百合展開か…!?
相変わらず外の景色は、閉ざされたまま。
謎の金髪ブロンドさんの車に拉致られ、俺は冷静に自分の身の振り方を考えていた。
誘拐にしては杜撰だ。
手足の自由も奪われてないし、スマホ等も取り上げられていない。逃げようと思えば逃げれると思う。
まあ、走行中の車から飛び出そうなんて、ほぼ自殺行為だが。
うーん……にしても、目的が分からん。
日本を代表する大企業の御曹司である陽飛ならまだ分かるが、一般家庭育ちフツメンの俺を拉致る理由など、皆目見当もつかない。
恐怖も若干ありつつ、大半は不可思議。
疑問符が頭いっぱいに浮かんでいた。
金髪ブロンドさんは、カーテンが閉まった窓を眺めて片肘をついている。長い脚を組んでいるのも、様になっていた。
外国の子だろう。ハリウッド女優かと思われる美貌の持ち主だ。
「…………」
うむ。
何かこの金髪ブロンドさんに、見覚えあるんだよなあ……会ったことはないと思うんだが、似た顔を最近見たような気がする。しかし思い出せぬ。
車が緩やかに停車した。目的地に着いたらしく、ドアが自動で開いた。
新鮮な外の空気が入り込んでくる。
一瞬逃げようかと思ったが、どうせなら目的を探ってから帰ろうと思い、俺は金髪ブロンドさんとSPらしき男が降車するのに続いた。
降りた先の光景に、俺は目を疑った。
何だこれは…!!
目の前には、まるで城かと思う白造りの大豪邸。立派な門をくぐると、レンガの道がどこまでも続いている。
左右を見れば、趣のある早春の庭園。
冬も終わり暖かくなり始め、そこには立派な梅の花が咲いていた。
東屋はポツンと遠くに見えて、この庭の広さを強調していた。
すげぇ……マジもんの大富豪だぜ……あの冷泉グループの御曹司の陽飛といい勝負だぞ。
玄関の扉が開き、城の内部が開放された。
俺は広すぎるリビング……リビングなのかこれ?
とにかく広い部屋に通され、なんだかメイドさんらしき方たちがせっせと、アフタヌーンティーの準備をしていた。
S Pさんはいつの間にか消えており、俺と金髪ブロンドさんは綺麗にセッティングされたテーブルの前に着席。
向かい合う位置に、お互いが居た。
「はじめまして、オオクラアオイ。ようやく貴方にお目にかかれたわね」
「ええ!?」
俺は目ん玉が飛び出るかと思った。
何で俺の名前知ってんの!?てか、ようやく会えたって何事!?
「何をそんな驚いてるの?ワタシの話くらい、向かうから聞いてるでしょ?」
「…………え、いや、は、はあ……」
曖昧な笑みを返すしかない。まだこの拉致ってきた金髪ブロンドさんの目的が分かってない状態で、下手に刺激する訳にはいかない。金髪ブロンドさんが知ってるでしょ?と言ったら、イエスなのである。
………いや、誰っ!??
「あ、あのー、何で俺はこの家に招待されたのでしょうか………?」
「そりゃあーーーーーー」
金髪ブロンドさんは、俺を軽く睨んだ。
毛並みの綺麗な猫に睨まれたら、こんな感じかな。
「ーーーー人のモノにちょっかいかけてる貴方を、更生させるためよ!」
びしっ!と俺を指差して、堂々と宣言した金髪ブロンドさん。
沈黙が、走った。
「………ええええええっっっ!!!!?」
次の瞬間、俺はありったけ叫んでいた。
仰天である。
そんな、こ、心当たりがありすぎる…!!
彼氏が居るのに、来海にちょっかいかけてる俺!!
いや、かけてるつもりはないんだよ……。
俺の罪が裁かれる時が、来てしまったーーーー!!!
断罪ルート強制突入!??
てか、何でそれをこの金髪ブロンドさんが知ってるんだよ!??
