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王宮攻略戦

 遭遇する騎士団員たちを倒しながら進んだ。


 決して侮るわけではないけれど、対剣士という括りでいうのなら私たちは普段セイラの剣を受けているのだ。あれに比べると、すべての剣筋がおままごとのように見える。

 剣筋が見えるのなら、闇魔法を付与した魔剣でそれを受けることができる。そしたら相手の剣を〝削り取れる〟し、それで態勢を崩したところにドーンとマユナの重量を当てたなら、甲冑の上からノックアウトさせることは比較的容易い。

 もっとも、かつて剣聖五位にやったように、闇魔法で食べちゃえばもっと簡単なのだけど、ここら辺の兵士たちは魔王の配下というわけではなく、責務として王宮の防衛を果たそうとしているだけだろうから、絶対に殺さないようにしたかった。


 一方で、対魔術師は難しい。

 私たちには、人間に完全無害の魔法と、人間に致命的な魔法の二通りしか選択肢がないのだ。殺さずにやりきるには、やっぱり剣で戦うしかない。

 屋外ならまだしも、屋内に入ってからはレンジの差でかなり苦戦した。

 進路の限定された廊下で中長距離から魔法をバンバン撃たれると、受けに回らざるを得ない。

 もちろん私は普段、魔法の大天才のメイやリュカと練習しているのだから(ロス先生にも習っているけど、それはこの人たちの多くも習っていただろう)、一対一なら闇魔法を使わなくても勝てる自信はある。けれど、この後に魔王戦を控えているのだ。こんなところで魔力を消耗したくない。


 ……なんて思っていたらズルズルと戦いが長引いて、どんどん人が集まってきて、さらにズルズルと戦いが長引いていくという悪循環を引いてしまった。

 こんなことならさっさと全力を出していた方が効率が良かったな。そしてこの思考はかなり負ける側のソレっぽいからよくないな。


 なんとか中庭に出たものの、それはそれで周囲をぐるりと魔術師たちに囲まれてしまう。

 二階にも杖を構えた人たちがいる。

 前衛に騎士団の残りがやってくる。

 幸いにして、全員が私たちの一挙手一投足を見落とすまいとこちらを見ているから、ステラで目を潰して、それから――……。


 チリ、と空間に細く短い光が走った。


 私たちを取り囲んでいたほぼ全員が、一斉に崩れ落ちる。

 エルミナがこちらを見ているけれど、私ではない。

 この魔法は――。

「メイに送り出され、ました。私が一番輝けるのは、この舞台だって」

「ライカ!」


 電撃を防いだ勘の良い残りの魔術師を、エルミナがマユナを使って即座に潰していく。


「行ってください。ここ私が、対処します」

「感謝しますわ。ライカ・フォン・ライエン」

 エルミナが声量を絞って口にする。

「エルミナさまも、いつか、ライエン領に遊びに来て、ください。歓迎します」

「ええ、きっと」

「ありがとね!」

「ん」


 空間に迸る雷を見ながら、先へ進む。

「有事の際の王国規定によると、現在の状況下では、国王と宰相はこの先の部屋に集まることになっていますわ」

「あれですね!」


 扉の前にいた近衛兵を、マユナでガツンと跳ね飛ばす。

 もちろん扉には鍵がかかっていたけれど、幸いにして竜のウロコではなかったので、闇魔法で削り取ることができた。


「ごきげんよう、魔王様。久方ぶりですね」


 何人かの近衛兵に守られた先に、王妃、宰相、宰相夫人、カトレア卿がいる。

「貴様、どうやって牢を!」と近衛兵が叫ぶ。


 この段階で、良い報せと悪い報せがある。

 良い報せは、宰相夫人――魔王がこの場にいてくれたこと。

 もし魔王がユナちゃんを殺すことを前提に宰相夫人の皮を捨てていたなら、どこか遠くへ逃げられていた可能性もあった。だけど、まあいるだろうなという気はしていた。この広い王国で、一人の人間を探そうとするのなら、宰相夫人という肩書はまだあった方がいい。そしてそれ以前に、この魔王は私を舐め切っている。


 悪い報せはもちろん、護衛の中にカトレア卿がいることだ。

 あー、カトレア……カトレアがいるのか。

 これは生還可能性が一桁にまで落ちた。

 この部屋に入るまでは一割以上はあったはずなんだけどな。

 なんで扉を壊しただけで死ぬ確率が上がるのだろう。


 ……どうだろう。私が魔王で、エルミナがカトレアとやるのと、あるいは担当を逆にするのと、どちらが勝率が高いのか。たぶんエルミナも今同じことを考えている。


 キラリと何かが視界にチラついたのを感じたとき、左側から入った刃がそのまま肉と骨を断ち切り、右側に抜けていった。

 ぞくりと背筋に悪寒が走ったときにはもう遅かった。


 私の頭部は一切の疑いの余地なく、――胴体から完璧に切断されていた。

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