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お留守番チーム

「姉さんたちが行方不明?」

「そう。私は途中で離脱したんだけど、その後誰も見てなくて……」

「ロジストさんは?」

「正確には最後にお二人を見たのがロジストみたい。私と同様、途中でほかの人間を助けに向かって負傷したとかで、今は治療を受けてる」

「報告ありがとうございます。分かりました。こちらは大丈夫なので、スオウさんもお気をつけて」

「ありがとう。ユナさんとセイラさんも」

 そう言って、スオウが小走りで戻っていった。


「どう思いますか?」と扉にしっかりと錠を下したユナさんに尋ねられる。

「どこかで交戦中の可能性が高いかと」

「ですね。姉さんがアカリを上げないということは、地下で戦っているか、私たちを必要としていないかだと思う。もしこれらが策謀だとしたら、今の最悪は首謀者に私が人質に取られて姉さんたちの自由度が落ちることだと思う。というわけで、よろしくお願いします」

「はい。この命に代えても」

「ふふ、私たちは今朝ちゃんと寝ておいて良かったですね」

「あの馬車の爆発のときからこの展開の可能性を見ていましたか?」

「まさか。単に本当に体力の限界だっただけですよ。うちの姉は自分の体力を過小評価しすぎなんです」

「それは……私もそう思います」

「良かった。そうですよね。たまにこの国の人みんながあんなに体力あるのかなって不安になるときすらあって」

「あの方は眩しいですからね」

「本当に」



*****



 ユナさんは不思議な人だ。

 ステラさんとエルミナさんは、皇族を見ていた私から見てもあらゆる面で高い水準にある。高潔で、求心力があり、機知と思想に富み、我と悪さも備えている。それは太陽のような存在感であり、冬の朝のような冷たさだ。ある日急にお二人がこの王国の統治者になったとしても、三日もあればそれが自然なことであるように感じられるだろう。いうなれば皇帝(おう)の器を持っている。

 一方でユナさんはそうではない。威光的な派手さはなく、主張も強くない。

 だけど、ステラさんの行動の重心には、ユナさんの存在があるように私には見える。それに伴い、エルミナさんの重心にも大きな影響を与えている。振り子の中心線のように、化け物じみたお二人が遠くに行きすぎてしまわないための回帰点としてユナさんが機能しているように見える。


「それは流石に言いすぎですよ」

 ステラさんの魔物討伐に同伴した際に、温泉に浸かりながら彼女が答えた。「でもなんででしょうね。他人のはずなのに、エルミナさんも姉さんもとても良くしてくれていて、私は純粋にありがたいなと感じています」

「ユナさんがリムを発見したと聞きました。そういった面がきちんと評価されているのではないですか?」

「うーん、どうかな。二人はきっと、私が仮に何の役に立たなかったとしても、きっと大切に扱ってくれますよ。そういう人たちなんです。やり方はちょっとアレなところもあるけど……、あの人たちは単に人間を愛しているのだと思います。……いや、これは『聖女』という言葉に引っ張られすぎかな? まあ、二人が楽しそうだと、私も嬉しいし役に立ちたいと思うという話です」

「伝わってきます」

「それは良かった」

 ユナさんがこちらを向いて笑う。


 〈里〉で育った私は、試し斬りのための遊び道具だった。切り傷は火によって塞ぐ慣習だったから、成人した今でも、私の胴体は爛れた皮膚や数多の切り傷、斬り落とされた乳房などから構成されている。

 だけど、ユナさんはそのことに一度も触れてこない。正確には、最初に入浴で初めて裸体を晒したときに一度だけその視野は情報処理のために私の身体の上を滑った。しかし、彼女の知覚はそれを情報処理の層で押しとどめ、ついぞ反応レベルに表出させることはなかった。私も多少は刀が使えるから、意識される前の情報を意識されない理性の内で殺しきることの偉大さが分かる。だからそのことに強い好感を抱いた。


「たぶん私は姉さんの最大の弱点だと思います。姉さんは本当にすごい人で、きっとこの世界を変えていく。だからこの先、彼女の高潔なその意志が、彼女以外のなにものかに捻じ曲げられることがないように、どうか私をよろしくお願いします」

 元々、ユナさんの護衛をさせたい目的で私を助けたとステラさんから聞いている。

 だけど、そんな依頼がなくとも、これからの私はこの人のために刀を振るうだろう。

 私はこの人を、守りたいと感じる。

「ええ、誓います。この命に代えても」

「ありがとうございます」

 あなたも十分に高潔な人だと、私は思いますよ。

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