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幼馴染の男たち

すっかり冷めてしまったカップの中身に口をつけて、陽飛は窓辺の景色を眺めていた。

空色は、いつの間にやら茜色のキャンパスへと変わっていた。


現在、来海は席を外していた。碧から電話が来てたとかで折り返すんだそうだ。


フロアじゃなくて、外で電話は掛けてね、と陽飛が言い添えると、来海はちょっと困った顔を浮かべた。


このビルは陽飛の所有物で、他はともかく、このフロアは陽飛と来海以外には誰も居なかった。

それなのにわざわざ地上に降りてから電話しろという陽飛に恨みがましい目を来海が向けてきたのは当然だったと言えよう。


ーーーー仕方ないじゃないか。


陽飛は、そう呟く。


状況設定は、計算してこだわりたいのだから、仕方がない。舞台は整えなければ。

来海にはしばらく席を外してもらわなくては、困る。


スマホの電源を入れる。

来海に来ていたんだから、自分の元にも碧から連絡が入っているかと思ったが、まったくそんなことはなかった。


代わりに別の人物から、大量に電話が掛かっていた。

もう何日か連続で無視をしていた。


ーーーーそんなことを考えていたからだろうか。


その人物からの電話で、陽飛の手元のスマホが震えた。まるで狙ったかのようなタイミングに驚くが、偶然なのだろう。

いつも通り、陽飛はその電話を取らなかった。

スマホの電源を落とした。


「そろそろかな………」


来海には階段で地上に降りさせたので、あの2人がすれ違うことはないだろう。

エレベーターを使わせない陽飛に対して、来海にはとても非難がましい視線を送られたが、必要犠牲なので我慢して欲しいところだった。


そもそも、陽飛がこの舞台を用意したのは来海のためだった。

でなければあんな頭悪そうなメッセージカードを残したりしない。自分では書けなくて、代わりにAIに文章を考えさせた。

高性能AIがアホっぽい文章を述べるのは、とても愉快だった。

AI相手というのも、悪くない。


「…………ああ、来た」


エレベーターの見える位置に座っていた陽飛は、小さく笑った。

エレベーターの表示が変わっていく。

行き先は、このフロアに違いなかったーーーーー


やがて、ポーン、と到着の合図が鳴った。

扉が開くと、中からは思った通りの人物が現れた。


「陽飛ーーーーーーーー」

「……やあ、アオ。早かったね、流石」


陽飛の幼馴染、大倉碧の登場だった。


彼は息を切らして、しかし、陽飛を強い眼差しで捉えていた。ここには居ない幼馴染のために、彼はどれだけも奔走して、ここへたどり着いたに違いない。


「……話をしようか。アオも色々、俺に訊きたいことがあるだろうからねーーーーーー」



陽飛は、カップをソーサーに静かに置いて、立ち上がった。

彼は、碧の切迫した雰囲気を軽く受け流してしまう如く、いつも通りの読めない笑みを浮かべている。




ーーーーさあ、舞台は整った。







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