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金髪ブロンドさんに拉致られる

『だったら、何?』


来海と付き合っているのかと尋ねた俺に、陽飛はそう言った。面白がっているようで、目の奥はちっとも笑っていなかった。

寧ろ、そんな質問にうんざりしたような含みのある声色。


俺は途端に頭が真っ白になって、何も返せなかった。


……もしかしたら、とは思っていた。


だけど、まさかそんなことはないだろうとも、思っていた。


顔と頭がとびきりいいが、来海を虐めて笑っているような男なんだ。来海はそんな陽飛に対して、恋愛の意味を帯びた好意を抱いているようには、俺には少なくとも感じられなかった。


だけど、違うのか?


陽飛の言葉が実は真実で。


来海は陽飛を選んで、いつの間にか俺の知らないところで陽飛の彼女になっていたのかーーー?


「……来海」


『うん。碧くんだけ……』

数日前の来海の言葉が頭の中でリフレインする。月が綺麗な夜の中、繋いだ2人の手。その体温の温かさを、俺はよく覚えてる。


違う。

来海はきっと、そんな嘘吐かない。

あの言葉と微笑みが偽物だなんて、そんなはずはない。


だけど、ずっとバレンタインの件が俺の奥深くで引っかかっている。

それのせいで矛盾ばかり。

来海を信じたい気持ちと、疑わずにいられない気持ちが相反して、砂利を口の中いっぱいに噛み砕いているかのような不調和。


俺は受け取っていない、告白のメッセージカード。

誰がそれを受け取ったって言うんだよ……


陽飛は、何か知ってるのか?


そういえば。

来海の彼氏なのか、という普通に考えれば突飛な俺の質問に、陽飛は訊き返しもしなかった。

つまり、来海に彼氏が居るという事実を不思議に思っていない、陽飛は来海に彼氏が現在居ることを知っていたことになるのではないか。


陽飛が本当に来海の彼氏である、もしくは、来海に何らかの相談を受けていた?


ちくしょう。

分からないーーーーーーーー

陽飛の奴、何考えてるんだ……


せめてこんな日に部活でもあれば、何も考えずに済んだだろうに、今日に限ってオフだ。

気のいい部活仲間たちが、最近学校の近くにオープンした立ち食いラーメンでも食べに行こうと誘ってくれたのだが、そんな気分にもなれず。


俺は何かショックなことがあるときに、それを他の楽しいことで補填できるような心の器用さを持ち併せていなかった。

ショックを引き起こした原因を解決出来ないと、永遠に負のスパイラル突入。

今はまさにそこである。


「はあ………」

最寄駅を降りて、俺は家へと向かっていた。

騒がしい雑踏を抜けて、馴染みの住宅街の中を歩いていく。


その間もずっとモヤモヤして、どれだけ考えても答えが出てこない。

陽飛の言葉を信じてしまうなら、来海の彼氏は陽飛である。しかしそれは、来海の言葉と矛盾する。すると今度は、バレンタインの告白エピソードと矛盾する。

合コンの件がシロだったため、来海に彼氏が居ないと思っていたのに、どうやら居るのは本当みたいだし。


ああ、もう訳がわからん…。


後ろから車の走行音が聞こえてきたので、俺は道の端に避けた。


黒塗りの一台の車が、俺の視界の横を通り過ぎるーーーーいや、長っ!?


俺はぎょっと目を見張る。

車体の長さが普通の車の数倍あった。

こ、これが俗に言うリムジンというヤツか…。間近で見てみると、迫力がすごい。


「すげー、こんな高級車が普通の住宅街を走ってるとは……」


どんな時の権力者が乗車されていらっしゃるのでしょう。

窓越しに手を振ってくれるかもしれない。

何か総理大臣とかはそうらしいじゃん。上空にヘリコプター飛んでたりして。俺は、わくわく。


…て、まあそんなのは冗談でして。それくらいこの一台の車には、迫力がありましたという話をしたかっただけである。


俺には全く関係のない世界だろう。


ーーーーーしかし、その時だった。


車体の半分が俺の横を通り過ぎたあたり。

そのリムジンが緊急停止した。


なんと、パカッとドアが開き、リムジンの中から骨ばった手がこちらへと伸びて来たのだ!


「……え」

俺は咄嗟のことに反応出来ず、ブレザーの裾を掴まれて、するっと、そのリムジンの中へと引き込まれた。

車内へ押し込まれ、ふかふかのシートに放り込まれる。俺の身体がそのシートに受け止められた。

…おお、すごい。外見だけじゃなく、リムジンは中まで一級品らしい。マジでふかふか。


そんな呑気な感想を抱いていると、俺を車内に連れ込んだスーツ姿の男性と目が合う。

男性は、黒塗りのサングラスを掛けており、まったく表情が読み取れない。ドラマに出てくるようなSPを連想する居でたちだった。


それから、俺は、車内に居たもう1人と視線がばちりと合う。


「………はあ、どうも…?」

「………」


挨拶したが、眉を上げられてしまった。しくしく。


彼女は、腕と脚を組んだ。

ふわふわと波を打った金髪ブロンド。青い洞窟のような碧眼。装飾品で着飾った様子は、中世ヨーロッパかどうかのお姫様といった風貌である。

一言で言うなら、気の強そうな美女。


シートに寝転がった俺を、彼女とSPらしき男性がじっと見下ろしている。


いや待て?!

…何だ?!……何だこの状況は!?


これはもしやーーーーーーーゆ、誘拐…?!


まさか一般家庭育ちのフツメン大倉碧が、そんな事件に巻き込まれるなど誰が想像したであろうか!


急に恐怖が襲ってくる。さっきからこの2人組に無表情で見下ろされてるんだよ、ずっと……。

全く展開が読めなくて、俺は冷や汗をかいた。


交渉!和平交渉するなり!


「あ、あのう……帰してもらえたり、しませんか…」

「無理よ。事が済むまで無事に家に帰られると思わないことね」

「………」


誘拐犯なのでは?言っていることが、マジの誘拐犯みたいなんですが、怖いよどうしよう(絶望)

お巡りさ〜ん…っ。


「さあ、私の家に行きましょうかーーーーーー」

「へぇ………」


恐怖宣告。

これが来海ちゃんだったら、ひゃほーいしてるところなのに、見知らぬ金髪ブロンドさんが言うとこんなに感情が正反対になるんだな………。


車が再び、急発進する。

窓には全部カーテンが下りていて、外の様子が見えない。隙間からちらりと見えた景色は、どんどん移り変わって行った。


大倉碧の人生初、誘拐劇らしきなるものが、突如として始まったーーーー。





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