「幼馴染だからって、人のモノにベタベタ……!!もうワタシは、貴方に我慢ならないのよ!!いい加減人のモノをタラシこむのはやめなさいっ!!」
「………ええ!?っ、す、すみません…!……」
やっぱ来海のことだ!!俺と来海の話だ!?
幼馴染だからって、人のモノにベタベタ……俺やん!来海に対する俺の態度の話だっ!?
すみませんほんとに!これでもだいぶ改めたんです!もう膝枕してないし、朝の準備もちょっとしか手伝ってないし、デートも全っ然してないんです!
いや。
だから、何でこの人が知ってんのーーー!??
「いっつも、2人で親密そうなやり取りしてっ!何よあの長ったらしいメールの長文は!?貴方、定期的に自分の写真送ったりしてるでしょうが!やめて頂戴ほんと!!」
「いやっ、それは誤解だ!!長文とかはたまにテンションおかしくなった時に、何度か送ったことある程度でーーーーーっ、て、はあ!?いや自分の写真とか、誰が送るかぁ!??そんなナルシストしたことないわ!!キモすぎんだろ!!」
「送ってるじゃない、いつもいつも!!」
「送ってねぇっつてるだろ!?」
いや、そんな気持ち悪いこと出来るか!!
何言ってんだこの金髪ブロンド。
来海にリクエストされたことあるけど、俺は一回もそんなことしたことないわ!!
長文はたまにテンションおかしくなったときに、来海ちゃん可愛い構文を送りつけた覚えあるが、写真の件はまったくの誤解だ。
「……わ、ワタシだって、我慢してるのにぃ〜。ズルいじゃない、貴方だけあんなにかまってもらえて…」
「…………!!?」
金髪ブロンドさんは、泣きそうな顔をしながらケーキを口に放り込む。カンカン、と銀製のフォークが、食器の底を突いた。
こ、これは………。
そうか、この金髪ブロンドさんも、来海のことが好きなのかーーーーーー!?
金髪ブロンドさんは来海に恋人が居るのを知っているから、我慢をしている。
それなのに、同じ横恋慕する立場の俺がそんなこと構わず来海のそばを離れないものだから、俺に一言言ってやりたくなって気が済まなくなったと。
これが、百合展開……。
流石、同性をも惹きつける来海ちゃんの天使的魅力……!
「ごめん、金髪ブロンドさん。君の気持ちも考えずに俺は幼馴染のそばから離れなくてーーーー君からしたらやるせない気持ちになったんだよな………」
「そうよ!だから、こうしてワタシ、日本にわざわざ来たんじゃない……」
「もしかして、外国から……?」
「そうよ。ここはうちの別邸っ!本邸は、向こうの国なんだから」
「そんなはるばる、うちの幼馴染に……」
いつの間に来海は、海外進出していたのだろう。
よく分かんないけど、流石来海ちゃん。
「もう連絡は控えて頂戴。写真もやめて」
「だから写真は送ってないけど……うん」
やっぱり、人のモノ。
来海は誰かの恋人。
そして、その正体を俺は今日知ってしまったのだからーーーー。
2人の幼馴染を、俺は見守ってやらなければいけない。彼女の言う通り、俺は更生しなければいけない。
「でも、たまに眺めるくらいはやっぱり許してほしい……来海が居ないと、俺は……」
「クルミ?誰それ?」
金髪ブロンドさんが、眉をひそめた。
「え?」
「え?」
「ワタシの婚約者の話だけど?」
「……え」
知らんて。
誰?
「俺は宮野来海ちゃん一筋ですけど…?」
「……あら、そうなの…?」
「はい。来海大好きマインドで毎日を謳歌してるんですけど」
「………あれ?ワタシの勘違い……?てっきり…」
金髪ブロンドさんは、首を傾げた。
「じゃあ、ごめんなさい。突然来てもらって悪かったわね。もう帰っていいわよ」
「え、あ、ど、どうも………」
急に用済みになったらしい。
まあ、いいけど。帰るか……。
俺はメイドさんらしき人たちによって見送られ、お城を後にした。
いや、だから、あの金髪ブロンドさんは、誰なの?




