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幼馴染に彼氏が居ると知った日 (前日編)

幼馴染が彼氏持ちだと発覚する前の日。

「はあ、可愛い。来海ちゃん、可愛い」

俺はスマホの中の写真フォルダをスクロールしながら、アホみたいに可愛いを連呼していた。

俺が見ているのは、先日に2人でカフェに行った時の写真。

来海がちょっと恥ずかしそうにはにかんでいる様子がばっちり撮られてあった。


「可愛いー、死ぬー」

「……」

「かわゆい。来海ちゃんの大優勝。かわゆい」

「…………っあ、あのさ。あのー、碧くんっ?つかぬことを訊くんだけど…」


俺はスマホから視線を上げて、来海を見る。

現在、膝枕してもらっているため、来海の母性の象徴で俺の視界がちょっと遮られていた。

良き眺めである。

世界は、平和だ。

柔らかーい腿と胸に挟まれ、俺の脳内はきっとあらゆる幸せホルモンを放出しているに違いなかった。


「おん、何だ?来海」

「急にいつも通り!?」

「え?何そんなに驚いてるんだ」

「さっきまでかわゆい言ってた人は、どこ行ったの!?」

「ああ。天使を護ろうの会のトップの川湯以井伊大(かわゆいいいたい)さんのことか?」

「誰っ!?」

「だが天使にお近づきになりすぎたせいで、最近裏で川湯以井伊大(かわゆいいいたい)さんは、過激派に目をつけられてしまった……彼がトップの座から引きずり下ろされる日もそう遠くないだろう…」

「何その裏設定!?強く生きて、川湯以さん」


来海がわざわざ俺のくだらないジョークを拾って、ツッコんでくれる。

優しい。好き。


「って、そうじゃなくて!」

俺のペースに乗せられてた来海が、気付いて引き返した。もうっ!と、口をとんがらせて、膝の上の俺を見る。

「目の前に本人が居るっていうのに、碧くんは…!写真より、生の私をもっと見なさーい」

「拗ねるなよ。ちゃんと見てるって」

「む、拗ねてない!私を見てるなら、別に写真でも現実でもどっちでもいいもーん」


このさらーっと、王女発言してくるところがきゅんポイントです皆様。

ここで友人から悪ノリで送られてきた女優の写真でも開いて来海の反応を見たかったが、流石にやめた。


もしもそんなことしようもんなら、今すぐに俺の頭はこのもちもち太腿から床に突き落とされることだろう。


他の女を見たら、この幼馴染は容赦ないのである。

ちなみにそれを、「もー可愛いな、もうーこのこの」とか思っちゃうのがこの俺、大倉碧である。


俺は本人からお許しも貰ったので、再びスマホに視線を戻した。

しばらくスクロールするが、その日の来海の写真しか出てこない。我ながら撮りすぎだと思う。流石にドン引きした。

可愛いは男を狂わせるのである。


「…どの画角撮っても可愛いなー、来海ちゃん」

「……ううーっ、碧くん?!やっぱり駄目!写真見るの禁止!何か私、過去の自分に負けたみたいだよ〜!」


来海が俺のスマホを取り上げる。

「…あ。お、おい」

「だって、だって……っ、写真の中の私には、そんなにいっぱい褒めるくせにぃー!!何で私には言ってくれないの、碧くんのおばかー!」


完全に拗ねた顔で、来海が俺の頰を伸ばした。

…痛ててて、いはい、いはいです来海ちゃん。

痛たたたたたたっ!??

俺の頰はもう伸びないから!

それ以上伸びないから!

顔をちぎれるあのパンのヒーローとは違うのですよ!


やっと、来海の手から俺の頰が解放される。

おかえり、俺の頰。

「はい。大人しく観念しなさい。そして出てきなさい川湯井伊大さん。何だったんですか、あのかわゆいコールは」


う……。

俺は、虫の居所が悪くて、ちょっと来海から目線を外した。

ちょっと、ぶっきらぼうになった声で、白状する。


「……だって、は、恥ずかしいだろ。面と向かって言うの」

俺は、赤くなった自分の頰のお返しに、来海の頰をつんとつついた。

なめらかな弾力が返ってくる。

今日はいつもより、来海の頰がほんのり桜色だった。

多分、いつもしてるメイクをちょっと変えたのだろう。

来海が部屋にやって来て、俺はすぐに気が付いた。

可愛いと思った。

しかし、素直に可愛いを言えず。


「………!」

来海はちょっと驚いたような顔をして、


……それからふにゃりと笑った。

鼻歌でも歌い出しそうな勢いだ。


「ふふ、もー、肝心なところで恥ずかしがり屋さんなんだから、碧くんは〜!写真越しじゃなくて、最初から素直に私に言えば良かったのですよ」

「………………。うー、し、知らん。こ、この前、桜井さんとデパコス買いに行ったんだっけ。その時のか?」


俺が誤魔化すように言えば、来海のニヤニヤ度が増していく。

「あらあらあら。照れちゃってー、可愛いー、碧くん」

「ああ、もう。知らない、俺は知らん」

「別に照れなくていいんだよ〜!嬉しいー!碧くんが変化に気付いてくれて、来海ちゃんは大変気分がよろしいのです!」

「……うう」

負けた。今日も負けである。

どうして俺はもっとスマートに褒められなかったんだまったく…!

普段散々デレてるくせに、肝心なところでシャイを発動する自分が憎い。


「ふふ〜ん、来海ちゃんは気分がルンルンなので、碧くんにサービスしてあげる〜。ほらほら〜」

「うう……けしからん……最高だ……」

頭を軽く乗せていた程度の膝枕が、グレードアップし、俺の頰にすりすりと太腿が触れた。

極楽であった。




******


……正直だ。

正直、ここまでバカップル並みにイチャついていると、俺も「もしかして両想いなんじゃないか?」などという確信を抱いていた。

慎重になって、来海の様子を長年観察した上で、いけるのでは?などとも思い、近いうちに告白しようと思っていた。


しかし、現実は残酷である。


俺がこの幼馴染に彼氏が居ると知ったのは、このやり取りをした次の日のことであった。











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