第三話:灰の鳥と光の鉄路
夜が訪れると、街はさらに沈黙を深めた。
灰雲は光を奪い、月も星も見えない。廃墟の影は濃く、風に軋む瓦礫の音が不気味に響く。
ケンは崩れた壁際に身を寄せ、息を殺した。
火は起こさない。光も煙も、居場所を晒すだけだから。
彼に許されたのは、灰の冷気に耐え、時間が過ぎるのを待つことだけだった。
「ギィィ……」
耳を裂く鳴き声が闇を引き裂く。巨大な影が落ちる。
黒い輪郭、灰にまみれた羽、赤い瞳。鉄を砕くほど歪んだ嘴。
異形の鳥──地上が「死んだ」と言われる理由の一つが、いま目の前にある。
瓦礫を突き、低く鳴きながら探る気配。
ケンの心臓は喉を叩き、冷や汗が背を伝う。
息を潜めても、その小さな音すら見抜かれる気がした。
次の瞬間、赤い瞳がケンを射抜いた。咆哮。
翼が広がり、灰が嵐のように舞い上がる。
ケンは瓦礫の隙間を飛び出し、必死に走った。足場が割れ、灰が目と口に入り、羽音が背後に迫る。
その先で、青白い光が地面を走っていた。
灰に埋もれた鉄路が、淡く脈動している。
指先で触れると、冷たいはずの鉄がかすかに温もりを帯び、鼓動のような震えが伝わった。
遠い地の底から、車輪の響きにも似た音が聴こえる気がする。
異形の鳥は光を嫌うように鳴き、闇へ飛び去った。
静寂が戻る。ケンは膝をつき、光る鉄路を見つめる。
これはただの遺物ではない。生きている。
地上の心臓が、まだ動いている。
「……地上は、生きている。」
懐の時計を握りしめながら、ケンはその灯に導かれるように立ち上がった。




