い粒がボロボロと溢れてしまいそうだ。
なのに。
「ーーーー嫌だよ。だからアオに頼んでるんでしょう。アオもいいじゃん。クルミさえ愛でられれば幸せでしょう?」
「ーーーーっ!!!」
コイツのスタンスは、変わらなかった。
俺は返す言葉もなかった。
本当にコイツは、どこまで俺と来海を侮辱すれば気が済むんだ?
何でも思い通りになる人形だとでも?脳みそ狂ってんのかこのクソ男ーーーーーー
態度を改めようとしない陽飛に、俺はついに決意した。
君が選んだ人なら、と思った。
だけど、もう、そんなの関係ない。
こんなクソ男に、来海を任せられるかよーーー
『くるちゃんのこと、本気で奪いに来なさい』
ああ、今なら分かるよ都さん。
俺は今もうーーーーーーーー
この男から、来海の全部を奪ってやりたいと思っているのだから。
俺は顔を上げた。
涙が、舞う。
とてもとても格好のつかないぐちゃぐちゃの顔だったけど。
「お前に……お前には、来海を渡さない!!来海がお前を何で選んだのか知らないが、そんなのどうでもいい!!俺はーーーー俺はーーーーっ」
浅い息を吸う。
感情に言葉が置いていかれそうになって、必死で俺は追いかけた。
「大好きな来海を、俺に振り向かせてみせる!!それが俺の決意だーーーーー!!!」
言った。
言ってやったともいえるし、
言ってしまったともいえる。
だけど、揺らぎはしなかった。
心臓が、速くて遠い。
格好のつかない涙は、せめて拭った。
ーーーーーーーその時。
「碧くん……?」
可愛らしい声に、勢いよく俺は振り向いた。
部屋の扉の前に、来海が立っていた。ぱちりとした目は、俺を捉えて離さない。
白皙の肌を、赤く染め上げて。
「く、来海……っ?!」
そんな!まさか、聞かれてるなんて!?
ああ、そんな、まだ決意が固まったばかりなのに、俺はこれからフラれるのかーーーーーーー
「碧くんーーーーー」
彼女は俺の名を呼んで。
そっと、腕を伸ばして。
それからーーーーーーー
「うふふん、大好き碧くん!!それにしても、もうとっくに私は惚れてるのに、『振り向かせてみせる』だなんて、碧くん変なの〜!!」
来海は、俺に抱きついた。
ぎゅーっ!と俺の首に手を伸ばして、身長差を埋めるために俺にぴょんぴょんしてる。
……????
「ーーーーーーえ?」
見れば、クソ男こと陽飛は満面の笑みを浮かべていた。
いや、ちょっと待てよ……!??
どういうことだ……!?




