彼氏特定班発足会①
「………と、いうわけでだ。俺はもう色々諦めた。だから来海の彼氏を探し出し、彼に本気の土下座をする。何発か喰らうだろうが、別にいい。処されなければオールオッケーだ」
「はあ、待ちなさい。色々ツッコみどころが多すぎて、何から拾ってあげればいいのかわからない」
昼休み。
来海が委員会で席を外したタイミングを見計らい、俺は来海の親友、桜井さんに体育館横の階段にお越しいただいていた。
2人で階段に並んで腰掛けてるこの光景が、来海ちゃんにバレたら、やばいかもしれないが、まあまあ。
その共通の思いからなのか、俺も桜井さんも端に詰めて、真ん中にだいぶ隙間を空けていた。
桜井さんは頭を押さえ、眉根を寄せる。
「要するに、来海の彼氏を特定しようってわけね?」
「ああ、その通り。だから、来海のことをよく知ってる親友の桜井さんにご協力願おうと思って」
「私で役に立てるかどうか……。ねえ、大倉くん」
「何だい桜井さん」
「…そのぉ…来海に直接訊くのは……?」
俺は笑顔を浮かべた。
「ナシ」
「まあ、そうよね……、そっちが確実なのだけれど。どうしても、駄目?」
「いいか桜井さん?俺は来海の口から自分以外の男が好きだと聞かされたら、うっかり心臓が止まってしまう。俺が現在何とか受け止めてるのは、"来海に想い人が居るという事実"ではなく、"来海に彼氏が居るという事実"なんだよ………あれ?そういえば、別に、彼氏だからって好きな人だとは限らないよな?」
「ややこしい!そして、安定で重い!」
「………とまあ、こんな次第だ」
桜井さんは小さく溜め息を吐いた後、俺を見て頷く。
こくりと。
「分かったわ。そもそもこれは私が蒔いた種だもの。いくらでも協力してあげる」
「ありがとう、助かる」
俺は感謝を口にした。
桜井さんは、膝の上で頬杖をついた。
「んー、それで?どうやって特定するつもりなの?」
「まずは桜井さんの話を聞きたい」
「私の?」
「ああ。桜井さんはいつ、来海の彼氏の存在を知ったんだ?」
「あ、なるほど」
心得た様子で、桜井さんは「そうね、確か……」と話し始めたーーーー。
******
「ご機嫌ね、来海」
「へ……!?そ、そう〜?」
バレンタインデーの翌日、やたらと来海の機嫌が良いなあと思ったのよ。
花でも飛んでそうなくらい、顔が朗らかだけど、輝いてて。
ルンルンで、鼻歌を歌ってたの。
「何かいい事でもあった?」
「う、うん……!よく分かったね、唯ちゃん!」
「うふふ、バレバレよ。来海たら」
「ええー!ふふふ、ふふーん。バレちゃった〜!」
来海はご機嫌だったけど、私に指摘されると顔を真っ赤にしたわ。
それでちょっと口ごもりながら、私を見たの。
「唯ちゃん!…き、聞いてくれる?昨日の私の人生でもトップでハッピーかもしれない、最高のこと!」
「あらー、何よ何?早く聞かせなさーい」
「えへへ、実はね……!」
ちょっと勿体ぶるようにして、来海はこう言ったの。
「私、彼氏出来ちゃった!」
******
「死にそう………」
「ちょっ、大丈夫!?」
苦しそうに胸を押さえる俺に、桜井さんが慌てた顔をする。
…うう。く、苦しい。
苦しいよう……!
こんなん、心臓破壊案件だってばよ!
「すまん、気にせず続けてくれ……、途中でうっかり死んでるかもしれないが」
「え、じゃあ話を続けるけど、うっかり死なないでちょうだいね!?」
「分からん。ひとまず119番の準備しておく…」
「ええ、そうしなさい…」
桜井さんは、それから話を続けたーーーーーー




