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浮気相手になりたくない男の話

「やっほー、(あおい)くん!ねえ、今日どうする?ゲームやる?それとも勉強する?」

来海(くるみ)……」


今俺の目の前にいるのは、幼馴染の宮野来海。

高校生になり、ますます完全無欠の美少女街道まっしぐらの、俺が大好きな女の子だ。

彼女との出会いは、俺たちが赤ん坊だった頃まで遡る。

それほどの長い付き合い。


来海は可愛い上に、性格もいい。困っている人にはついつい世話を焼いてしまうお姉さん。

ずっとそばで見てきたこの美少女を、好きになるなというほうが無理がある。

俺はすぐに恋に落ちた。


そんな来海は、たった今、俺の部屋に当たり前のように入ろうとしている。

いや、それ自体は俺たちにとって、これまでの人生で当たり前の行為だった。

毎日でないこそすれ、お互い部活が休みの放課後は、俺の部屋で2人で過ごす。自然と昔からの習慣が、高校生になっても続いていた。


いつもなら、俺は大歓迎で来海を自分の部屋に上げ、来海を甘やかし来海に甘やかされ、幸せな放課後を過ごしているところだ。

だけど、もう違う。

そんなのは、いけない。


俺は部屋に上がろうとする来海に首を左右に振った。


「駄目だ。来海、今日は大人しく帰れ」

「え、何で?いつものこと、だよ?」


来海が不思議そうに小首を傾げる。

何でだ。

何で当の本人が自覚がないんだ。

いかん、俺がしっかりせねば。


「いや……もうそんな訳にはいかないだろ」

「……?でももう、勉強道具持って来ちゃった。碧くん、どうしたの急に。ひとまず碧くんの部屋で話そうよ〜」

「いや駄目だ。もう来海をうちに入れる訳には…」

「ううん?何言ってるのかよく分からないけど……ひとまず入るねーお邪魔しまーす!」

「あっ、おい…!」


扉の前に立っていた俺の静止を振り切り、来海が俺の部屋に強行突破してきた。

勉強道具を俺の机に置き、俺のベッドの端に、ぽすん!と座った。足を振り子のようにぶらんぶらんさせて、俺を手招きする。

ふふん、と機嫌が良さそうに笑った。


「おいでおいで〜碧くん。今日もお姉さんが甘やかしてあげるー。何がいいっ?膝枕?」

「ああ、膝まく………ん"ん"!!!」

俺は咳払いした。

いかん、長年の染みついた癖が、条件反射で出てしまった。

あの非常に柔らかい太腿に、うっかり今日も落ちるところだった。

俺はその太腿にダイブしたい己を戒め、顔を引き締めた。


「…いや、いい。早く部屋を出ろ」

「………!?なっ、な、碧くんが、私の誘いを断ったぁ…っ!?」


来海の表情に衝撃が走る。口をあんぐりと開け、くりくりの目をぱっ!と見開いた。

まあ、気持ちは分かる。

俺が来海の誘いを断ったことなど、これまでの人生でただの一度もなかったからだ。


「あ、あ、碧くん!どうしたの!?熱でも出たの!?こんなこと、今まで一度も……」

「いや、いたって正気だ。来海は色々と分かってないみたいだが……はあ…いいか?俺は刺されたくない」

「いや、何言ってるの?!!刺さないよっ!!」


お前じゃない。

お前の彼氏に刺されたくないんだよ。

来海の彼氏はだいぶ愛が重たいみたいだからな。

もし俺と来海が不埒なことをしようもんなら、嫉妬に狂った彼氏によって俺は人生終了のブザーが鳴るかもしれない。


はあ、と俺は溜め息を吐いた。

自分がこれからなすべき使命の重さに、憂鬱になる。


そう、この幼馴染には彼氏がいる。

俺が知ったのはつい昨日のことだ。


この幼馴染は、なんと自分に彼氏が出来たことを俺に内緒にしていた。

失恋と、教えてもらえなかったショックで板挟みになっているのが、現在の俺である。


同時に、俺は戦慄した。

この幼馴染に彼氏が出来たのは「少し前」らしい。


ここで、俺の過去の記憶を再生してみよう。

一昨日、つまりは幼馴染に彼氏が居たと知った前日の日だ。

当然、この時は幼馴染に彼氏が居ることなどつゆ知らず、俺は自分の部屋で来海と……

その……

なかなかに、幼馴染らしからぬ、やり取りをしていた。

多分、バレたら来海の彼氏に殺される。


何で彼氏出来たこと言わなかったんだよ、来海このヤロー!!!

