まんじゅうになる
温泉街で一番美味しかったのは、聖女まんじゅうだった。
みんなは知らない間に自分がおまんじゅうになってたことある? 私はあるよ。
饅頭の焼印が聖女のシルエットになっていた。聞いたところによると、去年王都からやってきた聖女様が近隣の魔物地帯を祓ったことで、街に活気が戻ったからということらしい。
なんだかちょっと涙が出た。
私が過去生で無理やりやらされていたことでも、それで助かっていた人たちがきっといたのだ。
「ちなみに、この印を考えてくださった方が丁度いらしてまして……」と焼いている人に言われてお店の奥を見ると、見知った顔がおしゃべりをしをしていた。
目が合う。
私の感動を返せー!
「んふぁれ、ふぇんはい!?」
メイが喉を詰まらせながらこちらを見る。ライカがお茶を飲ませている。
「やあ」
「ごきげ…………こんにちは」
先輩が〈聖女〉として来ていないことを私は察しましたよ、という意図をもってメイが挨拶をしてくれる。できる後輩、略してでき輩だ。
「あら、ライカとメイじゃありませんの」
近くの店を見ていたエルミナが戻ってきたので、四人で外に出た。
メイたちには目的地があったらしいので、話がてら同行してみることにする。
「今ってもう学園はお休みの時期なんだね」
「そうですよ。一年生ももうすぐ終わりです。学院はどうでしたか? 魔物騒動があったと聞きましたが、聖女様がどんな活躍をしたかがたぶん伏せられていて、知りたいです!」
「それが全然活躍してなくて」
「またまたあ。……………………?」
「…………してないよ、活躍」
「え!?」
「………………」
「そっか……」
「メイ、魔獣がたくさん出て、それを聖女なしで対処できたというのは、聖女が活躍するよりもすごい」
ライカがフォローを入れてくれる。悪いね、私たちがあっさり騙されて自ら穴に落ちたばかりに……。
代わりに二人には、魔法を使った後に色が変わるネココの魔法杖を見せてあげた。
「わわ、いいな。光と闇以外でも色が変わるんですかね」
「使ってみる?」
メイとライカがそれぞれ小さく魔法を使ってみる。いずれも色は変わらなかった。
「光か闇魔法じゃないと駄目ってことですかね? どういう仕組み?」
それに関してはユナちゃんも散々試験した挙句、匙を投げていた。私は割と「そういうもの」として受容しちゃうのだけど、気になる人もいて、きっとそういう人が学院進学に向いているのだろう。
「そういえば魔法陣ができるようになったよ」
八つの小さな光の魔法陣を自分の周囲全方向に展開してみせる。メイに見せたかったんだよな。
「おお、やりましたね、先輩! 陣が小さい方が難しくないですか?」
「そうそう! あるサイズから急に難しくなるよね」
「私も先輩にもっと上手に教えられるかなと思って色々やってたら、なんか自分が上手になっちゃって」
メイが掌の上に極小の魔法陣を展開する。面同士を立体的に組み合わされた二十の魔法陣は、まるで一つの球のように見えた。
「うぐっ……」
「さすがにこれは魅せ魔法なんで、全然使いどころないんですけど」
このやりとりに教訓を見出すとするなら、「何事も自分よりも上手にこなす人がいる」ということかもしれない。変に張り合わずに自分にできることを頑張っていこう。ね、エルミナ様。
「学園は変わりなくて?」とエルミナが尋ねる。
「そうですね。学園は問題なく。スラムでは何度か魔獣が出ましたが、騒動になる前に私とライカで処理しました」
「立派な聖女ですわね」
「うんうん」
「むふん」
「メイ、王子の話」とライカが口にする。
「そうだ、お二人が不在の間にエディング第二王子とリーズ様がいい感じになってたんですけど、大丈夫ですか? あの王子ってエルミナ様の婚約者ですよね?」
「かわいそうなリーズ様……」と私。
「それで王子はネリー様ともそんな感じに距離が近くて。リーズ様とネリー様は下の学年から見てても仲良しだったのに、王子を巡って仲違いをされたみたいで……」
私はエルミナの生態に詳しいからこの時点でピンときた。そんな私の顔を見て、エルミナが可笑しそうに尋ねる。
「ステラの見解を聞かせてくださる?」
「これは悪のエルミナが、お二人に仲違いのフリをさせてますね。ロープだって左右から引っ張っているときが一番安定しますから」
「それって具体的にはどんなメリットがあるんですか?」とメイ。
「場をコントロールしやすくなるんじゃない? 目に見えた対立軸があると、人ってまずは自分がどっち側につくかを考えちゃうから」
「あなたってわたくしに詳しいのね」
「なにせ光と闇ですからね」
「なら気にしなくていいんですね。学園では、エルミナ様が婚約破棄されるのでは、みたいな噂も出ていたから少し心配していました」
私の婚約破棄破棄もこんな風に組まれていっていたのだろうなと思うと、実に感慨深いものだ。




