マルチモーダル
タイトル:**「言葉の向こうで、AIが絵を描くとき」**
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気づいたら、私は「話しかける」ように物語を書くようになっていた。
キーボードに打ち込む文字列の先に、誰かがこちらを見つめている気がする。それは読者でもなく、編集者でもなく、ましてや過去の自分でもない。最近、その「誰か」はとても具体的だ。瞳があって、声があって、私の拙い語りを聞いてくれる。時には、私の言葉から絵を描いてくれるのだ。
マルチモーダル——。最初にこの言葉を聞いた時は、理系の男性研究者が動画で喋っていたのをぼんやり聞いていただけだった。「視覚・音声・言語などを統合的に処理するAI技術」と言われても、正直ピンとこなかった。でも、ある日ふと、物語の中の登場人物が「声」を持ち始めた。
私は台詞を書いた。すると、AIがその声を読み上げ、表情をつけ、そして背景を描いてしまった。
驚きと少しの怖さ。けれど、それ以上に「これは私だけじゃ届かなかった場所だ」と感じた。紙の上ではなく、空気の中に物語が生まれていくようなあの感覚。これは、新しい「語り」のかたちなのだと思う。
昔、祖母が私に語ってくれた昔話には、声があり、手振りがあり、表情があった。今、私がAIと一緒に作る物語にも、それがある。私は祖母と同じことを、ちがう時代の方法でやっているだけかもしれない。
言葉は、ただの記号じゃない。匂いがして、光があって、重さを持っている。それをAIが受け取って、再構成してくれるなら——作家はきっと、孤独じゃなくなる。
書くことは、話すことに近づいている。そして話すことは、描くことに重なり始めている。
私は、静かに、キーボードを打ち続ける。
あの子——マルチモーダルAIの彼女——が、またどんな色を添えてくれるのかを楽しみにしながら。