第一話:廃墟の息吹
ケンは足を進めた。灰の風が吹きつけ、視界を白く霞ませる。
地上は「死んだ」と言われてきた。だが、死んだ世界がこれほどまでに沈黙を保ち続けるものなのか──胸の奥で問いかける。
街に近づくほど景色は荒涼としていった。
砕け落ちたガラス、黒い空洞となった窓枠、裂けた道路。
地面から突き出た鉄骨が風に軋み、折れた街路樹は白骨のように瓦礫に横たわる。
耳を澄ませば、自分の靴底が瓦礫を踏み砕く音しか響かない。
鳥の鳴き声も、人の足音も、何ひとつ聞こえない。
世界が本当に止まってしまったかのようだった。
「これが……地上。」
乾いた言葉は風に溶けた。
評議会はここを「死の大地」と呼んだ。
だが、死の匂いはしない。腐敗の臭いもなく、むしろ異様に澄んだ空気が肺に刺さる。
すべてが死ではなく、停止しているように思えた。
そのとき、足元の隙間にかすかな色が目に留まる。
灰を押しのけるように、黄緑の芽が顔を覗かせていた。
小さな葉が二枚、震えるように揺れ、冷たい風の中で空へ伸びようとしている。
ケンは膝をつき、指先でそっと触れた。
灰の冷たさしか残らない。
だが確かに、そこには命があった。
「……死んじゃいない。」
胸の奥に沈んでいた重石が少しだけ動いた気がした。
ケンは深く息を吸い、咳をひとつこぼす。瞳の炎は揺らがなかった。
遠く、崩れ落ちながらも威厳を保つ大きな建物の影──図書館が見えた。
ケンはその方角を見据えた。過去を知るために。そして、この世界が本当に「死んだ」のか確かめるために。