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Two-wand Style

 帰る前に、空洞内の色々を見せてもらった。今後しばらく「不思議」という言葉を耳にするとき、私はこの空間を思い出すだろう。


 どうせ誰も元聖女様の顔なんて知らなのだから一緒に出ていかないかと誘ってみたけれど、丁重にお断りされた。自分はすぐに死ぬ身だから、どうせなら誰にも迷惑をかけないこの場所で死後魔人になりたいということだった。長年魔物の相手をしていると、自分が死後どういう魔物になれるかという興味が湧いてくるものらしい。本当に?

「強い魔人になれるように頑張るから、次来たときは二人で協力して私を祓ってみせて」と言われた。この人は昔からこんな感じだったのか、一人でずっと洞窟の最奥で暮らしていたからこんな感じになったのか、一体どっちだろう。


 当初の目的だった魔樹の枝はしっかり回収できた。聖魔法特化の魔石内蔵杖をもらったけれど、もっとカジュアルに光と闇の両方を使える杖はやっぱり欲しいよねという話である。魔法杖屋の娘のネココが加工したがっていたと話したら、たくさんくれて嬉しかった。


 ついでに即席魔石も作ってもらった。何十年も魔石加工をしていると、簡単な効果の魔石ならその場で作れてしまうらしい。先日エルミナと購入した安物のネックレスが、見た目そのままにあっという間に魔石になった。店員さんへ、「ただの綺麗な石」でなくしてしまってごめん。

 契約魔石の簡単アレンジ版のような仕様で、使用者限定で嘘を見抜けるという効果だった。つまり私が私の石を握って私が私に嘘をついたときだけ割れるという効果だった。そこに実利的な意味があるのかと問われるとたぶんないのだけど、曰く、その無意味さに意味があるらしい。「ただの綺麗な石」と少し思想が似ているかもしれない。要するに、元聖女として私たちになにかしてあげたかったのかな、と私は思った。


 最後のお土産は大本命で、白銀等級の契約魔石だった。しかも2個!

 伯爵位くらいまでだったらこれで買えてしまう。

 正確には、ある依頼に対する前報酬という形だったけど、白銀等級の貴重さを考慮すると、実質タダでもらったようなものだ。

 簡易アレンジ契約魔石と喜び方が違うと失礼かなと思って表立っては顔に出さなかったけれど(「あなたにもそういう感覚がありましたのね」)、正直かなり盛り上がった。意中の相手に綺麗な石を贈る習慣は貴族にも平民にもあるけれど、もしあなたが絶対に相手が喜ぶプレゼントを選ぶ必要があるのなら、白銀等級の契約魔石を選ぶとよいでしょう。

「わたくしは文脈なく贈られたなら、警戒の方を強めますけど」

「そういえばエルミナがこれまでに貰ったことのある相手ってソフィ会長とヨハン殿下でしたね」

「ヨハン殿下はどちらかというとあなたに贈ったのではなくて?」

「……うわ、全然嬉しくない」

「でしょう?」

「でも今回は生産者直々のお裾分けですからね」

「それはまあ、そういうものですわね」

 という会話を地上に戻ってからした。


 私たちが(エルミナが)落下で降りてきた道のりを戻るのは本当に大変そうに思えたが、なんと元聖女様が風魔法で荷物を置いてきた階層近くまで、昇降機の要領で吹き飛ばしてくれた。

 私は楽しかったけれど、宙を吹っ飛んでいる間のエルミナは驚くくらい目が死んでいた。私の腕を掴んだエルミナの指の痕が三日間は消えなかったくらいだ。ドラゴンの背中とかこういう浮遊系が苦手だということが分かってきた。おそらく王国内でエルミナのこの弱点を知っているのは私だけだから、大切に取り扱っていきたいなと思う。


 入り口まで戻ってくると、すっかり日が暮れていた。

 入るときにギャンブルをやっていた警備の二人は気持ちよさそうに眠っていた。警備体制に問題があるように思うけど、洞窟から魔物が出てくることはないはずだから、寝ていて問題になることはないだろう。

