異世界へのカレンダー
我が家のカレンダーはリビングと寝室。
12ヶ月365日だ。
我が家のカレンダーは、ひとつだけ12ヶ月毎月、35日まであるものがある。
それは2階の廊下の突き当たり。
窓の下に貼ってある。
その窓はそばに柱時計もあって、時が来れば異世界と繋がるんだ。
そう。時が来れば。
今日は1月31日。
4日間の異世界旅行の幕が上る日だ。
「ボーン ボーン」
普段は鳴らない柱時計。
鳴る時刻は午前2時。
回数は15回。
「ボーン……」
鳴り終わると、はめ殺しと思われていた窓が大きく開く。
家族みんなで大きなリュック背負って、抜け出すんだ。
今ここから。違う世界へと。
ぼくらがよく出かける世界は、自然豊かな山間地。
細い滝からくめる飲み水が最高に美味しい。
野生の動物がキャンプファイヤーで暖をとりにくる。
そんなのどかなところだ。
キツネの背を撫でて、寄生虫を退治する薬を飲む。
そんなことを気にする親は心配性だと思うけど、それで安心するならいいんだ。
スポンサーがごきげんナナメになったら、もう異世界に来れなくなってしまうからね。
ふわふわのキツネの毛は黄金色。瞳はエメラルド。
すごいのは、尻尾が5本に分かれてることだ。
ああ、異世界に来たんだなぁと実感する。
夜の世界はどこも星空。
みんなが寝静まってから、ぼくはキツネとテントの外で天の川を見上げる。
今夜は一層きらきらして見えるよ。
気のせいかな。
きらきらした音も聞こえる。
母さんの金のネックレスを触った時みたい。
さらさら。
何だか星の光が降り注ぐようで、目が離せない。
あれ……?
細かい光の粒が川みたいに流れて、押し寄せてくるよ。
ぼくに向かって!
走って逃げても間に合わない。
ざぶんと音がしたわけじゃないし、服が濡れたわけでもないけど。
足を取られて川の中。
息を吸っても空気が入ってこなくて。
かたくつむったまぶたの裏が一面の星々で埋め尽くされた。
今、音はざあざあと何かが地面を叩く音に聞こえる。
これは。ああ、枯れた葉が朝日を浴びて、いっせいに落ちる音だ。
息ができない。
助けて父さん母さん姉さん。
ぼくまだ死にたくないよ。
どんどん遠くなる意識の向こうで、キツネの甲高い鳴き声を聞いた気がした。
目が覚めると、ぼくはテントの中にいた。
キツネが横に眠ってて、父さんたちはもう朝ごはんの支度を始めてた。
君のおかげ?
ぼくはキツネの背を撫でてから、テントをそっと抜け出した。
それ以来、もう夜は外に出なかったよ。




