合コン⑧
そして、序章に戻るわけであるーーーーー。
サードンに嵌められた俺は、現在合コンとやらに参加してしまっており、両隣には女子たちが座っていた。
グラス片手に、ぐいぐいと距離を詰めてくる女子たちと、1ミリたりとも接触してはならないと身体を細める俺の攻防戦。
「えー、かっこいい。君、途中で現れたからびっくりしちゃった」
「何かアレみたいじゃなかった?『瞬恋』の途中参加みたいな?!」
「きゃー!分かるー!」
いや全然分からん。女子高校生のノリついていけないですわ。
「あ、ごめんね!こっちで勝手に盛り上がっちゃった!ねえ、『瞬恋』って観てる?」
ロング女子に話を振られたが、知らん。
適当につまらない話して、興味を失くしてもらおう。
俺はうんうんと頷いた。
「ああ……!『瞬くんに恋した6人の女〜泥沼でもこれは愛〜』のことか?6人の女に瞬くんの身体が引っ張られてちぎれないか観てて個人的に心配になったわ。あとちょっとで六裂きになる瞬くん……瞬くんの絶叫顔に視聴者はとりこになるラブコメディね」
「…っ、ふ、?!いや何それ〜っ!?あはは!泥沼すぎ!?違うよ、『瞬間の恋でも、実りますか?』通称『瞬恋』!高校生たちの恋愛番組だって〜!」
ロングの女子にバシバシと腕を叩かれそうになって、俺は自分の頭にまいったな風に手を当てた。
彼女の手が空を切る。
ほうほう。瞬恋ね。
ああ、何かスマホにたまに流れてくるやつだ。
高校生の恋愛リアリティショーであり、何泊かの旅でカップル成立を目指す番組。
途中参加メンバーが来たりして、恋模様に波乱があって、高校生たちの間でよく話題になってる。
「そうだ『瞬恋』風の自己紹介してみてよ〜!まだ君の名前聞いてなかったし〜!」
無茶ぶりすな。
だから1993年に公開された『瞬くんに恋した6人の女〜泥沼でもこれは愛〜』しか俺は知らないって。
アレは純愛の大切さを教えてくれる名作だぞ。瞬くんを殺して仲良く6等分した女たちの狂気のラストは震えた。
スマホでちらっと観た『瞬恋』のショート動画を思い出しながら、俺はこれまた適当に自己紹介。
確か彼らは、名前と盛り上がりそうな恋愛系の質問を一個投げかけるのがお約束だったはず。
「どうもー。高校1年生の、大倉碧です。俺ガチガチ幼馴染純愛派なんですけど、皆んな何派ですか?」
「部活青春派でーす」
「メニーナイト派〜!」
「気付いたら恋派〜」
メニーナイト派が気になる。ワンじゃなくて沢山ナイトを重ねればいいってことね成程。本当に高校生かなキミ。爛れてやがる。
はあ、意外とノリいいな……?
俺は、つまらないことしか言えてないのに、女子たちが思ったより頑張って話に食いついてくれていた。
彼女たちの話は続く。俺は相槌を返すだけだ。
ああもう、この状況が気が気じゃない。
ちくしょう、俺はただ来海の最有力彼氏候補にコーヒーをぶっかけられに来ただけなのにーーーーー。
「大倉くん、何飲むー?」
「私、好みかも……」
「ちょっと、大倉くーん、楽しんでる?何か浮かない顔して…」
炭酸をぐいっと喉に押し込む。グラスの中を飛沫が昇っていく。
……さっさと終わらせてしまおう。来海も家で待ってくれてるみたいだし。
女子たちは申し訳ないが放っておき、俺は席を立った。
遠くのサードンを睨みつけつつ、例のターゲットに接触をはかった。
ーーーーー守下優斗。
中学の同級生で俺の生徒会仲間だった彼が、先月の合コンで帰り際来海と良い雰囲気になっていたとかーーーー、
良い奴だが……
良い奴なのは、知ってるんだが。
彼が、長年恋してきた幼馴染の彼氏なのかもしれないと思うと、もう胸が裂けんばかりであった。
今日は枕が涙で濡れるのでは俺。
意を決して、彼に声を掛けた。
「……久しぶり。守下、卒業ぶりだな」
「……大倉?」
俺がこの場に居るのを不思議そうにしている守下。
何でここに?という視線を感じた。
もしやサードンは、マジで何も俺のことを、守下に伝えてくれてないのでは……?
サードンめ。事前に聞いてた話と違うじゃないか!
「何?2人って、知り合いー?」
恐らく守下狙いであろうボブ女子が、守下の隣で尋ねる。守下は答える様子がなかったので、俺が代わりに答えた。
彼女と選手交代させてもらいたいのだ。
「ああ。中学の同級生で。お陰で話が積もりすぎちゃってるから、守下をちょっと借りてもいい…?」
俺が部屋に入った時から、彼女は守下の隣を離れないので少々手こずるかとおもったが。
ボブ女子は思ったよりあっさりと了承してくれた。
「えー仕方ないなぁ!…じゃあ、また後でね守下くんー!」
「………」
いやせめて何か反応してあげな?
クールなところは、相変わらずだ守下。
俺はありがたく、ボブ女子に代わって、守下の隣に腰を下ろした。
……さて。
何の話をしたらいいんだぁぁーーー!!!?
『守下って、来海の彼氏?』と訊いてイエスと返された瞬間、俺は死亡。そんなど直球の質問投げる勇気はないんですよ。
あ、『彼女居る?』とか訊くか!
でも中学の時に馴れ馴れしくそんな質問しちゃって、守下に嫌がられた記憶があるーーー!!!
なしなし。
つまり、この最適解はーーーーーっ!!
「………こ、恋人が居るのに、こういう場に参加するのは、守下はどう思う…?」
「………はい?」
そ、そんな顔しないでくれ。
本題に対して婉曲すぎて、意味が分からんだろうが、答えて欲しいところ。
それがアリなら、守下が来海という彼女が居る上でこの場に参加しているのかもしれないし、彼女持ちでない身で参加しているのかもしれない。
それがナシなら、守下がここに参加していることは矛盾。つまり彼女持ちでなく、来海の彼氏でない確定演出。
俺のショック耐性的に、いきなり疑惑に白黒つけてしまったら、泡吹いて倒れそうなので軽いジャブ。
守下は、ぼそりと言った。
「……まあ、時と場合によるんじゃないか?」
……いや分からないよぉぉ!!!!
イエスかノーで言ってくれぇ……!
どっちだーーーーーーー。
俺の心理戦は続く………
『瞬くんに恋した6人の女〜泥沼でもこれは愛〜』
1993年公開。
主人公の海道瞬は、人心掌握の天才。類稀なる美貌で女を破滅に導く彼には、恋してくる6人の女が居た。1週間のうち、1日は自分のために。残り6日は彼女たちにそれぞれ1日与え、見返りに彼は彼女たちの財と名誉を吸い上げていたーーーー。そんな自分至上主義の彼に運命の女性との出逢い。彼は自分のために在った最後の1日を彼女の捧ぐことにーーーーー。6人の愛はやがて泥沼へ。
これは狂おしき6人の愛に、全てを侵されていく1人の男の物語。