そして何であの甘〜い俺への態度を改めなかった!!!

俺は浮気相手になるのは、ごめんだぞ!!!


馬鹿なの?

彼氏居る自覚のある行動を、しような?


それなのに、この幼馴染は現在、俺の部屋に何の抵抗もなく入って来てしまったのだ。


いやどうなってるんだ、お前の倫理観。

彼氏以外の男と2人きりで部屋に居るのは、アウトじゃないのか。

俺が彼氏だったら、意識失うかもしれない。

少なくとも俺目線では、彼氏が居る身としての来海のこの行動はギルティである。


「いいか。来海、俺も男なんだ。長年一緒に過ごしすぎて忘れてるのかもしれないが、男だ」

「…うん、知ってるよ…?」


もしかしたら幼馴染すぎて、性別を忘れ去られてるのかもしれないと思って警告してあげた俺の慈悲は、来海の言葉を前にあっけなく散った。

本当に忘れられてるのかもと思ってショックを受けていた男の俺としては、若干の嬉しい回答だったが、同時にさらに来海のギルティ度が上がった。


いや、もっとタチ悪いな!?

俺を男だときちんと認識した上で一緒に部屋に居るのはマズいだろ。

彼氏居るよね、君!?


「じゃあ、来海。男の俺と一緒に居る、この状況がマズいってことくらい、もう分かってるよな?」

「え………っ」


来海は小さく口を開いて………



ぽっ、と顔を染めた。


白い肌がみるみる紅く染まっていく。瞳が潤む。

上目遣いに俺を見上げるその表情は、破壊的可愛さだった。


ギルティぃぃぃ!!!!

俺は戦慄した。

彼氏以外の男にこんな顔しやがって。

俺じゃなかったら、襲われてるからなお前!?

俺が長年鍛えまくった理性さんがこの場に居なかったらどうなってたと思ってんの!?


「そ、そんな…、きゅ、急にどうしたの……碧くん、いつも何だかんだで、ガード堅いのに…」

「急じゃない。だからもう分かるだろ」

「えええ…っ!??ず、ずっと…?」

「……え、ああ…ま、まあ、そうだな」


一瞬、言葉に詰まった。

下心があったと告白せねばならないこの状況が大変いたたまれない。

昨日失恋したばっかりなのに、人生ハードモードだ。


「だから、部屋を今すぐ出て行け。出て行かなかった場合、ちょっとどうなるか分からないぞ」

「………っ!??」

更に来海の顔が紅く染まる。

いくら好きだとは言え、彼氏持ちの幼馴染を襲うつもりはもちろん、さらさらない。


だけど、来海の彼氏のためなのである。

長年幼馴染として一緒に過ごしたせいで、多分判断力がなくなっている来海を、正しい方向へ俺が導いてやらねばならない。

俺は好きな子が実らせた恋を、決して終わらせたりはしない。


暗に、お前を襲うかもしれない、と言っているのだ。

ここまで言ってやれば、流石に来海も気付くだろう。


『は!私は彼氏が居る身で、何てことをー!きゃー、早くこの部屋を出なくちゃっ!』と、自覚するはず。




それなのに。



「いいよ……」

「は?」

「碧くんなら、わ、私、大丈夫だから……だから、出て行かない」


予想とは正反対の言葉を返されて、俺は頭を抱えたくなった。

………。

ああ、どうすればいい。

この幼馴染の倫理観が、ここまで終わってたとは。

いや、本当にどうしよう。


はあ、と俺は息を吐く。

いや、違う。分かってないんだこの子。

俺が襲ったりしないと、本能で分かってしまってるのだ。

俺が絶対に下心を悟られまいと振る舞ってきたのが、こんなところで成果を発揮してしまった。

安心安全の幼馴染だと。


俺は、決意を固め、彼女の座っているベッドのそばに自分も腰かけた。

ベッドが沈む。

俺は来海の頰に手を伸ばす。


「……来海」

「あ、碧く、ん……?」

「ちゃんと、抵抗しろよ。今から俺がすること…」


ここまでやれば、もう分かるだろう。


大丈夫、

俺がこの幼馴染の倫理観を更生させてやるーーー





全ての話は、一昨日まで遡る。

















読んでくださって、本当にありがとうございます。

頑張って更新する所存です。



ブックマーク、高評価、大変励みになりますので、是非是非よろしくお願いいたします…!


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