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あなたは入学の資格を得る

 今までの聖女人生では、学園入学前に聖女検査のようなものがあった。


 聖女判定が出た人間が、思想的に危険ではないかとか、反貴族的な活動をしていないかとか、そういう口頭試問である。そうはいっても国も魔物対策として、数十年ぶりに印の出た「聖女」というカードは絶対欲しいから、書類上だけの形式的なものであったと思う。


 それがどうしたことでしょう。


 呼び出されてのこのこと貴族門まで行った結果、騎士団と魔術師団にめちゃくちゃ囲まれています。めちゃくちゃ助けてほしい。


 連れていかれたのは、王宮に一番近い教会だった。ローブを被った女性が祭壇に座っていた。


「ごくろうさま。あなた方は下がって」

「いや、しかし」

「ごくろうさま。あなた方は下がって」

「……かしこまりました」


 圧をかけられて、騎士団と魔術師団が教会を出る。

 私のわきには二人だけ。ローブの下に片方は剣、片方が杖が見える。


「どうぞ、お座りになって」


 言われるがまま、礼拝用の椅子に着席する。私の左右についた二人は立ったまま警戒を怠らない。

 誰もしゃべらない。


「なにか御用でしょうか?」


 沈黙に耐えかねて、自ら言葉を発する。「政治をしないぞ」と「敵を作らないぞ」の二つを繰り返し自分に言い聞かせる。


「ステラさん。あなた教会を夜にしたそうですね? もう少しマシな報告がないものかと探しましたが、みなさん口を揃えて『あれは夜だった』とおっしゃる」

「確かに、あれは『夜』でした」と杖の方のローブが答えた。


 きっとあの場にいた魔術師の誰かなのだろう。


 魔術師が手のひら大の球を取りだす。聖水晶だ。

 ここは教会。ということは鑑定が可能なはず。

 求められていることを察して、手をかざす。


 普通の白い光に戻ってるかも、という期待と裏腹に、教会内がごく当たり前のように夜になった。


「……うつくしい」と女が小さく口にしたのが聞こえた。


「星は聖水晶から投影されているようです。影絵のような原理かと推測します」と魔術師が言う。

「つまり?」と女が先を促す。

「聖女であること、白銀等級であることが分かります」

「それはまあ、そうでしょうねえ」と女が頭上を仰ぐ。ローブが落ちて顔が見えた。


「~~……っ!」


 絹糸のような金色の髪。怜悧を称えるワインレッドの瞳。肌は澄んでいて精巧な人形のようでありながら、どこか情熱を持て余している。


 四大公爵家の中でも最有力。あらゆる貴族がその名を讃え、あるいは畏怖し、忌避する名門グルナート家。父は宰相。自身は第二王子の婚約者。魔力に秀で、策謀に優れ、婚約破棄を破棄し続け、私の死後頂点へと昇り詰めているであろう女。エルミナ・ファスタ・ツー・グルナート!


 ……たぶん顔には出なかったと思う。そう、私がこの人生で彼女の顔を見るのは初めてのはずなのだ。


「初めまして、ステラさん。エルミナと申します」

「初めまして、ごきげんよう」


 家名を名乗らない辺りが政治をやりにきているなと感じて、それなりの感じで応答する。


「わたくしもね、今年で十四になりますの。だからあなたとは同じ学び舎に通うことになりますのよ」

「でも平民と貴族は離れた別校舎だって聞きましたけど」

「あら、あなたはわたくしと同じクラスになりますわ。そういう気がします」

「そういうものなんですね。ステラです。家名はないのでただのステラです。よろしくお願いします」

「わたくしあなたのような美しい所作の平民って初めてお会いしましたわ」

「町中の平民とお話しされたなら、きっと結構いると思いますよ」


 ……やばい、好戦的になりつつある。感情の抑制を心掛ける。


「至らぬ点も多々あるかと思いますが、もし同じクラスになりましたら色々ご教示いただけますと幸いです」

「あら、あなたのためにわたくしになにかしろとおっしゃる。わたくしになにかメリットでも?」

「さあ、あるんじゃないですか? わざわざこんなところに呼び出すくらいですし」

「そう。もういいわ。お帰りになって。学園でお会いできるのを楽しみにしています」

「はい、私もです。それでは失礼いたします」


 というわけで学園に通うことになった。

 わたくし学園に通うことになりましたわ~!

 えー、吐きそう。


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