人海戦術
陽飛が来海の彼氏なのかという真実だか、ショックだとかよりも、俺は今のこの状況に焦っていた。
いや、多分….陽飛が来海の彼氏云々は、俺の脳が考えることを拒否してるんだろうが、とにかく只今処理しなければいけない案件は、陽飛が来海と2人で居て何し出すか分からないという緊急事態だ……!
あのクソイケメンがアメリカに染まり、よもやプレイボーイになっていたら………
あ、もう、脳が破壊されそうぅぅぅ!!!!
落ち着け、落ち着けっ、俺.……。
耐えろ……耐えるんだ……
俺は精神統一をして、スマホの画面をスクロールした。連絡先、きちんとこういう時のために整理しとくんだった……!
ていうか、手元ブレブレで上手くスクロールできねぇよぉぉ!!!
落ち着け、落ち着け………
ともかく来海を探し出して、陽飛からは事実聴取して、奴がヤバそうだったら来海から引き離す………よし、目的は整理できた。
来海と陽飛の居る場所を推理するには、ちょいとヒントが足りなさすぎる。
場所の心当たりはあるが、どこもそれといった確信がない。
さて、こういう時にはどうするか?
これは、古来より決まってるのだーーーーー
人海戦術だ。
陽飛め。
俺が単にお前に振り回されて、あちこち連れられていたと思うか?
お前が親にもらった不動産やら、船やら見せられるのに、ただ付き合ってたとでも?
お前の行動1つひとつには、必ず意味がある。
計算高く、意味なくしては行動しない。
それが奴の美学ーーーーーー。
ふ、こちとら、お前がせっせと舞台づくりしてたのは、知ってたんだよ………
でもまさかこんな俺の脳破壊劇場のための舞台とは思ってなかったけどなあぁ!???
まあ、とにかく…
お前が見せてきた建物の周りには全部、知り合いを作って連絡先交換してるんだわ!
あ、勿論全部男だよ?来海に怒られるんで。
よし、必要な連絡先全部、なんとか見つけたぞーーーーー。
俺はそれに1つひとつ電話を掛けていく。
これは、俺が全部の心当たりのある場所を確認して回るなんて不可能だから、それを近くに住む人に頼もうっていう目的だった。
1人目の電話が繋がった。
「……あ、どうもお久しぶりです谷原さん。すみません、突然。ちょっとお願いがありまして……今から、谷原さんの近くのビルに様子を見に行っていただけないでしょうか?その様子を知らせて欲しいんです」
『おう、勿論いいぜ碧!お前があの日現れてアイデアを授けて以来、うちの商売は右肩上がり。その恩に比べちゃあ、全然大したことねぇよ。あ、そうだそうだ。おう碧、どうだ?今度うちの娘でも紹介し……』
「わ、協力してくれるみたいでありがとうございます!助かります!大感謝祭開催しときます!じゃ!」
『碧〜、うちの娘、昔から彼氏の気配がな………』
ブチッ。
よし、次だ次ー。
「………あ、もしもしー?おうおう、翔。最近そっちはどう、元気にしてるか?」
『うん!碧くんのおかげで友達も何人か出来たんだ!あの日、碧くんが外の楽しさ教えてくれたから……』
「おう、そりゃあ、良かった。……ところで、ちょっと緊急で翔に頼みたいことあってさ。翔の家のそばの港に、前教えた船がないか見て欲しくて………頼めるか?」
『も、勿論だよ!……あ、あ、あ、と、とととところでさっ、今度2人で漫画読みにネカフェでも……』
「おう、マジで助かるー!!ありがとう翔!!じゃっ、船の確認よろしく!!またな!!」
『碧くん……最近じゃ、ネカフェも防音………』
ブチッ。
よし、これでわざわざ港まで見に行かなくて済む。
次だ、次ー。
少々忌まわしき思い出の蘇る男にも、緊急事態なので電話を掛ける。
「…………よおよお、さあ、サードン?借りは返してもらうぜ」
『えー?アオイーやん。おひさー。そうやった、アオイーさ、あの日急に宮野さんに連れて帰られたからオレびっくりしたんに、あの後連絡するん忘れてたわ』
「忘れとけー。………よし、サードン、今から俺が言う場所までひとっ走り行ってきてくれ。地図はLINEで送るから、よろ」
『急に何や〜。おいおい、それが人にもの頼む態度かいな〜アオイー』
「………。言っちゃおっかなぁ〜、言っちゃおっかな〜、佐渡大地くんはうちの学校の美少女を騙して合コンに連れ込んだ極悪男って、言っちゃおっかな〜、うちの学校のファンクラブが総出で襲いに来るけど大丈夫かっな〜??」
『………え、ちょ、あ、アオイーっ?……実は、結構抜け目ない男やったんか、お前………』
「そんなことないよー。じゃあ、サードン。借りの分はきっちり祈り、働けー」
『えええ?ちょっ、アオイー、俺今からまた合コ……』
ブチッ。
どんだけ合コン好きなんだよサードンお前。
モンテ=カシノ修道院行ってこい。
一通り、その後も必要な人物に連絡を掛けていきーーーーー、
俺は、考えていた。
一応頼めるだけの人に協力は仰いだが、これはあくまで、俺の賭けが外れた時の保険だったりする。
陽飛がどこを舞台に選ぶかーーーーーー。
あのカッコつけたがりなら、1つしかない。
最上階を貸し出さずにアイツが専用してる、あの高層ビルーーーーー。
今頃、夕日でも見て黄昏てんだろあの野郎。
どうだ、当たりだろ。
幼馴染舐めんなよ。
「……はぁ……」
自分の行き先が定まって、急に怖くなった。
今日の放課後すぐまでは、覚悟していた筈なのに俺は今……怖い。
真実を確かめるのが、………怖い。
でも、行かなければいけない。
父さんに宣言したんだ。
全部告ってくるとーーーーーーー
「そこで待っとけ、陽飛………」
俺は、走り出した。