「聖鉱石は学院の人間には知られたくないので、すぐに王都に送りますわ」

 つまり私たちは元聖女にも会っていないし、聖鉱石も見つけていないし、契約魔石や聖魔石杖ももらっていない。この洞窟で得られた成果といえば、魔樹の枝くらいだ。


 後日、ネココのところで魔樹を加工して、光兼闇用の魔法杖を作ってもらった。

 私は元々、杖なんてそこら辺の枝で充分と考えていたタイプだ。しかしプロの杖職人が自分の手に合わせて作ってくれた杖は格別だった。握った瞬間に、生まれたときからこの杖を握っていたのではないかと思うくらい手に馴染んだ。鞘に剣が収まっていることが自然であるように、この杖もまた自分の手の中に収まっていることがとても自然であるように感じられる。試しにエルミナのも握らせてもらったけれど、そちらに対しては全然そんなことを感じなかったから、きっと職人の腕なのだろう。


 杖のギミックも楽しかった。普段は薄茶の木の色だけど、光魔法を撃つとしばらくの間杖が白く変色し、闇魔法を撃つと今度は黒く変色する。しばらく放置しておくと、薄茶色に戻る。おそらくリムの中で魔法が反射するのと同じ仕組みなのだと思う。あるいは魔法都市の通貨代わりに使われている色魔法。杖の中に魔法の色が残るイメージだ。杖の中で発散した魔法が先端に集束し、出力されているのを感じる。学院のリム研究で学んだ「光魔法をうまい具合に反射させると一点で加速する」が杖の中で起きている気がする。


 そういう風に理解すると同じ魔力消費でも、出力の威力が一段階上がった。包丁は引くときに切れるものだと知っておくと食材を切りやすくなるのと同じように、理屈が腑に落ちることで道具のパフォーマンスを最適な形で引き出せるようになったのだという感覚がある。これはある種、「貴族が魔法を使えるのは血統云々ではなく、単に幼いころから教わっているから理論」と通ずるところがあるかもしれない。

 こうして私は元聖女からもらったものと合わせて二本の杖を手に入れたわけだけど、使い分けに悩む必要はなさそうだった。

 なぜなら、元聖女の魔石内蔵杖は人に向けていい代物ではなかったから……。


 人のいない野原でステラの試し撃ちをしてみたところ、あまりの光量に私もエルミナもしばらく目が見えなくなった。五倍の威力どころではない。誰とは言わないけど、これ作った人馬鹿なんじゃないの!?

 私たちは自分の身体を治癒できるから良かったけど、これを人間密集地で撃ったなら、投獄されて冷たいシチューを舐めることになっても全然納得する。聖魔法の大きな利点であると私が考えるところの、「人間に害なく魔物だけ滅する」の機能が完全に死んでいた。誰とは言わないけれど、これを作った人は絶対に貴族内での立ち回りが下手くそだったと思う。


 加えて、ぎゅいんと魔力を持っていかれる感覚があって、反動で私は翌日丸々寝込んだ。制御できずに魔力の抜けていく感触が、過去生で魔力暴走したときに似ていたから本当に焦った。ステラが杖先から出ていくその瞬間に、結構真面目に「ああ、今回の人生は良かったな……」と回想したくらいだ。そりゃあ確かにすごい杖だけど、将来的に「神器」「聖遺物」「アーティファクト」と呼ばれるようになるやつだとは思うけれど、この杖を使って得られる利益は、この杖を使うことで発生する損失よりもはるかに小さいと思う。

 というわけで封印!

 絶対封印!

 こんなものは王都に戻って封印でーす!


 相対的に、普通に良い魔法杖を作ってくれたネココ職人のことが好きになった出来事だった。


 因みに、これまで使っていたボロ尖り杖を捨てようとしたら、「姉さんのそれを欲しがる人は多いと思う」と主張されてユナちゃんにあげた。確かに、私もエルミナのお古の杖だったら使わなくても欲しいもんな。

「なら、わたくしのもユナにあげますわ」

 とエルミナもこれまで使っていた杖をユナちゃんに握らせる。

 ここに光と闇、二つの属性を汲む二刀流の妹が誕生した!

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