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もう一人の幼馴染

昔からアイツはクソガキだった。

来海をいじめて、すぐに泣かす。

好きな子をいじめちゃうという、典型的なクソガキであった。

頭がいいくせに、馬鹿なことをするもんだ。


俺は勿論、アイツとは違って素直に来海のことは可愛い可愛いしていた。

来海がアイツに泣かされるたびに、来海を慰めて、来海は俺の方にべったりになった。


馬鹿なのかアイツは。


好きな子いじめてどうする。優しくするのが基本だろうが。


しかし、アイツはとにかくしつこかった。

俺と来海が2人で居れば必ず邪魔してくる。

大丈夫だ、さあ来海ちゃんを愛でよう!と思って俺が安心してると、アイツがいきなり現れて俺は何度地団駄を踏んだことか!


アイツが高校に入ってすぐ家の都合でロサンゼルスに飛び立ってから、俺は来海と2人きりで平穏な毎日を送っていたのにーーーーーー




「……………俺はどうしたらいいんだ颯」

「……ああ、そういえば。居たねもう一人。幼馴染。ああ……」


颯は、そういえば何か居たなあ、みたいな反応だった。


「リアクション薄っ!」

「だって、僕は彼と接点なかったしなあ。高校入学して3日目にロス行ってなかったっけ?消えた貴公子、って騒がれてたのは覚えてるや」

「ああ。アイツの家の方針でな」


早い話が、アイツはいいとこのお坊ちゃまなのである。親とだいぶ揉めたみたいだが、結局海外に留学させられることになった。

来海と離れたくなかったのか、出発前はかなり沈んでたな。


グッジョブ、ご両親っ!

お陰でこの一年ほど来海と幸せラブラブな毎日を送れたぜ!

もう帰ってくるなクソガキ。


「………で?彼がいよいよ思い当たる宮野さんの彼氏候補の最後の一人と。碧はそう言いたいわけか」

「………………………………。実に、許しがたくも。誠に、非常に、本当に、本当に、不本意だがな………ぁっ……ぅっ……」

「すごい。見たことないレベルで嫌そうな顔してる」

「………そういう仲だったと察してくれ…」


よほど苦い顔になっていたらしく、あらら大変と口元を押さえる颯くん。

俺はこの世のあらゆる理不尽を前にしたような溜め息を吐き、何故そう思い至ったのかを颯に語る。


「…アイツは今海外にいるんだ。これで来海が、彼氏が出来てなお、俺を甘やかしてた理由が分かる。俺を甘やかしてたところで、海外に居るアイツの耳には届かない」


勿論、来海はそんな子じゃないと思うが。

意図して、俺とのただの幼馴染らしからぬ関係を続けているわけではなく、その関係が彼氏がいるなら常識外れだということを分かっていないのだと思う。


にしても何の目もはばかる様子がなかったのがずっと気になってたんだが、彼氏が海外に居るとなれば。


それに、俺相手ならアイツは嫉妬しない。

来海も知っている。


「え?あー、理屈としてはね……通るかもね……」

颯はちょっと面倒くさそうな顔をした。

何でだよ、颯くん。

俺の天才的推理タイムよ。


俺はアイツのことを考えて、ふつふつ沸き立つ怒りのまま、拳で机をとんと叩いた。


「聞いてくれ、颯!!何よりな!………何よりアイツはあんなに可愛い来海をいじめるのが好きなクソガキなんだ……!高校生になったくせに、まだ昔のままだ!そんなクソガキが彼氏なんて、そりゃあ、来海ちゃんが俺に甘やかされたいとついつい思っちゃうのも納得よ!ふざけるな陽飛(はるひ)!!」

「はあ。暴走しだしちゃった…」


くぅ。最悪だ。


「来海……っ、あんな男のどこがいいんだよ…。ちょっとびっくりするくらい顔がよくて、スタイルもよくて、めちゃくちゃ頭よくて、たまに醸し出してくる頼れる男感がぐらっと来るクソガキの、どこがいいんだよ……!!」

「好きじゃん。褒めてるじゃん」

「好きじゃねぇよ!!大嫌いだわ!!アイツだけは蛇蝎のごとく嫌いと断言できる!!」

「可哀想に」


俺は来海をいじめて泣かせるやつは、絶対に許さん。


だけど、アイツのことだ。

来海の弱みでも握って脅して付き合わせたのかーーー?


……いや、いくらクソガキとはいえ、そこまでは落ちぶれてないと信じたい……



「ーーーあれ?でもそれは無理なんじゃない?」

颯が首を傾げた。


「どうしてだ?」

「だって、宮野さんはバレンタインに相手にチョコを渡した上で、告白したって言ってたじゃん?ロスに居るその幼馴染くんには、不可能だよ」

「ああ。颯くん、いい着眼点じゃよ」

「何のキャラ?」


俺はパチンと指を鳴らした。


「ザッツライト!俺もそう思って、かなり早い段階から奴の可能性は消してしまっていたーーーーー」

「だから、何のキャラ?」


俺は表情を落とした。

この仮説に気付いてしまった時、人生を迷った。


「今の発展した世の中に合わせて、告白の方法もスマート化している……」

「はあ……」

「つまり、リモート告白が行われていた可能性があるっ!」

「………。一応、聞いてあげようか?」


面倒くさそうな表情をされた。

何か最近よく見る気がするのは、気のせいだろうか。


「いや、一応じゃなく、よく聞いてくれ颯くんよ!これなら辻褄が合うんだ。そもそも!バレンタインの日、俺と来海は朝の9時から夜の7時まで、ベッタベタにデートしてたんだーーーーーー」


「おいちょっと待てね。何か今、さらっと重要な後出しして来たよね??」


「ーーー続けるぞ。だからリモート告白なら辻褄が合うんだ!俺と別れた後にでも、スマホでアイツと連絡を取る。来海は、事前にロスへと送っていたチョコをアイツにその場で開封するように誘導し、そして画面越しの告白…っ!!……ぅ、考えただけで、脳が破壊しそうだ……」

「うん無駄に逞しい想像力働かせるのやめな……?」


颯に呆れた顔をされる。

果たしてこの顔を最近ずっと見ている気がするのは、気のせいだろうか?


「……というのは、まあ、流石に俺も妄想がすぎるかなとは思った」

「おー、偉い。やっと気付けた?」

「おう、気付けた。だけどもう、正直手詰まりだ。来海の彼氏候補で思いつくのは、もうアイツしか居なくてな………」

「だから立候補しようって」

「バレンタインエピが引っかかってるんですよこちとらっ!貰ってねえよメッセージカード!」

「……うーん……それが謎なんだよね……」


やれやれと颯は、肩をすくめた。


バレンタインの告白エピソードさえなければ、来海の彼氏って俺なのでは?と期待に胸を膨らませることも出来るのだが、あいにく身に覚えがないため、彼氏は他に居ることになる。


俺も颯同様、肩をすくめるのだった。



******


タクシーから降り、青年はとある高校の校門に立っていた。移動に手狭なスーツケースは、既に実家に発送してあった。

身一つでの、来校であった。


青年は見上げた。

親に粘ったが、たった3日しか通えなかった高校。

今は休み時間だろうか。

ガラスの窓の奥には、生徒たちがあちらこちらに動き回る景色があった。

そのどれもが、眩しい青春の1ページに違いなかった。輝かんばかりの、笑顔。


幼馴染たちも、その中にいるんだろう。

ますます、悔いが残る。

自分もその中に居たかったのだと。


青年は、校門を通り抜けたーーーーーー。



再会まで、あと少しだ。





ついに嵐が帰ってくるーーーーーー

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