幼馴染に彼氏が居ると知った日 (当日編①)
幼馴染の柔らかーい太腿に存分に甘やかされた、次の日。
休日明けの学校だが、俺の気分はルンルンであった。
いやー、可愛いとエロスは世界を救う。
上機嫌で1時間目の英語の予習をしていた俺の前の席に、友人が登校してきた。
友人の松枝颯である。
優男系イケメンというのが、しっくり来る風貌をしている。
「やあ、おはよう。随分と気分が良さそうじゃないか碧。さては、宮野さんに昨日甘やかしてもらった?」
颯は俺と来海が幼馴染だと知っている。というより、同学年なら多分皆んな知っている。
来海はあれだけ美少女なので、注目の的なのだ。
入学した当初は、そんな大人気の来海の隣に俺が高確率で居たものだから、「アイツは何だ!?」となったわけだ。
冗談抜きに、当時は男どもの視線で俺はマジで殺されるんじゃないかと思ったくらいである。
今では幼馴染であることが周知され、だいぶ俺を刺すような視線も緩和したけどな。
モテる幼馴染を持った男は、つらいよう。
「おう。俺が頰に太腿を押し付けられる快感を覚えた話聞きたいか?」
「いや、遠慮しておくよ。その甘ったるい話で、砂糖吐くのはごめんだね」
顔に似合わず、バッサリと一刀両断される。
うーん。
今回はどちらかというと、甘ったるさ抑えめのエロス回だと思うけどなあ?
颯は、ちょっと長めの溜め息。
「……はあああ、ほんと、その距離感で恋人じゃないってなにごと?」
「いや、それは俺も思う。…あのさ、颯」
「改まって何だい?」
「来海に告白して、オッケー貰えると思うか?」
「うん貰えるから、早く行ってきな?」
「そうか……」
非常に力強い颯の肯定が返ってきて、俺の告白への不安が少し和らぐ。
ここまで気を許されてて、甘やかされまくって、実は好きでもなんでもないとかだったら、俺の人生が詰むんだが。
大丈夫……だよな?
実は2週間後にある、来海の誕生日で俺は告白をしようとひそかに計画中だった。
プレゼントもシチュエーションも、何がベストなのかは決めかねているけど。
来海はそういうの多分、すごく憧れがあるからなあ。
中学時代に少女漫画でどんな恋愛が理想かを力説され続けた俺は、できるだけ来海の意に沿おうと頑張っているところであった。
しかし、はっと何かを思い出したように、颯が黙ってしまった。
それから、おそるおそるといった具合で俺の名前を呼んだ。
「………ねえ、碧」
「ん?颯どした、そんな暗い顔して」
俺が告白の脳内シュミレーションをしていると、目の前の颯が何か言いにくそうな顔をしていた。
「……その、さっきのは、やっばり安易な言葉だったかも…」
「え」
俺は奈落の底に突き落とされた気分だった。
さっきの…って、俺の告白を来海がオッケーするかどうかの話だよな。
それを肯定したのが、安易だったって、そんな。
「客観的に見て、やっぱり脈ナシなのか、俺……」
過ごした年月も、かけている想いも、もちろん誰にも負けないつもりだが、しかし、俺にはそれだけだ。
それしか誇れるものがない。
あの美少女の幼馴染に釣り合う人間ではないのは、分かっている。
来海は相手のステータスを気にするタイプでないと自分を奮い立たせつつ、その気がかりゆえに、これまで俺は告白を躊躇ってきた。
颯もそう、考え直したのだろうか。
俺の気分が沈んだのを見て、颯は慌てて手を振る。
焦ったように、否定した。
「違う、断じて違う。僕は絶対にその告白が成功する確信があるよ。碧と宮野さんの、2人の間に割って入れる人間なんて存在しないからね」
ただ、と颯は言葉を続けた。
「……おかしな噂を、聞いた」
「噂?一体、どんな…」
颯は言いにくそうに言葉を止めた。
俺は、その続きが気になって、眉根を中央に寄せた。
「おい、颯……」
「……いや、聞かない方が良い。やっぱりナシ。何でもない」
「颯。ここまで言っておいて、それはナシだぞ。めちゃくちゃ気になるから」
「……どうしても、聞くかい?」
「まあ……気になる」
「分かった」
颯はじっと俺の方を凝視する。
いいかい碧、と諭すように言う。
「今から僕が言うことは、多分デマだから。僕がたまたま他クラスの女子に聞いた噂で。絶対、信じなくていいからね?」
「おう」
やたらと念を押される。
一体、どんな噂なんだ?
「あのさーーーーー」
颯は、そして、告げた。
「ーーーー宮野さんに、ちょっと前に彼氏が出来たっていう噂があるんだ」
瞬間、俺の世界が暗転した。




