もし俺が付き合ってるって言ったらどうするの?
陽飛と最初に仲良くなったのは、俺だった。
来海とは、母親が親友同士ということで、生まれた時からの付き合い。
だけど、陽飛と出会ったのは、幼稚園に入園してから。その頃からアイツは、もう既にイケメンの片鱗は出ており、女子にモテモテだったのは、今でも覚えている。
何だかつまらなそうにしてた陽飛に、俺の方から声を掛けた。後に語った本人曰く、『幼稚園児の中に自分だけ中学生が居る』感覚だったらしい。頭が良すぎて、ちょっと馴染めなかったと。天才の苦悩というやつか?
当時の俺はまったく気にすることなく、幼稚園児らしく話しかけた。
『はるひくん、あそぼー』
『うん。将棋であそぼう』
『え?ルール分かんないからまた明日ね』
『え?』
その日の夜、俺は将棋に初めて触れた。
次の日。
『はるひくん、将棋しよー』
『うん。チェスであそぼう』
『え?ルール分かんないからまた明日ね』
『え?』
その日の夜、俺はチェスに初めて触れた。
次の日。
『はるひくん、チェスしよー』
『うん。オセロであそぼう』
『オセロは知ってるからやっと遊べるね』
『やっと遊べるね』
オセロでようやく合致した。
頭おかしいのか、コイツら。
陽飛に当時のことを聞くと、腹を抱えて笑い出すので始末が悪い。俺を揶揄って遊んでたらしい。
やっと馬の合う奴が見つかったと思った、とも。
そして、そのうち陽飛と来海は、俺を通じて知り合った。
陽飛が当時、来海のあまりの可愛さに、衝撃を受けていたのは今でも覚えている。
今でもアルバムたまに見返すけど、来海ちゃんマジで天使だから。小さい子特有のあの頬っぺたが、もうそれはそれは可愛かったのよ。
恐らく陽飛も俺と同じく一目惚れだったに違いない。
そのうち、素直になれない陽飛は来海を揶揄っていた。これまたよくあるやつよ。好きな子イジメちゃうやつ。俺は意味分からんけど。
でも、なんだかんだで来海もそれを怒らない。もう陽飛くんは、と非難がましげに見るだけ。
俺がいつか本気で陽飛にその悪癖を怒った時、来海は陽飛を庇った。
怒らないであげて、碧くんーーーと。
何でだ?
何で虐めてくるアイツを甘やかすんだ。
虐めた後は、ちゃんとあのイケメン面でごめんねと言ってくれるからか?
「ーーーーーーアオ?」
俺の過去の回想よりも、すっかり成長した姿のイケメン幼馴染が立っていた。
そうだ、陽飛が突然ロスから帰ってきて、俺は今頼まれて、コイツを昇降口まで送り届けてるところだ。
憎たらしいほどのイケメンが、俺の隣を歩いている。
ルッキズムの頂点め……。
「……陽飛。お前、今回は何日滞在する予定なんだ?」
「クルミの誕生日の日まで。その後は適当に海外かな。ちょっと逃げ切らないと、困ったことに」
「ん?」
「いいや、何でもない」
陽飛は、ニコリと笑うだけだった。
コイツ、誰かに追われてるんだろうか…可哀想に。どっかでケンカ売ってしまったんだろう。
それより俺は衝撃を受けていた。
何故突然帰ってきたんだと思ったら、そうだ。3日後が来海の誕生日なのだ。
もしかして、陽飛はそのために帰国してきたのか?
まだあっちの高校も春休みには少し早い頃だから、わざわざ休暇を取ってきたことになる。
わざわざ………。
「陽飛。変なこと訊くが、お前ーーーーー」
陽飛が、こちらを向く。
「お前が来海の彼氏……じゃない、よな……?」
これは、疑問じゃない。確認だ。
来海がずっと居た俺よりも、陽飛を選ぶなんて、そんなーーーーーこと。
陽飛は曖昧に微笑む。
「もしそうだよ、って言ったらどうする?」
「は………?」
喉から干上がった声が出る。
アレは、疑問じゃない。ただの確認だ。
なのに、たった今、陽飛はあっさりとそれを俺の前で覆したのだーーーーー。
俺は乾いた笑みを漏らす。
「じょ、冗談、だよな……?」
さらりと言ったつもりが、まるでそうではないことを縋るような俺の声。
陽飛は、微笑む。
「…別にどっちでもいいよ。でも、今回はクルミの誕生日に間に合わせて帰って来たのは、ホント。間に合わせてあげないと、クルミが可哀想かなって」
何で。
「………は、…陽飛………お前、本当に……お前が来海の彼氏なのか………?」
「ーーーーーーだったら、何?」
もう一人の幼馴染は、ちっとも笑わずにそう告げた。
久しぶりに『塩系彼女の本音が可愛いすぎる』も書いてきました。あっちの作品の主人公は書いてて落ち着くのに、こっちの主人公は…………
胃が痛いぜ……




